基礎から学ぶPMBOKの考え方【専門家が教えるPMBOKの理論と実践 第1回】

PMBOKは世界標準のプロジェクトマネジメントの知識体系をまとめたガイドです。この記事では、専門家監修のもと基礎から解説。「価値実現システム」など、重要な概念がわかります。

どうすれば、システム開発プロジェクトを成功に導けるのでしょうか?
その第一歩はプロジェクトマネジメントの体系化された知識を学び、実践すること。この世界的なガイドブックがPMBOK(ピンボック)です。

そこで本稿では、PMBOKの要点を基礎から解説。これからプロジェクトマネージャーをめざす方にも、わかりやすくお伝えします。記事の監修者はRidgelinez(戦略から実装まで支援する総合プロフェッショナルファーム)のプロジェクト経験豊富なエキスパートたち。同社の尾形順一氏は、日本プロジェクトマネジメント協会および大学の講師も務めています。PMBOKの考え方を理解して、プロジェクト管理のレベルを上げましょう。

PMBOKとは何か?

PMBOKの概要

「PMBOK」はアメリカのプロジェクトマネジメント協会(PMI)が発行するガイドブック、およびフレームワークの総称です。プロジェクトマネジメントの知識体系(Project Management Body of Knowledge)や優れた実務慣行(Best practices)などがまとめられています。

アメリカのみならず、プロジェクトマネジメントの知見は世界中で体系化されています。PRINCE2(イギリス)やP2M(日本)も有用ですが、実質的な世界標準はPMBOK。いまでは参考書の域を超えて「プロジェクトマネジメントの教科書」と認知されています。

読者対象はプロジェクトにかかわる人すべて。経営者もプロジェクトメンバーも学ぶべき内容です。

PMBOKの変遷

はじめてPMBOKが発行されたのは1996年。そこから改訂をくりかえし、2021年に第7版が発行されました。以前の第6版と比べると構成がシンプルになり、以下の点が大きく変わっています。

  • 「プロセス」ベースから「原理・原則」ベースへ
  • 「成果物」ではなく、「価値」を重視

第6版では「立ち上げ」「計画」「実行」といったプロセス群ごとに、具体的な方法論が記されていました。これらは実務支援に効果的ですが、計49個ものプロセスを理解する必要がありました。そこで第7版では、汎用性の高い12項目の原理・原則を重視しています。

この原理・原則は、IT業界のシステム開発に限定されたものではありません。新薬の研究開発、自動車の製造、ビルの建設など、あらゆる業界のプロジェクトに当てはまります。規模の大小も問いません。ウォーターフォール(予測型)やアジャイル(適応型)など、あらゆる開発アプローチに適用できます

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成果物と価値の関係

この原理・原則のひとつに「価値」に関する項目が盛りこまれました。詳細は次回に譲るとして、ここでは「成果物」と「価値」の関係を明確にしておきましょう。

成果物と価値の関係

「成果物」とは、プロジェクトの最終的な結果として完成したものです。仮にゼネコンがマンションの建設を請け負う場合、マンションそのものが成果物。建物を完成させれば、受託責任は果たされたことになります。しかし、その時点で本来の目的は達成されていません。

それは成果物であるマンションに人が住み、所有者・入居者・関係者らがベネフィット(便益・利益など)を得ること。その段階ではじめて「価値」が生まれます。したがって、プロジェクトマネジメントは成果物の提供ではなく、価値の実現を重視すべき。PMBOKの第7版では、このような方向に舵を切りました。これはPRINCE2の考え方から影響を受けています。

PMBOKのポイント

基本に忠実に

PMBOKは約30年の歴史をもつプロジェクトマネジメントの教科書です。その蓄積を軽視せず、まずは基本を忠実に守ってください。これは武道や芸道で「守破離」の段階を踏むのと同じ。基本の型を身につけないうちに、我流のアレンジをするのは危険です。

世界共通言語

MBAがビジネスエグゼクティブの常識であるように、PMBOKはプロジェクトマネージャーの必須知識です。もはや、プロジェクトマネジメントの世界共通言語と呼んでもいいでしょう。このスタンダードを理解すれば、グローバルなプロジェクトマネジメントも可能です。

相互補完関係

PMBOK・PRINCE2・P2Mなどのプロジェクトマネジメント標準は、それぞれ相反するものではありません。たとえば「価値」の重視において、PMBOKはPRINCE2の影響を受けています。その一方、PRINCE2には「他の優れたプラクティスを参照」という文言が散見されます。これは「PMBOKを参照してください」という意味です。

価値実現システム

「価値」とは何か?

PMBOKにおける「価値」とは、経済的価値だけではありません。その重要性や有用性、環境への貢献など、さまざまな社会的価値も含まれます。また、ステークホルダー(利害関係者)によって価値の認識は異なります。

この「価値」を軸にすると、プロジェクトを含む組織・団体を“価値を生み出す仕組み”として捉え直すことができます。その仕組みを「価値実現システム」と呼びます(下図参照)。

価値実現システムの例

外部環境とは、市場の状況や法的制約など。内部環境とは、組織の文化やガバナンス、メンバーの能力などをさします。その中に「価値実現システム」があります。一般企業の場合、自社にサプライヤーや協力会社などを加えた一群が「価値実現システム」です。

価値実現の構成要素

価値実現システムは、以下4つの要素で構成されています。

  • ポートフォリオ
  • プログラム
  • プロジェクト
  • 定常業務

具体的な業務をイメージしやすくするため、下から順に説明します。システム開発会社の場合、保守・運用が「定常業務」、開発が「プロジェクト」に該当します。そして、複数のプロジェクトを束ねたものが「プログラム」。それらを集約したものが「ポートフォリオ」です。

「プログラム」「ポートフォリオ」という概念はわかりづらいかもしれませんが、それぞれをマネジメントする知識体系が存在します。ここでは価値実現システムの全体像と各要素の位置づけを理解すれば十分でしょう。

情報の流れ

価値実現システムを効果的に機能させるためには、組織内の情報共有が欠かせません。PMBOKでは、トップダウンとボトムアップ双方向の情報の流れが推奨されています(下図参照)。

情報の流れ

上級管理職とは、取締役や部長職などのマネジメント層。トップダウン型の情報の流れでは、ポートフォリオを管掌するマネージャーに「戦略」を示します。その戦略をもとに、同職が「望ましい成果・ベネフィット・価値」をプロジェクトマネージャーに伝達。そして「サポートとメンテナンスのための情報を含む成果物」を定常業務の担当者に提供します。

つまり、組織の階層にそって情報をブレイクダウンしていくのです。これは当然のようですが、往々にしてプロジェクトと定常業務は分断されやすいもの。継続的な情報共有が不可欠です。プロジェクトマネージャーは「更新・修正・調整のための情報」を吸い上げて、上司に「パフォーマンス情報と進捗」を伝えてください。

“プロダクト”マネジメント

プロジェクトの本質を理解するためには“プロダクト”マネジメントについて知っておく必要があります。それは製品のライフサイクル(導入・成長・成熟・衰退)の中で、効果的にプロジェクトを立ち上げること。必要なのは開発プロジェクトだけではありません(下図参照)。

プロダクトライフサイクルの例

たとえば、ある製品の「成長」「成熟」期においては、機能追加や改良などのプロジェクトが求められます。その後の「衰退」期には、製品を市場から撤退させるためのプロジェクトが立ち上がります。このような一連の過程を考慮に入れて、参画するプロジェクトの特性を理解しましょう。

PMBOKには、これらすべてのプロジェクトに共通するマネジメントの原理・原則が示されています。くわしくは次回に――。

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この記事に関するよくある質問(FAQ)

PMBOKはプロジェクトマネジメントに関する知識体系(Project Management Body of Knowledge)をまとめたものです。同分野の標準的な方法論として、世界中で利用されています。

基本構成と重点事項が違います。第6版は「プロセス」、第7版は「原理・原則」をベースに構成されています。」そして、第7版では「成果物」よりも「価値」を重視する点が最大の違いです。

独学も可能ですが、内容が幅広いので大変です。PMPなどの資格取得をめざす場合は、セミナーや研修の受講をおすすめします。

PMBOK資料 <お役立ち資料>
Lychee RedmineでできるPMBOK

この記事で紹介した「PMBOK(ピンボック)」と、Lychee Redmineの活用方法を結びつけて解説した資料です。

この資料でわかること
  • プロジェクトマネジメントの基本概念
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監修者プロフィール

尾形 順一 氏

Ridgelinez株式会社
Technology Group Director 尾形 順一 氏

プロジェクトマネジメントおよびアジャイルDevOpsの専門家。日立製作所、デロイトトーマツコンサルティングなどを経て現職。大規模アジャイルおよびアジャイルシフト、DXにともなう組織的変革管理(OCM)において、数多くの実践経験を有する。日米欧のプロジェクトマネジメントおよびアジャイル標準に精通し、日米欧3団体の最上位認定を保有。企画・要件整理・設計・開発・テスト・運用・内製化まで、実践型の伴走を行う。これまでに40件以上のプロジェクトマネジメントを経験。日本プロジェクトマネジメント協会のPMBOK講座のほか、私立大学でもプロジェクトマネジメント論の講師を務める。

【保有学位】
経営管理修士(MBA)、国際情報通信修士(MS)

【保有資格】
日本プロジェクトマネジメント協会 プロジェクトマネジメントスペシャリスト、PMI PMP(Project Management Professional)、AXELOS PRINCE2 Practitioner、その他、日米欧6団体のアジャイル認定など20種類以上

白田 智明 氏

Ridgelinez株式会社
Technology Group Senior Consultant 白田 智明 氏

富士通システムソリューションズに入社後、フィールドSEとして流通業や運輸業などの基幹システム再構築プロジェクトに参画。富士通へ転籍後、プロジェクトマネージャーとして、総合商社・専門商社の基幹システム再構築プロジェクトを担当。2021年、アジャイル開発プロジェクトの実践経験を活かし、部門全体のアジャイル普及に向けた商談プロセス・商材の標準化や、アジャイル研修の設計・作成と講師などの活動を行う。2024年より現職。

【保有資格】
IPA 基本情報/応用情報/プロジェクトマネージャー、PMI PMP(Project Management Professional)、TOGAF9(Foundation/Certified)、SAFe®6 SPCなど、他多数

竹内 健 氏

Ridgelinez株式会社
Technology Group Manager 竹内 健 氏

大手IT企業でパッケージ導入のプロジェクトマネージャーを皮切りに、経営指標の可視化プロジェクトなどに従事。PwCコンサルティングや日清オイリオグループでは、ウォーターフォール開発からアジャイル開発への移行を推進。経営指標、営業、生産、研究まで幅広いビジネス領域でアジャイル手法を導入・改善。これまでに20件以上のアジャイルプロジェクトを成功に導く。また、17名のチームを率いる課長として、コーチング、プロジェクトマネジメント、営業支援、コンサルティング、研修講師の役割を兼務。500時間以上のコーチング経験を活かして、組織改革をリードした。特にアジャイル開発を活用した組織変革において、確かな実績を積み重ねる。

【保有資格】
Scrum Alliance 認定スクラムプロフェッショナルスクラムマスター(CSP-SM)、Scrum Alliance アドバンスド認定スクラムマスター(A-CSM)、Scrum Alliance 認定スクラムマスター(CSM)

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