PMBOKに学ぶスケジュールマネジメント|進捗遅延を防ぐ計画プロセス群【専門家が教えるPMBOKの理論と実践 第4回】

PMBOKはプロジェクトマネジメントの知識体系がまとめられたガイドブックです。第7版では原理・原則ベースの構成に変わりましたが、旧版の実用性は損なわれていません。プロジェクトマネジメントの実務において、第6版の知識体系は現在も有用です。

そこで本連載では、第6版に記された「10の知識エリア」に着目。今回はプロジェクト管理の基本である「スケジュールマネジメント」について解説します。記事の監修者はRidgelinez(戦略から実装まで支援する総合プロフェッショナルファーム)のプロジェクト経験豊富なエキスパートたち。同社の尾形順一氏は、日本プロジェクトマネジメント協会および大学の講師も務めています。各分野の専門知識を身につけ、プロジェクト管理を強化しましょう。

スケジュールマネジメントとは? PMBOKの基礎知識

スケジュールマネジメントの全体像を理解するために、まずは下図をご覧ください。これはプロジェクトスケジュールの作成を表した概念図です。

左の楕円がさまざまなスケジュール法、右の楕円がプロジェクト固有の情報を表しています。固有の情報には、スコープマネジメントの際に作成したWBS(作業分解構成図)が含まれます。この左右の楕円を重ね合わせて、プロジェクトのスケジュールを作成します。

その際に重要なのは、ひと目でスケジュールがわかること。アクティビティリストやバーチャート、ネットワーク図など、誰もが理解しやすい形式で表現しましょう。

スケジュールマネジメントの流れ

スケジュール管理の6ステップ

ここからは「スケジュールマネジメント」について、詳しく解説します。それはプロジェクトの段取りや予定表などを作成し、所定の時期に完了させるための一連の活動。具体的なステップは以下の6段階に分けられます。

特徴的なのは、計画プロセス群が多いことです。「スケジュールの作成」を含めて、5つのステップを踏む必要があります。各段階で作成する文書やスケジュール技法などを追加し、それぞれの関係を下図に整理しましょう。

アクティビティの定義

第2ステップ「アクティビティの定義」とは、WBSを構成するワークパッケージ(作業項目)の細分化です。ここでは代表的な技法を解説します。まずは下図をご覧ください。

要素分解

成果物の作成プロセスなどを管理しやすい小さな要素に分解する技法です。PMBOKではワークパッケージを要素分解したものを「アクティビティ」と呼びます。いわゆる「作業タスク」と解釈してかまいません。各用語の厳密な定義よりも「より小さな作業タスクに分解する」という方法論の理解が重要です。

ローリングウェーブ計画法

この技法では、まず予測しやすい直近の作業を詳細に分解します。上図の場合、明確な5つのワークパッケージを計10個のアクティビティに分解します。そして、予測が難しい将来の作業(PP212)は、大まかな計画(プランニングパッケージ)に留めておきます。プロジェクトの進行にともない、後でアクティビティを定義(段階的に詳細化)するわけです。

重要リストの作成

「アクティビティの定義」を通じて、さまざまなアウトプットが生み出されます。特に重要なのは、以下2種類のリストです。

アクティビティリスト

作業タスクの一覧表です。それぞれの作業範囲を確実に理解できるように「いつ、誰が、何をするのか」を詳しく記述しましょう。ただし、プロジェクトの進行にともない、作業タスクが増減する可能性があります。アジャイル開発やローリングウェーブ計画法を使用する場合、定期的にリストを更新してください。

マイルストーンリスト

マイルストーンとは、プロジェクトの中間目標や節目です。「開発完了」「テスト完了」など、重要な意味を持つ時点やイベントをさします。これはスケジュールマネジメントの必須要素。必ずリスト化して、契約上必須のものか、任意の節目なのかを分類しましょう。たとえば、顧客から「今期末までに予算を使い切りたい」という要望を受けた場合、期末日から逆算して複数のマイルストーンを設定します。

アクティビティの順序設定

すべてのアクティビティをリスト化したら、それぞれの作業順序を設定します。ここで重要なのは、各アクティビティの依存関係。すべての作業を同時並行で進めるわけではなく、物理的な制約や作業効率などを考慮して適切な順序を決めます。下図のように、ひと目でわかるように整理しましょう。

終了-開始関係:Aが完了するまで、Bを開始できない
終了-終了関係:Aが完了するまで、Bを完了できない
開始-開始関係:Aを開始するまで、Bを開始できない
開始-終了関係:Aを開始するまで、Bを完了できない
順序関係の後の数字はラグタイムを示す

所要期間の見積もり

アクティビティの順序を設定したら、全体の所要期間を見積もります。プロジェクトの特性に応じて、適切な見積もり技法を使いましょう。以下に代表的な手法を紹介します。

類推見積もり

類似のアクティビティやプロジェクトにおける過去のデータをもとに、所要期間を見積もる技法です。手軽なため、さまざまなプロジェクトで幅広く用いられます。精度にバラつきはありますが、プロジェクトの初期段階で有効です。

3点見積もり

「最頻値」「楽観値」「悲観値」の3つの値をもとに、所要期間を見積もる技法です。特に有効なのは、3名以上のプロジェクトリーダーがいる場合。三者三様(現実的・楽観的・悲観的)の見積もりを行うと、個人の主観に偏りません。労力はかかりますが、高い精度が期待できます。

パラメトリック見積もり

過去のデータとプロジェクトのパラメーター(変数)をもとに、所要期間を見積もる技法です。適切なパラメーター設定が難しく、類推見積もりのほうが有効な場合もあります。

ボトムアップ見積もり

一つひとつのアクティビティに必要な期間を集計して、全体の所要期間を見積もる技法です。見積もりに手間はかかりますが、高い精度が期待できます。

進捗遅延を防ぐスケジュール管理のポイント

作業項目を細かく分解

スケジュール管理の基本は、具体的な作業の明確化です。WBSを構成する作業項目(ワークパッケージ)を、より小さな作業タスク(アクティビティ)に要素分解しましょう。そうすれば、所要期間の見積もり精度が飛躍的に向上します。予測が難しい将来の作業は、大まかな計画に留めてもかまいません。

論理的な作業順序を設定

すべての作業タスクを明確化したら、それぞれの順序を整理します。ここで重要なのが、各タスクの関係。たとえば、設計と開発の間には「設計が終わらないと、開発を始められない」という依存関係があります。「前の作業が完了しないと始められない作業」と「同時並行で進められる作業」を区別し、適切な論理的順序を設定しましょう。

見積もりは現実的に

楽観的な見積もりはスケジュールの遅延に直結します。それぞれの作業タスクに必要な期間を“現実的に”見積もってください。有用なのは、類似のプロジェクトデータや専門家の知見など。プロジェクトの特性に応じた見積もり技法を活用し、実現可能な期間を設定しましょう。リスクに備えて、予備期間を確保することも重要です。

主体は開発側

受託開発などのプロジェクトを進める場合、受発注の上下関係が生まれやすくなります。しかし、あくまでもプロジェクト管理の主体は開発側です。発注側の圧力に押されて、無理なスケジュールを組んではいけません。プロジェクトマネージャーとビジネスアナリストが連携し、必要な期間を発注側に明示しましょう。

この記事に関するよくある質問 (FAQ)

スケジュールマネジメントとは、プロジェクトを所定の時期に完了させるために、作業の順序・期間・進捗を体系的に管理する一連の活動です。PMBOKでは、スケジュールの計画・作成・コントロールなどを6つのステップに分けています。これらの実施により、納期遅延やリソースの偏りを防ぎ、効率的にプロジェクトを進めることができます。

WBS(Work Breakdown Structure)は、スケジュールマネジメントの基盤となる作業分解構成図です。まずスコープマネジメントで作成したWBSをもとに、ワークパッケージ(作業項目)を小さなアクティビティ(作業タスク)に分解します。そのうえで各作業の順序設定や期間見積もりを行い、プロジェクト全体のスケジュールを作成します。

▶関連項目:第3回記事「WBSの作成」

PMBOKでは、以下のような見積もり技法が紹介されています。
・類推見積もり(類似のアクティビティや過去のデータをもとに推定)
・3点見積もり(最頻値・楽観値・悲観値をもとに算出)
・パラメトリック見積もり(過去のデータとプロジェクトの変数をもとに算出)
・ボトムアップ見積もり(小さな作業単位を積み上げて算出)
各プロジェクトの特性に応じて、適切な技法を使い分けましょう。そうすれば、見積もりの精度が高まります。

プロジェクトの遅延を防ぐには、所要期間の現実的な見積もりと作業の論理的な順序設定が不可欠です。発注側の圧力に押されて、無理なスケジュールを組んではいけません。PMBOKでは、作業タスクの依存関係を明確化し、定期的な進捗確認とリスク対応を推奨しています。

PMBOK資料 <お役立ち資料>
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この記事で紹介した「PMBOK(ピンボック)」と、Lychee Redmineの活用方法を結びつけて解説した資料です。

この資料でわかること
  • プロジェクトマネジメントの基本概念
  • PMBOKの構成と考え方
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監修者プロフィール

尾形 順一 氏

Ridgelinez株式会社
Technology Group Director 尾形 順一 氏

プロジェクトマネジメントおよびアジャイルDevOpsの専門家。日立製作所、デロイトトーマツコンサルティングなどを経て現職。大規模アジャイルおよびアジャイルシフト、DXにともなう組織的変革管理(OCM)において、数多くの実践経験を有する。日米欧のプロジェクトマネジメントおよびアジャイル標準に精通し、日米欧3団体の最上位認定を保有。企画・要件整理・設計・開発・テスト・運用・内製化まで、実践型の伴走を行う。これまでに40件以上のプロジェクトマネジメントを経験。日本プロジェクトマネジメント協会のPMBOK講座のほか、私立大学でもプロジェクトマネジメント論の講師を務める。

【保有学位】
経営管理修士(MBA)、国際情報通信修士(MS)

【保有資格】
日本プロジェクトマネジメント協会 プロジェクトマネジメントスペシャリスト、PMI PMP(Project Management Professional)、AXELOS PRINCE2 Practitioner、その他、日米欧6団体のアジャイル認定など20種類以上

白田 智明 氏

Ridgelinez株式会社
Technology Group Senior Consultant 白田 智明 氏

富士通システムソリューションズに入社後、フィールドSEとして流通業や運輸業などの基幹システム再構築プロジェクトに参画。富士通へ転籍後、プロジェクトマネージャーとして、総合商社・専門商社の基幹システム再構築プロジェクトを担当。2021年、アジャイル開発プロジェクトの実践経験を活かし、部門全体のアジャイル普及に向けた商談プロセス・商材の標準化や、アジャイル研修の設計・作成と講師などの活動を行う。2024年より現職。

【保有資格】
IPA 基本情報/応用情報/プロジェクトマネージャー、PMI PMP(Project Management Professional)、TOGAF9(Foundation/Certified)、SAFe®6 SPCなど、他多数

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