スプリントゴールを設定しても、作業リスト化してしまったり、途中で方向性が揺らいだり、レビュー時に示すべき成果が曖昧になる…こうした問題は多くのスクラムチームで発生します。
これは、スプリントゴールが意思決定の基準として十分に機能していない典型的な兆候です。
本記事では、スプリントゴールが形骸化する要因を整理した上で、機能するゴールの原則、具体的な設定プロセス、良い例・悪い例、各スクラムイベントでの運用方法までを徹底解説します。
スプリントゴールを実効性のある指針として使いこなすための、実践的で再現性の高い知見を提供します。
スプリントゴールとは?

スクラムにおけるスプリントゴールは、チームが何を達成すべきかを明確にする重要な役割を担います。
本章では、その基本的な定義と役割、さらにチームにもたらす価値について解説します。
スプリントゴールの定義(スクラムにおける位置付け)
スプリントゴールとは、スプリント期間にチームが「最終的に何を実現すべきか」を示す目的です。スクラムではスプリントプランニングで必ず設定されるもので、スプリントバックログと並ぶ主要な成果物として扱われます。
このゴールが示すのは、作業内容(What)ではなく、そのスプリントで価値を生む理由や目的(Why)です。ユーザーやビジネスにどんな価値を届けるかといった視点で定める点に、本来の役割があります。
目的が明確であれば、スプリント中に課題や変更があっても、チームは「ゴールに照らして何を優先すべきか」を判断できます。こうした一貫した判断基準があることで、チームは迷いなく自律して行動できるのです。
なぜスプリントゴールが必要なのか
スプリントゴールがあることで、チームは何に集中すべきかが明確になり、スプリント中の判断がブレにくくなります。
| メリット | 具体的な効果 |
|---|---|
| 集中と協力が生まれる | 各作業がゴールにどうつながるか理解でき、無駄なタスクに流れにくい |
| 判断が速くなる | 課題が起きても「ゴールに必要か?」で優先順位を決められる |
| 関係者との認識が揃う | 「このスプリントで何を達成するのか」を共有しやすく、合意形成がスムーズになる |
スプリントゴールは、チームの動きを整え、スプリント全体を健全に進めるための基準点として機能します。
スプリントバックログとの関係
スプリントゴールとスプリントバックログは深くつながっていますが、果たす役割は異なります。
最初に、スプリントで「何を達成したいのか」といった目的=スプリントゴールを決めます。その上で、ゴールを実現するために必要なプロダクトバックログアイテムを選び、具体的な作業に分解した一覧がスプリントバックログです。
そのため、スプリントバックログに含まれるすべてのタスクは、スプリントゴールの達成に役立つものでなければなりません。タスクがゴールと結びついていることで、チームは迷わず優先順位を判断できます。
スプリントバックログの詳しい内容は、以下の記事をご参照ください。
スプリントゴールが機能しないのはなぜ?よくある課題

スプリントゴールを設定していても、「思ったような成果につながらない」と感じるチームは少なくありません。多くの場合、その背後にはいくつかの典型的な問題があります。
本章では、スプリントゴールが形骸化してしまう主な要因について解説します。
ビジネス価値が曖昧で成果につながらない
よくある課題の一つは、スプリントゴールがビジネスやユーザーの価値と結び付いていないケースです。
例えば「ユーザー管理機能を実装する」といったゴールでは、作業内容の宣言に留まり、チームは「なぜそれを作るのか」を理解できません。その結果、タスクをこなすだけの形骸化したスプリントになってしまいます。
必要な理由や背景を明確にすれば、チーム全員が目的を共有し、主体的に判断できます。結果として、タスク消化ではなく、価値創出につながるスプリントになるのです。
チームで合意できていない
スプリントゴールは、チーム全員が合意し、納得してコミットしてこそ効果を発揮します。
しかし実際には、プロダクトオーナー(PO)が一方的に決め、チームへ押し付けてしまうケースも少なくありません。このような状態では、開発者はゴールを自分ごととして捉えにくくなります。
結果として、ゴール達成への当事者意識が弱まり、問題が発生した場面でもチームとしての踏ん張りが効かなくなる恐れがあると言えます。
スプリントゴールの決め方|3ステップで具体化

本章では、実践的なスプリントゴールの設定法を、3つのステップに分けて解説します。
「誰がどう決めるのか」を明確にし、チームの合意形成を円滑に進めましょう。
Step1|「Why(なぜ)」を明確にする
最初のステップは、スプリントで取り組む目的(Why)の明確化です。
POは、プロダクトゴールやビジネス戦略、市場データ、顧客フィードバックなどを基に、このスプリントで「なぜこの成果を達成する必要があるのか」をチームに提示します。
この「Why」を理解することで、チームは目的の重要性を把握し、自律的に判断しながらタスクに取り組めます。背景にあるデータやストーリーの共有は、議論を深め、共通認識を作る上で重要な手段です。
Step2|「What/How」をチームで議論する
次に、POが提示した「Why」を受けて、開発チームがその実現可能性を検討します。
具体的には、「目的を達成するために何を作るべきか(What)」、「それをどのように実現するか(How)」を技術的な視点から議論します。この対話を通じて、POの理想と開発チームの現実的な作業量や技術的制約をすり合わせましょう。
このプロセスにより、実現可能で価値のあるスプリントゴールをチームで共有できます。
Step3|合意し、言語化する
最後のステップは、チーム全員でスプリントゴールを確認・合意した上での言語化です。
言語化の際には、短く具体的な文章でゴールをまとめ、測定しやすい形にしてください。
このスプリントゴール設定の流れは、スプリントプランニングの中で進められます。手順やポイントをさらに詳しく知りたい方は、以下の解説記事をご覧ください。
良いスプリントゴールとは?OK/NG例で比較

本章では、良いゴール例と良くないゴール例を比較しながら解説します。
プロダクト改善の例
以下は、既存機能の改善によって、ユーザー体験の価値を高めるゴールの例を示します。
| 項目 | ゴールの例 | 解説 |
|---|---|---|
| OK例 | はじめてのユーザーが、5分以内に設定を完了できるようにUIを改善する |
ユーザーの具体的な行動と所要時間を指標として示しており、チームが何を達成すべきかを正確に理解できる |
| NG例 | UI修正を行う |
作業内容のみで、ユーザー価値や目的が不明瞭 |
新機能開発の例
以下は、新しい機能を開発してビジネス上の課題を解決するゴールの例です。
| 項目 | ゴールの例 | 解説 |
|---|---|---|
| OK例 | 業務効率向上のため、外部システムとのデータ連携を実現し、データ処理にかかる時間を30%削減する |
業務効率向上といった価値の明確化と成果指標が設定され、チームで判断基準を共有できる |
| NG例 | APIを実装する |
作業ベースの表現で、ビジネス価値が見えない |
2つの例で示した通り、価値と成果指標を明確にしたゴールは、チームが達成基準を共有でき、スプリント中の判断や優先順位付けを円滑にしやすくなります。
スプリントゴールをチームに浸透させる方法

適切なゴールを設定しても、それがチームメンバーの日常業務に浸透しなければ意味がありません。
本章では、設定したゴールの具体的な運用方法を3つご紹介します。
繰り返し共有する
ゴールを設定しても、日々のタスクに追われるうちに意識が薄れてしまうことはよくあります。これを防ぐためには、デイリースクラムでスプリントゴールを毎回確認する習慣が効果的です。
繰り返し共有することで、チーム全体の意識を常にゴールへ向けて維持できます。
さらに、スプリントレビューの冒頭でゴールを再提示し、どこまで達成できたかを具体的に説明することも有効です。これにより、チームはスプリントを通じてゴールを強く意識し続けられます。
管理ツールで可視化する
日々の作業の中でスプリントゴールを確認できない状態が続くと、メンバーの意識は自然とゴールから離れてしまいます。これを防ぐためには、ゴールとタスクの関係性を管理ツールで可視化することが有効です。
カンバンやバーンダウンチャートなどを活用すれば、スプリント全体の進捗や残作業量を直感的に把握でき、ゴール達成までの道筋を常に確認できます。
こうした可視化により、デイリースクラムやレビューでも画面を共有しながら議論でき、スプリントゴールの形骸化を防ぎやすくなります。
スプリントゴールを「見える化」し運用する方法|Lychee Redmineで課題を解消する

本章では、多機能プロジェクト管理ツール「Lychee Redmine」を活用し、「スプリントゴールがチームに浸透しない」「タスクとゴールが結び付かない」、といった現場でよく起きる課題を解消する方法をご紹介します。
タスクとゴールを紐付ける|「ゴールと日々の作業が分断される」課題を解決
設定したスプリントゴールが、メンバーのタスクレベルまで落とし込まれていないと、「この作業は何のために必要なのか?」と目的が見えず、モチベーションや判断が揺らぎます。
Lychee Redmineではチケットの親子関係を使うことで、この問題を解決できます。
- ゴール → 親チケット
- 関連タスク → 子チケット
といった構造にすることで、「各タスクがゴールのどこに貢献しているか」が一覧で把握できる仕組みが完成します。
さらに、チケットに要件・議事録・仕様・資料を集約できるため、「なぜこのタスクが必要なのか?」「どの背景から生まれたのか?」を同じ画面で確認できます。
WBS/ガントチャートで進捗を見える化|「今どれくらい進んでいるかわからない」課題を解決
スプリント運用では、進捗の見えにくさが判断の遅れにつながります。特に、依存関係や残作業量が不明瞭なチームでは、「本当にこのスプリントで終わるのか?」といった不安を抱えたまま作業が進みがちです。
Lychee RedmineのWBSとガントチャートは、進捗が見えにくいといった課題を根本から解消します。
WBSで分解したタスクは自動的にガントチャートへ反映され、依存関係や期限、担当者の調整もドラッグ&ドロップで即時更新できます。スプリント全体の作業量を一画面で把握でき、さらにバーンダウンチャートと併用すれば残作業量も一目で確認可能です。
こうした可視化により、デイリースクラムは単なる状況確認の場から、問題の早期発見と解決に集中できる実践的なミーティングへと進化します。
複数プロジェクトを横断管理|「チーム間のゴール連携ができない」課題を解決
複数のチームが同時にスプリントを進めている場合、他チームのゴールとの依存関係や、担当者・工数などのリソースが重複していないかといった問題が必ず発生します。
Lychee Redmineでは、複数プロジェクトにまたがるタスク・リソース・進捗を一元的に可視化できるため、各チームのスプリントゴール同士の関係性を一目で確認できます。
これにより、リソースの偏りを事前に察知して適切に調整できる他、ゴール同士の衝突や依存関係を早期に把握し、リリース計画のズレや作業停止を防ぐことが可能です。
結果として、部門をまたぐような組織全体の開発でも、スプリント運用を安定して継続できます。
スプリントゴールに関するよくある質問|FAQ

本章では、スプリントゴールに関する、よくある質問とその回答をまとめています。
複数のスプリントゴールは設定すべき?
スプリントゴールは、基本的に一つに絞ることが推奨されています。
ゴールが複数あると、チームの焦点が分散し、優先順位が曖昧になりやすいためです。一つの目的に集中できる状態を作ることが、スプリントを成功させる前提となります。
スプリント途中でゴールを変えても良いの?
スプリントゴールは、原則として変更されません。
ただし、外部環境の急変などで 「ゴールそのものが無意味になる」 場合に限り例外が発生します。その際はゴール変更ではなく、POによるスプリント中止が検討されます。
ゴール未達のときはどう扱う?引き継ぎ方は?
未達は失敗ではなく、次の改善に役立つ重要なフィードバックです。
まず、チームで原因を振り返り、完了しなかった項目はプロダクトバックログへ戻して優先度を再評価します。ただ次のスプリントに自動で持ち越すのではなく、価値や優先順位をあらためて判断することが大切です。
また、未達が繰り返される場合は、アイテムの粒度が大きすぎる、計画が楽観的すぎるなどの可能性があるため、レトロスペクティブで対策を検討しましょう。
スプリントゴールを正しく設定し、成果につなげる

スプリントゴールは、スクラムチームの行動を一つの目的に統一し、価値ある成果を生み出すための中心軸です。
単にタスクをこなすのではなく、「なぜそれをやるのか」を全員が理解して取り組むことで、変化の多い環境でも迷わず判断でき、ビジネス価値に直結する成果を引き出せます。
そのためには、ゴールと日々の作業が結び付き、チーム全員が常に同じ方向を向ける仕組みが欠かせません。
プロジェクト管理ツール「Lychee Redmine」なら、ゴールとタスクの紐付けや進捗の可視化、複数プロジェクトの横断管理までを一つの画面で行えます。
これにより、チーム全体の動きを把握しやすくなり、スプリントゴールの形骸化を防ぎながら、自律的なプロジェクト運営へとつながります。
Lychee Redmineでは、30日間の無料トライアルをご利用可能です。スプリント運営の手間や認識ズレを感じているなら、まずは実際に触れてみてください。チームの判断スピードや連携の質が変わる「実感」を、体験していただけます。
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