- 社名
- 株式会社AGEST様
- 事業内容
- 品質コンサルティング/テストソリューション事業、システムインテグレーション事業、サイバーセキュリティ事業など
- 利用プラン
- ビジネスプラン(ガントチャート、カンバン、バックログ、タイムマネジメント、リソースマネジメント、コストマネジメント、EVM、CCPM、プロジェクトレポート)
導入の背景と効果
課 題
- 表計算ソフトでプロジェクトのスケジュールや品質を管理していたものの、コストを管理する仕組みがなかった。
- プロジェクト完了後、当初の試算よりも大幅な粗利率低下が判明するケースが散見された。
解決策
- 「Lychee Redmine」を導入し、プロジェクトに関する情報をチケットに入力。
- ※EVM(出来高管理)機能を活用し、各プロジェクトのSPI(スケジュール効率指数)やCPI(コスト効率指数)などをリアルタイムで可視化
効 果
- 上記の指標をもとに、予算超過などの兆候を早期に検知。先手で対処した結果、目標粗利率を達成するプロジェクトが増加した。
- 収益悪化の要因となる課題を潰していくうちに、品質改善にもつながった。
- マネージャーやリーダーにコスト管理の意識が醸成された。
※EVM (Earned Value Management) :プロジェクトのコストや進捗の状況を定量的に管理する手法のひとつ。作業の到達度を金銭的な価値に換算したEV(出来高)という指標で把握する。
株式会社デジタルハーツのエンタープライズ事業からスピンアウトした株式会社AGEST。品質コンサルティングやテストソリューションなどを通じて、顧客企業のソフトウェアの品質や安全性向上を支援している。そんな同社の中核を担うのがQA事業本部だ。
同事業部は2022年10月に「Lychee Redmine」を導入。EVM機能とプロジェクトレポート機能を併用し、各プロジェクトのコストや進捗に関する状況を可視化した。その結果、予算超過などの兆候を早期に検知し、収益悪化を未然に防ぐ仕組みが整ったという。「Lychee Redmine」の導入・運用支援を統括する若林剛史氏(QA事業本部 アドバンスドテストソリューション部 部長)に話を聞いた。
(取材日:2023年9月21日)
【以前の課題】プロジェクトのコスト管理が不十分
――まずは御社のプロジェクトの概要から教えてください。
私たちQA事業本部では、ソフトウェアテストやテスト自動化などのプロジェクトを管理しています。案件によって異なりますが、基本的なプロセスはテストの計画・設計・実装・実行・報告の5段階。1週間で終わるものから数ヵ月間にわたるものまで、コスト管理対象のプロジェクトが常時20~25ほど動いています。
――「Lychee Redmine」導入前は、どのような課題を抱えていたのですか?
コスト管理が不十分でした。当時はExcelやGoogleスプレッドシートなどを使って、プロジェクトのスケジュールや品質を管理していました。でも、コストの健全性が把握できない。最終的にフタを開けてみると、当初の試算よりも粗利率が低下しているケースが散見されました。
――プロジェクト完了後に確定数値を計算するまで、収益の悪化を把握できなかったわけですね。
その状況を許していた背景には、当事業部の特性もあります。私たちは「テスト」というサービスを提供しているので、当然ながら品質が第一です。また、テスト対象となるソフトウェアのリリース日が迫っている場合が多く、納期を遅らせることもできません。
すると、どうしてもコスト管理が二の次、三の次になってしまう。当社の不十分なマネジメントで予算がオーバーした場合、お客様に追加費用を請求するわけにもいきません。
この構造的課題を解決するためには、収益悪化の兆候を早期に発見して、先手を打つ必要があります。そこで、昨年4月にプロジェクト管理ツールの検討を開始。事業本部長からは「EVMを可視化してほしい」という指示を受けました。
――Excelを作りこんで、EVMを可視化しようとは考えませんでしたか?
管理が難しいので、選択肢に入りませんでした。EVMを可視化すると、予定工数や予算、実際に費やしたコストなどが画面に表示されます。すると、プロジェクトメンバーの基本報酬がわかってしまう。かといって、共有ファイルに厳重なロックをかけると、マネージャーがリアルタイムで進捗状況を把握しづらくなります。
マネージャー、リーダー、テスターなど、階層ごとに適切な閲覧権限を管理するためには、専用のツールを導入したほうがいい。そこでロール管理とEVM機能など、必須要件を満たすプロジェクト管理ツールを探しました。
【選定の理由】データ入力が簡単で使いやすい
――さまざまなツールの中から「Lychee Redmine」を選んだ経緯を聞かせてください。
まずは有力なプロジェクト管理ツールをいくつかピックアップして、複数の項目で比較検討しました。おもなチェックポイントは「価格」「機能」「使いやすさ」の3点です。
たとえば「求める要件は満たしているが、価格が高すぎる」「基本的なEVM機能を備えているが、PDF出力ができない」といった理由で候補から消したツールもあります。昨年6月には「Lychee Redmine」を含む2つのツールが最終選考に残り、いずれもトライアル導入。実際のプロジェクト管理に活用し、メンバーに詳しい感想を聞きました。すると「Lychee Redmine」が好評だったので、10月からの正式導入を決めました。
――好評だったポイントを具体的に教えてもらえますか?
一番は、使いやすさです。どんなにEVMのグラフが見やすくても、それだけで運用はうまくいきません。「Lychee Redmine」は基本的なUIが優れており、データ入力が円滑に進みました。もともと通常の「Redmine」を大枠のタスク管理に使っていたので、なじみやすかったのかもしれません。
また、管理者としてはプロジェクトレポート機能が非常に魅力的でした。この機能を使えば、全プロジェクトに横串を通して、それぞれの状況を一覧表示できます。仮に複数のプロジェクトで問題の兆候が見つかった場合、リソース配分などを全体最適化しやすいと考えました。
【定着の工夫】“覆面普及員”が多数のプロジェクトを渡り歩き導入3ヶ月で浸透
――導入当初の現場の反応はいかがでしたか?
全体としては鈍かったですね。部長やグループ長などの組織長には直接説明しましたが、現場のメンバーにはメールによる案内だけでしたから。そこで優秀なテスター数名を“覆面普及員”に任命し、現場で「Lychee Redmine」を広げてもらうように依頼しました。他のメンバーには秘密のミッションです。
基本的に、当事業部のプロジェクトは短期間で終わります。つまり、数名の普及担当者がさまざまなプロジェクトを渡り歩き、多数のメンバーと接触できる。その際に「Lychee Redmine」を実際に使ってみせて、さりげなく利便性を伝えてもらいました。
すると、周りのメンバーも触発されて、少しずつツールを使うようになります。そのメンバーが次のプロジェクトに参画し、周りのメンバーに使い方を教えて……というふうに、草の根的にユーザーを増やしていきました。
――上意下達で強制するのではなく、実際の活用法を隣で見せて「使ってみたい」と思わせると。その他に、普及の取り組みはありますか?
マニュアルの整備です。「システム管理者用」と「案件管理者用」の2種類のマニュアルを作成し、対象者に共有しました。前者はプロジェクトの作成、作業時間に対する単価の設定、プロジェクトレポート機能などについて。後者はチケットの作成、作業時間の入力などについて、キャプチャー画像つきで説明。実際に私が使ってみて、間違えやすいポイントに赤字を入れています。
――そのような取り組みを経て、いつごろに「Lychee Redmine」の利用が定着しましたか?
導入から2~3ヵ月後ですね。当初はチケットに作業時間を入力し忘れるメンバーもいましたが、その頃には毎日の入力が習慣化。主要プロジェクトでの利用が定着しました。
――EVMの可視化も実現したのですか?
はい。各チケットに予定工数や作業時間などの必要事項が入力されれば、EVMのグラフが表示されます。特にAC(コスト実績値)とEV(出来高実績値)に着目して、プロジェクトが計画通りに進んでいるかどうかをチェックしています。
さらに、チケット情報から自動算出された主要指標をプロジェクトレポート機能で一覧。進捗・品質・コストの概況が赤・黄・青(危険・注意・良好)のシグナルで表示され、各プロジェクトの状況がひと目でわかるようになりました。
【EVMの浸透】「つかう」「みえる」「わかる」の好循環へ
――EVMによるプロジェクト管理について、詳しく教えてください。
今期から会議体が変わりましたが、導入当初は週次のマネージャーミーティングでプロジェクトレポートを確認していました。その一覧表から重要指標をピックアップして「この指標は何を意味しているのか?」「数値が下がっている原因は何なのか?」などについて議論するんです。当時はマネージャーたちの知識も理解も乏しく、EVMの基本概念すら浸透していませんでしたから。
この週次会議を繰り返すうちに、プロジェクトの状況と各指標の関連性がつかめるようになってきました。実際、ある指標が悪化した原因を調べてみると、現場に課題が潜んでいたケースが多い。すると、指標の意味がマネージャーの腑に落ちます。このような「つかう」「みえる」「わかる」という好循環が生まれて、課題の発見と解決が可能になりました。
――特に注視している指標は何ですか?
予算対実績、SPI(スケジュール効率指数)、CPI(コスト効率指数)です。これらの指標が一定のラインを下回ると、青色のシグナルから黄色や赤色に変わります。運用のポイントはシグナル変化の閾値を厳しく設定して、問題の兆候を早めに見つけること。小規模なプロジェクトの場合、割とすぐにシグナルが黄色や赤色に変わりますね。
【黄信号の対処】指標悪化の要因を分析し、現場の課題を潰す
――たとえばCPIのシグナルが黄色に変わった場合、どのように対処しているのですか?
まずはコスト効率を悪化させている要因を分析します。いちばん多いのが、想定以上に時間がかかっているケース。その原因を探っていくと、往々にしてテストの実行段階で問題が起きていました。
たとえば、若手メンバーが初見のツールや予定外のプログラムを使わなければいけない状況に陥って、四苦八苦している。そんなときはベテランメンバーがサポートに入って、課題を一つひとつ潰していきます。すると、少しずつ所要時間が短縮されて、コスト効率が改善する。しばらくすると、CPIのシグナルも青色に戻ります。
――指標悪化の要因を掘り下げて、現場レベルの課題に手を打っていると。適切な対処法はいつ頃に確立しましたか?
最初からなんです。もともと品質や進捗に関する課題には対処していたので、それがコスト管理の分野まで広がったイメージです。メンバーのサポートや入れ替え、マニュアルの整備など、対処法自体は大差ありません。変わったのは、手を打つタイミングと判断の精度です。
ただし、シグナルが黄色や赤色に変わっても、大きな問題が起きていないケースもあります。メンバーが誤った数値を入力していたり、お客様の都合で進捗が遅れていたりする場合があるからです。良くも悪くも機械的に判定されるからこそ、小さな変化まで検知できるようになりました。
【導入の効果】目標粗利率を達成するプロジェクトが増加
――「Lychee Redmine」の導入から約1年が経ちました。EVMを通じて、どのような効果を得られましたか?
最大の効果は、収益の改善です。当初の予定を上回るペースでコストを費やしているプロジェクトを即時に発見して、収益を悪化させている原因を分析できるようになりました。そこから現場の課題に対処した結果、目標粗利率を達成するプロジェクトが増加。副次的効果として、品質の改善にもつながりました。
以前は問題の兆候を把握する仕組みがなく、属人的な確認作業に頼っていました。たとえば、マネージャーが「どう?大丈夫?」とメンバーに声をかけて、現場の状況を確かめる。でも少し手間取っている程度なら「大丈夫です」と答えるメンバーもいたでしょう。いまはEVMの指標を参照して、課題を浮き彫りにしています。
――「大丈夫」といった曖昧な表現を避けて、定量的な数字を共通言語にしているわけですね。
おかげで、現場とのコミュニケーションが円滑になりました。さらに、マネージャーやリーダーにコスト管理の意識が醸成されましたね。以前はスケジュールと品質しか視野に入らず、プロジェクトの粗利率を気にしていなかったんです。その意識が変わったのは非常に大きい。グラフ・シグナル・数字などを通じて、気づきを与えることができました。
【今後の展望】組織のカタチが変わっても、運用を安定させたい
――プロジェクトマネジメントについて、今後の展望を聞かせてください。
ようやくEVMによるプロジェクト管理の方法論が確立し、100名以上のメンバーが「Lychee Redmine」を活用できるようになりました。いまは今期から統合した部署に対して、その使い方を浸透させている途上です。
今後の課題は、各部署に同じ運用プロセスを根づかせること。仮に組織変更によって人員が大幅に増減したり、入れ替わったりしても、安定した運用を続けていきたいですね。
――プロジェクトの健全性を確認し、早期対策する大切さを教えていただきました。マニュアルの整備や週次会議での指標分析を通じて、チーム全体の意識と行動が実りある成果をもたらしたのですね。貴重なお話をありがとうございました。