
本記事は「専門家が教えるPMBOKの理論と実践」第5回です。
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PMBOKはプロジェクトマネジメントの知識体系がまとめられたガイドブックです。第7版では原理・原則ベースの構成に変わりましたが、旧版の実用性は損なわれていません。プロジェクトマネジメントの実務において、第6版の知識体系は現在も有用です。
そこで本連載では、第6版に記された「10の知識エリア」に着目。今回はプロジェクトの利益を左右する「コストマネジメント」について解説します。記事の監修者はRidgelinez(戦略から実装まで支援する総合プロフェッショナルファーム)のプロジェクト経験豊富なエキスパートたち。同社の尾形順一氏は、日本プロジェクトマネジメント協会および大学の講師も務めています。各分野の専門知識を身につけ、プロジェクト管理を強化しましょう。
コストマネジメントの流れ
コスト管理の4ステップ
「コストマネジメント」とは、プロジェクトを承認済みの予算内で完了するための一連の活動です。具体的なステップは以下の4段階に分けられます。

PMBOKを学んでいない方も、各ステップを実行しているはずです。各段階で作成する文書や管理手法などを追加し、それぞれの関係を下図に整理しましょう。

コストの見積もり
コストマネジメントの計画を定めたら、必要なコストを見積もります。プロジェクトの特性に応じて、適切な見積もり技法を使いましょう。以下に代表的な手法を紹介します(スケジュールマネジメントで用いられる技法と同じです)。
類推見積もり
類似のアクティビティやプロジェクトにおける過去のデータをもとに、コストを見積もる技法です。手軽なため、さまざまなプロジェクトで幅広く用いられます。精度にバラつきはありますが、プロジェクトの初期段階で有効です。
3点見積もり
「最頻値」「楽観値」「悲観値」の3つの値をもとに、コストを見積もる技法です。特に有効なのは、3名以上のプロジェクトリーダーがいる場合。三者三様(現実的・楽観的・悲観的)の見積もりを行うと、個人の主観に偏りません。労力はかかりますが、高い精度が期待できます。
パラメトリック見積もり
過去のデータとプロジェクトのパラメーター(変数)をもとに、コストを見積もる技法です。適切なパラメーター設定が難しく、類推見積もりのほうが有効な場合もあります。
ボトムアップ見積もり
一つひとつのアクティビティに必要なコストを集計して、全体のコストを見積もる技法です。見積もりに手間はかかりますが、高い精度が期待できます。
予備コストの設定
コストの見積もりは、これで終わりではありません。PMBOKでは予備コストの確保が推奨されています。2種類(既知/未知)のリスクに備えて、2段階の予備コストを設定しましょう。
コンティンジェンシー予備
第2ステップ「コストの見積もり」において“既知”のリスクに備えるための予備費です。既知のリスクとは、想定されるトラブルや遅延など、不確実でも予測可能なリスクをさします。コストベースライン(プロジェクト予算の基準値)に含まれるため、プロジェクトマネージャーの裁量で使えます。
マネジメント予備
第3ステップ「予算の設定」において“未知”のリスクに備えるための予備費です。未知のリスクとは、不確実で予測できないリスクをさします。コストベースラインに含まれず、プロジェクトマネージャーの裁量では使えません。上級管理職の承認が必要です。
多くの日本企業では2段階の予備コストを区別せず、あいまいな「予備費」として一括りにしています。そのせいでバッファが不十分になり、予算超過・進捗遅延・品質低下などの危険性を高めています。
なお予備コストの割合について、PMBOKは基準値を示していません。本稿を監修する尾形順一氏(日本プロジェクトマネジメント協会の講師)の場合、コンティンジェンシー予備・マネジメント予備ともに「プロジェクト予算全体の10%前後」を目安にしています。あくまでも目安なので、各プロジェクトの特性や過去のデータなどを考慮しましょう。
予算の設定
予備コストの設定は、コスト管理の第2ステップ「コストの見積もり」と第3ステップ「予算の設定」を縦断しています。その関係を整理するため、コストの積算手順とプロジェクト予算の構成を下図に示します。

下部の2段が「コストの見積もり」に相当します。ここでプロジェクト全体の作業(アクティビティやワークパッケージ)に必要なコストを見積もり、コンティンジェンシー予備を加算します。
次の「コントロールアカウント」とは、コストを管理するための基本単位。上段のコストベースラインと同じです。ここにマネジメント予備を加えたものが、いわゆる「プロジェクト予算」です。つまり、上部3段のコスト積算が「予算の設定」に相当します。
当然ながら、いずれの予備費も値引きの原資ではありません。顧客からの受注を最優先して、予備コストを削るのは禁物です。やがて現場にしわ寄せが及び、システム障害などが起こる危険性が高まります。上級管理職は大局的な観点に立ち、適切な予算を確保してください。
コストのコントロール
予算の設定が終わると、実際にプロジェクトが動き出します。そこで重要になるのが、第4ステップ「コストのコントロール」です。具体的な手法として、PMBOKではEVM(Earned Value Management:出来高管理)が推奨されています(下図参照)。

これはプロジェクトのパフォーマンスと進捗を評価するために、スコープ・スケジュール・資源についての測定値を結びつける方法論。相互に影響するスケジュール管理とコスト管理を同時に行いながら、将来の予測にも活用できます。
EVMは複雑な手法なので、本稿では概略の説明に留めます。下図において、特に重要な指標はEAC(完成時総コスト見積もり)。プロジェクトの進捗状況をもとに、最終的コストを予測した数値です。比較対象となるのはBAC(完成時総予算)。計画時に定めたプロジェクト完了までの総予算です。

上図ではEACがBACを超過しており、VAC(完成時コスト差異)が生じています。つまり、計画を超えるペースで予算を使っているわけです。横軸を見ると、完成予定日も遅くなる見込み。このような予算超過や納期遅延の予兆をEVMで検知すれば、早期に対策をとることが可能です。
予算超過を防ぐコスト管理のポイント

見積もりは現実的に
楽観的な見積もりは予算超過に直結します。それぞれの作業タスクに必要なコストを“現実的に”見積もってください。有用なのは、類似のプロジェクトデータや専門家の知見など。プロジェクトの特性に応じた見積もり技法を活用し、適切な予算を設定しましょう。
予備費は二段構えに
PMBOKでは、2種類の予備設定が推奨されています。ひとつは予測可能なリスクに備える「コンティンジェンシー予備」。もうひとつは予測できないリスクに備える
3.主体は開発側
受託開発などのプロジェクトを進める場合、受発注の上下関係が生まれやすくなります。しかし、あくまでもプロジェクト管理の主体は開発側です。発注側の圧力に押されて、無理な予算を組んではいけません。プロジェクトマネージャーとビジネスアナリストが連携し、必要な予算を発注側に明示しましょう。
この記事に関するよくある質問 (FAQ)
・類推見積もり(類似のアクティビティや過去のデータをもとに推定)
・3点見積もり(最頻値・楽観値・悲観値をもとに算出)
・パラメトリック見積もり(過去のデータとプロジェクトの変数をもとに算出)
・ボトムアップ見積もり(小さな作業単位を積み上げて算出)
各プロジェクトの特性に応じて、適切な技法を使い分けましょう。そうすれば、見積もりの精度が高まります。
前者の「コンティンジェンシー予備」は予測可能なリスクに備える費用で、プロジェクトマネージャーの裁量で使えます。後者の「マネジメント予備」は予測できないリスクに備える費用で、上級管理職の承認が必要です。2種類の予備費を設定することで、予算超過・進捗遅延・品質低下などの問題を未然に防ぎます。
PMBOKではEVM(出来高管理)という手法が推奨されています。この管理手法を用いれば、コスト効率指数(CPI)や完成時コスト見積もり(EAC)などの指標を通じて「計画通りに進んでいるか」などをひと目で確認できます。EVMを実践するには、Excelやプロジェクト管理ツール、BIツールなどが必要です。
<参考資料>
プロジェクトマネジメント知識体系ガイド(PMBOK®ガイド)第6版および第7版+プロジェクトマネジメント標準、PMI®
![]() | <お役立ち資料> Lychee RedmineでできるPMBOK この記事で紹介した「PMBOK(ピンボック)」と、Lychee Redmineの活用方法を結びつけて解説した資料です。 この資料でわかること
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監修者プロフィール
![]() | Ridgelinez株式会社 プロジェクトマネジメントおよびアジャイルDevOpsの専門家。日立製作所、デロイトトーマツコンサルティングなどを経て現職。大規模アジャイルおよびアジャイルシフト、DXにともなう組織的変革管理(OCM)において、数多くの実践経験を有する。日米欧のプロジェクトマネジメントおよびアジャイル標準に精通し、日米欧3団体の最上位認定を保有。企画・要件整理・設計・開発・テスト・運用・内製化まで、実践型の伴走を行う。これまでに40件以上のプロジェクトマネジメントを経験。日本プロジェクトマネジメント協会のPMBOK講座のほか、私立大学でもプロジェクトマネジメント論の講師を務める。 【保有学位】 【保有資格】 |
![]() | Ridgelinez株式会社 富士通システムソリューションズに入社後、フィールドSEとして流通業や運輸業などの基幹システム再構築プロジェクトに参画。富士通へ転籍後、プロジェクトマネージャーとして、総合商社・専門商社の基幹システム再構築プロジェクトを担当。2021年、アジャイル開発プロジェクトの実践経験を活かし、部門全体のアジャイル普及に向けた商談プロセス・商材の標準化や、アジャイル研修の設計・作成と講師などの活動を行う。2024年より現職。 【保有資格】 |
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