- 社名
- 鈴与システムテクノロジー株式会社様
- 事業内容
- システム開発、パッケージ製品の開発・販売、運用サービスなど
- 利用プラン
- プレミアムプラン(ガントチャート、カンバン、工数リソース管理、EVM)+プロジェクトレポート、カスタムフィールド(2023年7月時点)
導入の背景と効果
課 題
- プロジェクトを管理するためのツールや資料が統一されておらず、情報の入力や集計に多大な労力を要していた。
- 月1回の進捗会議でしかプロジェクトの進捗やリスクアセスメントの状況が把握できなかった。
解決策
- 「Lychee Redmine」を全社導入し、プロジェクトに関する情報を一元管理。
効 果
- 多種類の管理工程が省力化され、管理作業が大幅に効率化した。
- プロジェクトの進捗やリスクアセスメントの状況をリアルタイムで把握できるようになった。
- 間接工数と直接工数が見える化され、人的リソースを管理しやすくなった。
- BIツールとの連携により、バグによる手戻りの原因が分析可能に。品質向上の意識も高まった。
創業220年を超える鈴与グループ。約140社のグループ会社の中で、情報事業の中核を担うのが鈴与システムテクノロジー株式会社だ。主力事業のシステム開発では、常時100以上のプロジェクトを進めている。
同社は2019年4月に「Lychee Redmine」を試験導入。同年10月に本格導入し、半年後には運用を定着させた。現在は外部委託先などを含む約450名が活用し、大幅な業務効率化とプロジェクトの可視化を実現しているという。どのように短期間でツールを定着させ、課題を解決したのか? 「Lychee Redmine」導入・運用のキーパーソン4名に話を聞いた。
(取材日:2023年7月12日)
【以前の課題】多岐にわたる管理資料の作成に多大な労力
――導入前に抱えていた課題を教えてください。
古川氏:ひとつは、プロジェクト管理に多大な労力を要していたことです。以前は事業部ごとに多種類の管理資料をExcelで作成していました。たとえば「小日程スケジュール表」「要員スケジュール表」「課題管理表」「バグ管理表」など。それぞれのファイルは連携しておらず、個別にデータを入力・集計していました。
さらに進捗会議用の報告資料を作成する際は、各Excelファイルのデータを担当者が手作業で転記していました。別系統で日報システムも動いていたので、どの業務にどれだけ時間をかけたのか、そこにも同じようなデータを入力しなければなりません。つまり、さまざまな資料の作成に二重三重の手間がかかっていたんです。
望月氏:進捗会議には、われわれ経営陣も参加します。報告資料のフォーマットは統一されていましたが、元データが記録された管理資料は事業部やプロジェクトチームによって形式がバラバラでした。
古川氏:当時は他にも大きな課題を抱えていました。それはプロジェクトの進捗やリスクアセスメントの状況が不透明だったこと。毎月1回の進捗会議で報告されるまで、経営陣や私たち品質保証部が詳しい状況を把握できなかったんです。
寺岡氏:各プロジェクトの管理資料は各チームのサーバーやNASに保存されていました。そのため経営陣はおろか、開発部門の他チームも情報にアクセスできません。つまり、プロジェクトの状況をリアルタイムで確認する仕組み自体がなかったのです。
【導入の経緯】Redmineの欠点を補完するツールを発見
――そのような状況から「Lychee Redmine」を導入するまでの経緯を聞かせてください。
寺岡氏:2018年に品質保証部が新設され、その一員として私は配属されました。その頃から、くすぶっていたんですよ。プロジェクト管理の課題を解決できるようなツールを入れたい。でも、いいものが見つからないと。通常の「Redmine」を導入している部署もありましたが、使い勝手が悪そうでした。
そんな悩みを抱えていたとき、たまたま「Lychee Redmine」を見つけたんです。よくよく調べてみると「Redmine」の欠点が補われ、魅力的な機能が追加されている。ガントチャートやタイムマネジメント機能が使いやすそうだし、プロジェクトレポート機能もわかりやすい。それで、当時の上司に導入検討を相談したのです。
古川氏:当時の部長と寺岡が中心となり、ツール導入の検討を進めました。私は品質保証部のメンバーとして、主担当の寺岡をサポートするような立場でしたね。
寺岡氏:じつは別のプランとしてプロジェクト管理ツールの自社開発も検討していたんですよ。でも、ようやくRFPの作成に着手した頃だったので、完成までは遠い。いち早く課題解決に取り組むために、既存ツールの導入を進言しました。
――他のプロジェクト管理ツールと比較検討しましたか?
寺岡氏:もちろんです。当社が求める機能を洗い出し、複数のツールを比較検討しました。そこで選ばれたのが「Lychee Redmine」。機能と費用のバランスを含めて、総合的にベストと判断しました。
【試行の結果】進捗状況の把握しやすさ、使いやすさが好評
――そして、2019年4月に「Lychee Redmine」を導入されています。最初は30ユーザーから試験的に始めたそうですね。
寺岡氏:パイロットとなる部門とプロジェクトを選定し、管理者5名と開発メンバー25名に使ってもらいました。試行期間は5ヵ月。その後は全30名にアンケートを行い、本格導入するかどうかを再検討しました。
――アンケートの結果はいかがでしたか?
寺岡氏:ポジティブな声が多かったですね。ガントチャートやEVM(出来高管理)機能などを通じて、プロジェクトの状況が把握しやすいと。すべての作業が「Lychee Redmine」で管理されているので、進捗に問題が生じても別のシステムを開く必要がありません。
また、作業時間(作業工数)の入力も好評でした。タイムマネジメント機能を使えば、各作業に要した時間を直感的に入力できる。後で見直すときも便利です。従来は日報システムに入力していたのですが、それより使いやすいという感想が多数ありました。
――「日報システム」とは、どのようなものですか?
寺岡氏:業務日誌のように、定性的な文書を管理するものではありません。1日の作業内容と各作業に要した時間などを定量的に記録するシステムです。蓄積したデータはAccessで管理していました。
「Lychee Redmine」の試行期間はすべての業務をチケット化し、日報システムの機能を代替しました。会議や問い合わせ対応など、開発以外の業務も含めて作業時間を入力してもらったのです。
古川氏:品質保証部としても「Lychee Redmine」を試験的に使いました。たとえば進行中のプロジェクトのデータを入れて、進捗・品質・コストを可視化。プロジェクトレポート機能を使えば、各指標の概況を赤・黄・青(危険・注意・良好)のシグナルで表示できます。多数のプロジェクトを横断的にチェックする際など、非常に便利だと感じました。
寺岡氏:従来も重要指標はExcelで可視化していたのですが、担当者の地道な手作業に頼っていました。EVM機能やプロジェクトレポート機能のように、瞬時には図表化できません。プロジェクトレポートの画面を開けば、リアルタイムに集計結果が見えることは大きな魅力です。
――入力の手間や操作性はどうでしたか? Excelに使い慣れていると、ネガティブな声も聞こえそうですが。
寺岡氏:「慣れの問題」と答えるメンバーがほとんどでしたね。最初は面倒に感じるが、慣れれば問題ないと。これらのアンケート結果をふまえて、「Lychee Redmine」の本格導入を決定。システム開発部門を皮切りに、会社全体に展開していきました。
【定着の工夫】現場に負担を感じさせない環境づくり
――新たなツールを定着させるために、工夫したことはありますか?
古川氏:全社的な制度設計や品質保証部の取り組みなど、たくさんありますね。
鈴与システムテクノロジーにおける
「Lychee Redmine」を定着させる5つのポイント
- 段階的な移行期間を設ける
- 導入の目的を説明会で正しく伝える
- 各課1名の推進係を任命する
- 現場視点のマニュアルを作る
- 親しみやすい愛称をつける
寺岡氏:おもなポイントは5つあげられます。 1つめは段階的な移行です。開発部門に導入したのは2019年10月。そこから3ヵ月ごとに期間を区切り、3ステップで完全移行するスケジュールを周知しました。
まず入口の3ヵ月間は、プロジェクト管理の専用ツールとして「Lychee Redmine」を活用。作業時間の入力は任意にして、日報システムと併用しました。次の3ヵ月間は作業時間の入力を義務化。日報システムの使用は各部門に任せました。
そして、2020年4月から全プロジェクトと作業時間の管理を「Lychee Redmine」に統合。日報システムを停止し、進捗会議でのExcel使用も禁じました。つまり、半年間で完全移行したわけです。もともと日報の作成は義務だったので、入力の負担が増えたわけではありません。
――あらかじめ猶予期間を示し、半年かけてシステムを統合したわけですね。
寺岡氏:2つめのポイントは説明会です。まずは事業部長に対して説明会を行い、部門トップの理解を醸成しました。次に部長・課長向けの説明会を開き、新システムの目的や使い方などを解説しました。
古川氏:管理職に正しく意図が伝われば、現場の反発を未然に防げます。その肝は「業務効率化」に重心を置くこと。プロジェクトの可視化が最優先かのように伝えると、「経営陣へ報告するために面倒なことが増える」という誤解を招きかねません。そうではなく、「現場の負担を減らすために便利なツールを入れる」というメッセージを強調しました。
寺岡氏:3つめのポイントは推進係の新設です。各課に1名の「プロジェクト管理システム推進係」を任命して、品質保証部と連携。課内の代表窓口として、各種連絡やユーザー登録の申請、使用法の問い合わせなどに対応してもらいました。
そして、4つめはマニュアルの作成。もともと「Redmine」には「Wiki」という情報共有機能が備わっています。そこに「Lychee Redmine」の使い方や具体的手順などを記載して、全メンバーに共有しました。
――誰がマニュアルを作ったのですか?
寺岡氏:試験導入したチームのメンバーに叩き台を作成してもらい、私が肉付けしました。留意したのは、実践的なマニュアルをつくること。チケットの作成法から進捗会議の報告手順まで、現場業務にフィットした情報を詳しく記載しました。キャプチャー画像の該当部分を赤線で囲むなど、ひと目でわかるように工夫しましたね。
古川氏:品質保証部は現場出身者ばかりなので、現場の実務や感覚がわかるんです。
寺岡氏:5つめ最後のポイントは愛称の命名ですね。
門奈氏:これは品質保証部ではなく、社長の発案です。「ライチレッドマイン」という言葉の響きは、堅くてとっつきにくい。そこで親しみやすい愛称を社内で募集し、「管次郎」という愛称が選ばれました。プロジェクト管理の“管”次郎ですね。メンバーに情報入力を依頼するときも「かんじろうに入れてね」と言えば、柔らかくて角が立ちません。
――無機的なシステムを擬人化して、愛着をわきやすくしたと。さまざまな工夫を通じて、「Lychee Redmine」の運用は定着しましたか?
寺岡氏:開発部門は2019年10月に導入し、半年後に定着しました。操作に慣れさえすれば、Excel管理よりもラクですから。そして次のステップとして、2020年4月から全社に導入しました。部門によって差はありますが、おおむね1年以内には定着しましたね。いまは外部委託先などを含めて、約450名が利用しています。
【導入の効果】懸案事項が解決し、開発部門の生産性が向上
――導入後の効果を教えてください。
古川氏:開発部門の生産性が向上しました。大きな要因はプロジェクト管理の効率化です。以前は多種類のExcelに分かれていた管理資料が一元化され、同じ情報を何度も入力したり、別の資料に転記したりする作業がなくなりました。
この管理資料フロー(上図参照)を見てもらうと、わかりやすいですね。導入前(Before)は大量の資料を作っていたのに、導入後(After)はこんなにスッキリしました。まさに省力化の効果です。
また、進捗会議の時間も短縮されました。担当者は「Lychee Redmine」のプロジェクトレポート、EVM、ガントチャートなど、複数のタブを切り替えて報告するだけ。特に問題がなければ、PMひとりの報告が10分ほどで終わります。
寺岡氏:「Lychee Redmine」の導入効果については、2021年1月に再び社内アンケートを行いました。対象は開発部門の管理職とプロジェクト管理システム推進係。その回答によると、さまざまな業務効率化に寄与しています。
たとえば、情報共有の円滑化。プロジェクトメンバーや外部委託先との情報共有が容易になり、コミュニケーションコストが低下しました。在宅勤務でも情報が確認できるので、問い合わせ管理も簡単になったようです。
その他にも「プロジェクト管理の理解度が上がった」「案件ごとの予定工数がすぐに抽出できるようになった」「やるべき作業が明確になった」という声がありましたね。
――「プロジェクトの進捗やリスクアセスメントの状況が不透明」という懸案事項も解決しましたか?
古川氏:はい。以前は進捗会議でフタを開けるまでわからなかったのですが、リアルタイムで進捗や品質情報などを把握できるようになりました。管理者はプロジェクトレポートやEVM、現場はガントチャートやチケットなどを通じて、プロジェクトの状況を随時確認しています。
寺岡氏:重要情報の把握という点では、日報システムと統合した効果もあります。
もともと「Redmine」デフォルトの作業分類は「設計」「開発」の2種類しかないので、すべての業務を日報システムのように記録できません。そこで「会議」「教育」「問い合わせ対応」といった多数の作業分類を網羅的に作成。さらにカスタムフィールド機能を活用し、作業分類の他に「有償」「無償」の選択項目を追加しました。
そんなふうに作業分類の範囲を拡大し、全社員に毎日の作業実績(作業分類、作業時間、有償・無償項目)を入力してもらいました。その結果、コア業務に費やした時間が可視化され、有償稼働率が把握できましたね。
【データ活用】BIツールと連携し、バグによる手戻りを可視化
――その他に可視化できたデータはありますか?
門奈氏:BIツールと連携して、戻り作業(バグ検出に起因する手戻り)を可視化しています。 この取り組みの発端は「サービス品質向上委員会」という部署横断型の組織です。同委員会では品質と生産性の向上をめざして、具体的なテーマを検討します。そこで議題にあがったのが、戻り作業の低減。「Lychee Redmine」のデータを活用すれば、バグの原因が分析できるからです。
古川氏:補足説明します。当社はQCDの中で品質を最優先する文化が根付いていて、たとえ納期を遅らせても品質を重視します。そんな「品質第一」を大前提に、同委員会で生産性向上をめざしていました。
本来は単体テストなどでわかるはずのバグが、結合テストや総合テストなどの下工程で発見されるケースがありました。これは品質に関わる問題であり、生産性にも影響します。
ただし、当時のバグチケットの情報は不十分でした。バグの混入箇所や発見すべき工程など、原因分析に必要な詳細情報を入力していなかったからです。そこで「Lychee Redmine」のカスタムフィールド機能を使って、それらの入力項目を追加しました。たとえば「単体」「結合」「総合」といったテスト工程などですね。
さらに大分類であるトラッカーも追加し、バグチケットを管理しやすくアレンジしました。そうやって戻り作業の原因を追えるようになったのは、昨年4月頃からです。
――品質を最優先するポリシーに「Lychee Redmine」がうまくフィットしたんですね。戻り作業の可視化によって、どのような効果がありましたか?
門奈氏:戻り作業率を算出して、改善を促す仕組みができました。「Lychee Redmine」の膨大なデータをBIツールに取りこめば、各プロジェクトの戻り作業が一目瞭然です。特定のプロジェクトの数値が高い場合、月次でPDCAサイクルを回して、モニタリングを続けます。
古川氏:いまは年間の目標値を設定し、各チームにKPIを追いかけてもらっています。戻り作業の原因を精査する必要があるので、実際に数値が下がるのはこれからでしょうね。
【今後の展望】各プロジェクトの潜在リスクを把握したい
――プロジェクトマネジメントについて、今後の展望を聞かせてください。
古川氏:「Lychee Redmine」の運用を通じて、管理作業の効率化とプロジェクトの可視化は達成できました。今後は各プロジェクトの現状把握にとどまらず、未来の潜在リスクまで可視化したいですね。そんなAIのような機能が実装されたら、品質保証部の役割も広がり、より確度の高いプロジェクトマネジメントができるでしょう。
――開発現場での業務改革と品質向上を主眼においた鈴与システムテクノロジー様の取り組みを通じて、導入時の現場との密接な連携が重要だと感じました。特に、管理ツールの利用メリットを伝えるための創意工夫には、多くの示唆が詰まっていました。貴重なお話をありがとうございました!