エクセル(Excel)での案件管理は、管理する基本項目と入力のルールを決めれば、新しいツールを契約せずに始められます。ただし、更新する人数と頻度が増えるにつれて、手間が入力から集計と確認へ移っていくため、どこまでエクセルで続けるかの見極めも必要です。
私はプロジェクトマネージャーとして、エクセルの案件一覧を自分で作って運用してきました。その中で分かったのは、うまく回る表と回らない表の違いが、関数の難しさではなく、最初に「1行に何を入れるか」「誰がいつ更新するか」を決めたかどうかにある、ということです。
この記事では、エクセルで管理できることを整理したうえで、案件管理表に入れる基本項目、1つの作成例を使った6つの作成手順、テンプレートの入手先、エクセルで続けるときの課題を解説します。
また、OneDrive・SharePointで補える点、専用ツールへの移行の目安についても紹介するため、ぜひ参考にしてください。
執筆者:和田匠真
IT業界で20年以上の実務経験を持つプロジェクトマネージャー。プログラマー・SEを経てPMとなり、大手企業のシステム提案からデリバリーまで一貫して従事。PMP/認定スクラムマスター(CSM)保有。ウォーターフォール/アジャイル双方の現場経験をもとに、プロジェクト管理に関する記事を執筆。
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Excelでの案件管理でできること
エクセルでも、案件の情報を一覧にまとめ、担当者に聞かなくても状況が分かる状態、つまり案件管理の「見える化」を実現可能です。基本項目とルールを決めれば十分に運用できますが、更新する人数と頻度が増えると、手間が集計と確認に寄っていきます。
この章では、案件管理表で扱う情報、営業の案件と受注後の案件の違い、エクセルが向いている場面を整理します。
案件管理表で管理する情報
案件管理表で扱う情報は、次の5つのまとまりに整理できます。
- 案件を特定する情報:どの顧客の、どの案件かを区別する
- 進捗:いま、どの段階にあり、次に何をするか
- 日付:いつまでに何を終えるか、最後にいつ更新したか
- 担当:誰が責任を持つか
- 金額:いくらの案件か
この5つがそろっていれば、案件の状況を1行で把握できます。逆に、いずれかが欠けると、結局は担当者に聞かないと分からない表になります。
そのため、案件管理表を作る際は、必ず上記5つの項目を必ず含めることが大切です。
営業の案件と受注後の案件では必要な項目が変わる
「案件管理」という言葉は、受注前の商談を指す場合と、受注後の案件(プロジェクト)を指す場合があります。受注前の案件(商談)では受注の見込みと次のアクションが、受注後の案件(プロジェクト)では進捗・納期・工数が管理の中心になります。
同じ「進捗」でも、受注前なら商談がどの段階まで進んだか、受注後なら作業がどこまで終わったかを指し、意味が異なる点に注意することが大切です。
どちらを管理したいかによって表の設計が変わるため、作り始める前に、管理したい項目が何なのかを決めておきましょう。
受注後の案件を複数抱えている場合の進め方は、次の記事で解説しています。
Excelが向いている場面
エクセルでの案件管理が向いているのは、次のような場面です。
- 管理する案件の数が限られている
- 表を更新する人が少なく、更新のタイミングをそろえやすい
- 管理項目をまだ試行錯誤しており、頻繁に変えたい
- ツール導入の承認や予算を待たずに、すぐ始めたい
項目をその場で変えられる柔軟さは、エクセルの大きな強みです。私も、新しいチームで案件管理を始めるときは、まずエクセルで項目と運用を固め、足りない点がはっきりしてからツールを検討するようにしていました。
特に、小規模かつ低予算で案件管理を進めたいときに、エクセルは有効です。
案件管理表に入れる基本項目
案件管理表の項目は、すべての案件に共通する項目と、営業の案件・受注後の案件でそれぞれ使う項目に分けて考えます。用途の異なる指標を同じ列で扱わないことと、最初から項目を増やしすぎないことが、使い続けられる表の条件です。
管理側が欲しい項目をすべて必須にすると、入力の手間が増えて更新が止まります。最初は状況の把握に欠かせない項目に絞り、運用しながら足していく考え方で進めましょう。
|
項目名 |
用途 |
入力形式 |
例 |
|
案件ID |
同名の案件を区別し、別シートから参照する |
手入力(重複不可) |
A-2026-001 |
|
案件名 |
案件の内容を示す |
手入力 |
基幹システム改修 |
|
顧客名 |
取引先を示す |
手入力 |
株式会社〇〇 |
|
担当者 |
責任者を示す |
プルダウン |
山田 |
|
商談フェーズ(営業) |
商談の段階を示す |
プルダウン |
提案 |
|
受注確度(営業) |
受注の見込みを示す |
プルダウン |
B |
|
進捗状況(受注後) |
作業の段階を示す |
プルダウン |
設計中 |
|
受注予定日(営業) |
受注の見込み時期 |
日付 |
2026/10/31 |
|
納期(受注後) |
納品の期限 |
日付 |
2027/03/31 |
|
見込金額(営業)/確定金額(受注後) |
案件の規模 |
数値 |
3,000,000 |
|
次のアクション |
次に誰が何をするか |
手入力 |
10/15 見積提出 |
|
最終更新日 |
止まっている案件を見つける |
日付 |
2026/10/01 |
案件を特定する項目
案件を特定する項目は、案件ID・案件名・顧客名・区分です。このうち最も大事なのが案件IDで、案件名だけに頼ると同じ名前の案件を区別できなくなります。
同じ顧客から「保守対応」のような似た名前の案件を複数受けることは珍しくありません。
案件IDを振っておけば、案件名が同じでも区別でき、別のシートから特定の案件を参照するときの目印にもなります。「A-2026-001」のように、年と連番を組み合わせた形にしておくと、並べ替えたときにも順序が分かりやすくなります。
区分は、営業の案件か受注後の案件か、あるいは新規・既存・保守といった分類をするときに活用する項目です。
進捗を示す項目
進捗を示す項目は、営業の案件では商談フェーズと受注確度、受注後の案件では進捗状況です。受注確度と進捗率は別の指標であり、同じ列で扱わないように注意が必要です。
受注確度は「受注できそうか」を示す見込みの指標で、進捗率は「作業がどこまで終わったか」を示す実績の指標です。1つの列に混ぜると、集計したときに意味が分からない数字になります。
フェーズや進捗状況は、後述するデータの入力規則でプルダウンにして選択肢を固定しましょう。「提案中」「提案」「提案済み」のような表記ゆれを防げば、集計や絞り込みが正しく機能します。
なお、自由記述でかまいませんが、「日付+誰が+何をする」の形でそろえると読みやすくなります。
日付の項目
日付の項目は、営業の案件では受注予定日、受注後の案件では開始日・納期・完了日です。最終更新日を把握できるようにしておけば、しばらく誰も触っていない案件を見つけられます。
案件管理表が実態とずれる原因の多くは、更新が止まった案件が一覧に残り続けることです。最終更新日の列があれば、後述する条件付き書式で「一定の日数更新されていない行」に色を付けられます。
日付は、エクセルが日付として認識する値で入力し、表示形式を「yyyy/mm/dd」などにそろえます。文字列として保存されている日付は、日付値に変換してから並べ替えや関数での比較に使用してください。
担当と金額の項目
担当者の項目はすべての案件に共通します。金額は、営業の案件では見込金額、受注後の案件では確定金額を入れます。担当者もプルダウンにしておくと、担当者別の集計がずれなくなります。
ただし、「山田」「山田太郎」「やまだ」のように同じ人の表記が揺れると、担当者別の件数や金額が正しく集計されません。金額の列は数値として入力し、「300万」のような文字を混ぜないようにします。
見込金額と確定金額は意味が違うため、同じ列で混在させず、営業の表と受注後の表で使い分けが必要です。
Excelで案件管理表を作る手順
ここからは、エクセルで案件管理表を作る手順を6つのステップで説明します。この記事では、手順1で決める「営業の案件を1案件1行で管理する案件一覧」を1つの作成例として、最後まで同じ列配置とサンプルデータで説明します。
操作手順はMicrosoftの公式サポートで確認した内容にもとづいています。画面はExcel for Microsoft 365(Windows版)を想定しており、バージョンによって表示が異なる点に注意してください。
手順1:1案件を1行で管理する構成を決める
最初に、1行に何を入れるかを決めます。本記事の作成例は、1案件を1行で管理する案件一覧です。
1つの案件を複数のタスクの行に分け、各行に案件の金額を書くと、単純に合計しただけで金額が重複して集計されてしまいます。案件の件数や金額を正しく集計するには、1案件=1行の形にそろえるのが基本です。
案件の中の詳細なタスクまで管理したい場合は、タスク用のシートを別に作り、案件IDで案件一覧と対応づける考え方をとります。本記事では、案件一覧の作り方に絞って説明します。
作成例の列配置は次のとおりです。
- A列:案件ID
- B列:案件名
- C列:顧客名
- D列:担当者
- E列:商談フェーズ
- F列:受注確度
- G列:受注予定日
- H列:見込金額
- I列:次のアクション
- J列:最終更新日
受注後の案件に応用する場合は、E列を進捗状況、G列を納期、H列を確定金額に変更します。F列の受注確度は必要な項目に置き換え、マスタの選択肢や、条件付き書式・集計で使用する条件も変更してください。
たとえば、期限超過の判定では「受注・失注」ではなく「完了した案件」を対象から外します。
手順2:入力用のシートを作る
ブックに「案件一覧」「マスタ」「集計」の3つのシートを作ることも重要です。選択肢をマスタシートにまとめておくと、選択肢の名称をマスタシートでまとめて管理できます。
案件一覧シートの1行目に、手順1の10項目を見出しとして入力し、2行目以降に次のサンプルデータを入力します。この記事では、データを入力する範囲を2行目から101行目(A2:J101)として説明します。
|
案件ID |
案件名 |
顧客名 |
担当者 |
商談フェーズ |
受注確度 |
受注予定日 |
見込金額 |
次のアクション |
最終更新日 |
|
A-2026-001 |
基幹システム改修 |
株式会社A |
山田 |
提案 |
B |
2026/11/30 |
3,000,000 |
10/20 提案書提出 |
2026/10/10 |
|
A-2026-002 |
年間保守 |
株式会社B |
佐藤 |
見積提出 |
A |
2026/10/10 |
1,200,000 |
10/16 回答確認 |
2026/10/08 |
|
A-2026-003 |
Webサイト改修 |
株式会社C |
山田 |
受注 |
A |
2026/09/30 |
800,000 |
契約書回収 |
2026/09/28 |
|
A-2026-004 |
在庫管理ツール導入 |
株式会社D |
鈴木 |
初回訪問 |
C |
2026/12/15 |
2,500,000 |
10/22 ヒアリング |
2026/09/25 |
|
A-2026-005 |
データ移行支援 |
株式会社E |
佐藤 |
失注 |
C |
2026/10/05 |
600,000 |
なし |
2026/10/06 |
|
A-2026-006 |
社内ポータル構築 |
株式会社F |
高橋 |
提案 |
B |
2026/12/20 |
1,800,000 |
10/18 デモ実施 |
2026/10/14 |
マスタシートには、A列に担当者(A2:A6に「山田」「佐藤」「鈴木」「高橋」「田中」)、B列に商談フェーズ(B2:B6に「初回訪問」「提案」「見積提出」「受注」「失注」)、C列に受注確度(C2:C4に「A」「B」「C」)を入力しておきます。
以降の設定と集計は、すべてこの列配置とサンプルデータを使います。
手順3:データの入力規則でプルダウンを作る
担当者と商談フェーズの列に、プルダウンで選べる入力規則を設定します。選択肢以外の値を入力できなくすることで、表記ゆれによる集計のずれを防げます。
担当者の列を例にした手順は次のとおりです。
- 案件一覧シートでD2:D101を選択する
- [データ]タブの[データの入力規則]を選択する
- [設定]タブの[入力値の種類]で[リスト]を選択する
- [元の値]に「=マスタ!$A$2:$A$6」と入力して[OK]を選択する
商談フェーズの列(E2:E101)も同じ手順で、元の値を「=マスタ!$B$2:$B$6」にします。受注確度(F2:F101)も同様に、マスタシートに用意した選択肢(=マスタ!$C$2:$C$4)を参照するプルダウンを設定しましょう。選択肢の意味は、チーム内で統一しておきます。
この例では参照範囲を固定しているため、担当者やフェーズを範囲外の行へ追加する場合は、入力規則の[元の値]も広げてください。案件を102行目以降に追加する場合は、入力規則・条件付き書式の適用範囲と、集計関数の参照範囲も変更します。
(出典:Microsoft サポート「ドロップダウン リストを作成する」)
手順4:条件付き書式で期限と滞留を目立たせる
期限を過ぎた案件と、しばらく更新されていない案件に色を付けます。色で目立たせることで、一覧を上から読まなくても、対応が必要な行が分かるようになります。
期限超過に色を付ける手順は次のとおりです。
- 案件一覧シートでA2:J101を選択する
- [ホーム]タブの[条件付き書式]から[新しいルール]を選択する
- [数式を使用して、書式設定するセルを決定]を選択する
- 数式に「=AND($G2<>””,$G2<TODAY(),$E2<>”受注”,$E2<>”失注”)」と入力し、書式(塗りつぶしの色)を設定する
この数式は、受注予定日が入力されていて今日より前であり、まだ受注・失注になっていない行でTRUEを返します。条件付き書式の数式は、TRUEかFALSEを返す形で書くことが必要です。
更新が止まっている案件には、同じ手順で「=AND($J2<>””,TODAY()-$J2>=14,$E2<>”受注”,$E2<>”失注”)」を設定しましょう。最終更新日が入力されており、14日以上更新されていない未決着の案件に色を付けます。受注・失注済みの案件は対象から外します。日数は自社の更新ルールに合わせて変更してください。
手順2のサンプルデータでは、今日の日付を2026年10月15日とすると、受注予定日を過ぎたA-2026-002が期限超過に、最終更新日から14日以上たったA-2026-004が更新の停滞に該当し、色が付きます。
見やすさのためには、色の種類を2〜3色に絞ることが大切です。また、[表示]タブの[ウィンドウ枠の固定]で見出し行を固定すること、日付と金額の表示形式を列ごとにそろえることも効果があります。
(出典:Microsoft サポート「条件付き書式を使用して Excel 内の情報を強調表示する」)
手順5:SUMIFSとCOUNTIFSで集計する
集計シートで、担当者別の件数と見込金額を集計します。条件に合う行の件数を数えるのがCOUNTIFS関数、条件に合う行の値を合計するのがSUMIFS関数です。
集計シートのA2:A6に担当者名を並べ、B列に「案件件数(失注を除く)」、C列に「見込金額合計(失注を除く)」を集計する例です。受注済みの案件は含め、失注した案件は除きます。
- B2:=COUNTIFS(案件一覧!$D$2:$D$101,$A2,案件一覧!$E$2:$E$101,”<>失注”)
- C2:=SUMIFS(案件一覧!$H$2:$H$101,案件一覧!$D$2:$D$101,$A2,案件一覧!$E$2:$E$101,”<>失注”)
COUNTIFSは「条件範囲1, 条件1, 条件範囲2, 条件2」の順に指定し、すべての条件を満たす行を数えます。SUMIFSは最初に「合計する範囲」を指定し、そのあとに条件範囲と条件を組で並べます。ここでは、担当者の列がA2の担当者と一致し、かつ商談フェーズが「失注」以外の行が対象になります。
B2とC2の数式を6行目まで下にコピーすれば、担当者別の集計表が完成します。手順2のサンプルデータでは、次の結果になります。
|
担当者 |
案件件数(失注を除く) |
見込金額合計(失注を除く) |
|
山田 |
2 |
3,800,000 |
|
佐藤 |
1 |
1,200,000 |
|
鈴木 |
1 |
2,500,000 |
|
高橋 |
1 |
1,800,000 |
|
田中 |
0 |
0 |
佐藤さんの案件は2件ありますが、A-2026-005は失注のため件数と金額に含まれません。フェーズ別の件数も、COUNTIFSの条件をマスタシートのフェーズに変えれば同じ形で集計できます。
(出典:Microsoft サポート「SUMIFS 関数」/Microsoft サポート「COUNTIFS 関数」)
手順6:テンプレートとして保存する
完成した表は、サンプルデータを消したうえでテンプレートとして保存しておきます。テンプレートとして保存すると、開くたびに新しいブックとして作成されるため、元の表を誤って上書きする心配がありません。
保存する場合は、[ファイル]→[名前を付けて保存]を選び、[ファイルの種類]で[Excel テンプレート(*.xltx)]を選ぶ流れで進めましょう。
毎回ファイルをコピーして使う運用では、コピー元に直接入力してしまったり、古い版のコピーが出回ったりするケースが少なくありません。テンプレートにしておけば、入力規則・条件付き書式・集計の数式がそろった状態から、いつでも同じ表を作り始められます。
案件管理表のテンプレートを使う
ゼロから作る時間がない場合は、テンプレートを使う方法もあります。ただし、テンプレートをそのまま使うのではなく、自社の営業プロセスに合わせて直してから運用を始めることが大切です。
Microsoftのテンプレートを探す
エクセルのアプリ内では、[ファイル]→[新規]を選び、検索欄にキーワードを入れてテンプレートを探し、[作成]を選ぶと使い始められます。Microsoftが提供する日本語のテンプレートは、「楽しもう Office」のサイトでも公開されているため、確認することがおすすめです。
「楽しもう Office」では、2,000点以上のOfficeテンプレートが無料で公開されています。案件管理専用のテンプレートが見つからない場合は、進捗管理やスケジュール管理のテンプレートを土台にして、前章の基本項目を足していく方法もあります。
(出典:Microsoft「Office テンプレート – 楽しもう Office」)
テンプレートを自社に合わせて直すときに決めること
テンプレートを自社に合わせて直すときは、次の3つをそろえます。この3つを決めずに使い始めると、自社の営業プロセスと合わないまま運用が進み、途中で表を作り直すことになりかねません。
- フェーズの名称:テンプレートのフェーズ名を、自社で実際に使っている段階の呼び方に変える
- 必須項目:どの列を必ず入力するかを決め、不要な列は削除するか非表示にする
- 1行の意味:1行が1案件なのか、1タスクなのかを決める
とくに3つ目は重要です。テンプレートの中には、1行を1タスクとして作られているものもあり、そのまま案件の金額を入れると集計が重複します。手順1で説明した「1案件=1行」の考え方で見直してください。
Excelで案件管理をするメリット
ここからは、エクセルで案件管理をするメリットと課題を、対にして整理します。メリットは、始めやすさと柔軟さにあります。
新しいツールを契約せずに始められる
すでにエクセルを利用している組織では、新しいツールを契約せずに案件管理を始められます。ツール導入の承認や予算の確保を待たずに、今日から始められる点が最大の利点です。
ツールを導入するには、比較検討、稟議、契約、初期設定といった手順が必要で、始めるまでに時間がかかります。エクセルなら、まず表を作って運用してみて、必要な項目やルールを固めることができます。
なお、エクセルを使うにはライセンスが必要なため、「費用がかからない」とは言い切れない点は押さえておきましょう。
項目とレイアウトを自由に決められる
業種や商材によって、案件管理に必要な項目は変わります。エクセルなら、列の追加や削除、並べ替えをその場で行えます。
たとえば、受託開発なら「開発規模」、制作会社なら「制作物の種類」といった独自の項目を、必要になった時点で足すことが可能です。一方で専用ツールでは、項目の追加が上位プランに限られていたり、設定に管理者権限が必要だったりすることがあります。
運用を試行錯誤している段階では、この自由さが役立ちます。
テンプレートが多く流通している
案件管理表のテンプレートは、Microsoftのほかにも多く公開されています。ゼロから作らずに済むため、表の設計に時間をかけずに始められます。
また、エクセルは多くの職場で使われているため、関数や条件付き書式に詳しい人が社内にいることが多いのも利点です。表の修正や集計の追加を社内で相談しやすく、外部の支援を待たずに改善を進められます。
Excelで案件管理を続けるときの課題
一方で、エクセルで案件管理を続けると、条件によっては次のような課題が出てきます。いずれも「エクセルだから必ず起きる」ものではなく、人数や件数が増えたときに起きやすくなるものです。
更新されないと一覧が実態とずれる
エクセルの案件管理表は、誰かが更新しなければ最新の状態になりません。入力が滞ると一覧が実態とずれ、確認のためにかえって担当者へ聞いて回ることになります。
「表を見ても最新か分からないので、結局本人に聞く」という状態が続くと、表は使われなくなっていきます。これを防ぐには、更新のタイミングと責任者を決めておく必要があります。
私が関わった現場では、週次の会議の前日に担当者が更新するルールを決め、最終更新日の列に色を付けて、更新漏れが一目で分かるようにしていました。それでも、担当者が多い部署では更新の催促が管理者の仕事として残り続けました。
件数が増えると集計と絞り込みに時間がかかる
案件の件数が増え、関数や条件付き書式が増えるほど、ファイルの再計算が重くなります。集計のために毎回同じ加工をする作業が、運用の中心になっていないかを確認しておきましょう。
月次の報告のたびに、フィルターで絞り込み、別のシートにコピーし、グラフを作り直している場合、その作業時間は件数に比例して増えていきます。数式が複雑になると、作った人しか直せない表になることもあります。
閲覧と編集の権限を細かく制御しにくい
エクセルの共有は、ファイル単位で行うのが基本です。ファイル全体を表示のみで共有したり、シートの保護で編集できる範囲を制限したりはできますが、担当者や取引先ごとに見せる行を分けることは難しくなるでしょう。
案件管理表には、金額や取引先など、見せる範囲を限りたい情報が含まれます。たとえば、協力会社には自社が関わる案件だけを見せたい場合、同じファイルの中で行ごとに閲覧範囲を分けることはできません。そのため、ファイルを分けるなどの対応が必要になります。ファイルを分けると、今度は同じ案件の情報が複数のファイルに散らばり、管理することが困難です。
案件ごとの経緯を追いにくい
案件管理表には、案件の現在の状態は残りますが、そこに至るまでのやりとりや判断の記録は残りにくくなります。経緯はメールやチャット、議事録といった別の場所に散りやすく、後から追うのに時間がかかります。
セルのコメントに経緯を書く運用もありますが、書ける量に限りがあり、時系列で読み返すのには向いていません。担当者が異動したときに、「なぜこの条件になったのか」を説明できる人がいなくなる、という問題につながります。
OneDrive・SharePointで補える点と残る課題
エクセルの課題として「共同編集できない」「変更履歴が残らない」と説明されることがありますが、これは条件によっては正確ではありません。OneDriveやSharePointに保存すれば、共同編集とバージョン履歴を利用できます。
一方で、これらを使っても解決しない課題もあります。補える点と残る課題を分けて整理します。
共同編集で同時に更新できる
エクセルのブックは、条件を満たせば複数人で同時に編集できます。共同編集には、対応するエクセルと、対応する保存先・ファイル形式の3つがそろっている必要があります。
- 保存先:OneDrive、OneDrive for Business、SharePoint Onlineのライブラリ(SharePointのオンプレミスサイトは対象外)
- ファイル形式:.xlsx、.xlsm、.xlsb(Strict Open XML スプレッドシート形式は対象外)
- 対応するアプリ:Excel for Microsoft 365、Excel for Microsoft 365 for Mac、Excel for the web、Excel for Android、Excel for iOS、Excel Mobile
デスクトップ版で共同編集する場合は、Excel for Microsoft 365などの対応するバージョンが必要です。対応するデスクトップ版を利用できない場合でも、ブラウザで使うExcel for the webから共同編集できます。
(出典:Microsoft サポート「Excel ブックの共同編集を使用して同時に共同作業を行う」)
バージョン履歴で前の状態に戻せる
OneDriveやSharePointに保存したファイルは、バージョン履歴から以前の状態を確認し、必要に応じて復元できます。「エクセルでは変更履歴が残らない」というのは、この条件では正確ではありません。
Excel for the webの場合は、ファイルが保存されているフォルダーでファイル名を右クリックし、[バージョン履歴]を選ぶと、保存日時ごとのバージョンが表示されます。戻したいバージョンを選んで復元も可能です。
復元すると、選択したバージョンが現在のファイル内容になります。復元前のバージョンも履歴に残りますが、表示される内容は過去の状態に戻るため、戻す内容を確認してから実行してください。
また、Excel for Microsoft 365などの対応環境では、[校閲]タブの[変更の表示]から、誰が・いつ・どのセルを変更したかも確認できます。
(出典:Microsoft サポート「以前のバージョンの Excel ファイルを復元する」/Microsoft サポート「OneDrive に保存されているファイルの以前のバージョンを復元する」/Microsoft サポート「ブックで行われた変更を表示する」)
それでも解決しないこと
共同編集とバージョン履歴を使っても、細かな閲覧制御や、案件の経緯を集約する運用には工夫が必要です。また、更新が止まる問題は専用ツールでも起こり得るため、更新ルールは別途整える必要があります。
- 行ごとに閲覧範囲を分ける細かい権限の制御
- 案件ごとのやりとりや判断の経緯を1か所に集めること
- 更新が止まる問題(誰かが入力しなければ、共同編集できても最新にはならない)
なお、期限や更新の通知は、Power Automateを組み合わせれば仕組みを作れます。
ただし、その設計と保守は自社で行う必要があります。これらの課題が運用の負担になってきたら、次章で説明する移行の目安を確認してください。
専用ツールへの移行の目安と準備
エクセルから専用ツールへ移行するかどうかは、人数や件数の数字ではなく、運用の状態で判断します。同じ件数でも、更新の頻度や関わる人数によって、エクセルで回るかどうかは変わるためです。
|
観点 |
Excelで続ける場合 |
専用ツールに移す場合 |
|
同時編集 |
OneDrive・SharePoint上で対応するExcelを使えば可能 |
標準で複数人が同時に更新できる |
|
変更履歴 |
ファイル単位のバージョン履歴。対応環境では[変更の表示]でセル単位の編集内容も確認可能 |
案件(項目)ごとに更新の履歴が残る製品が多い |
|
集計 |
関数で集計できるが、数式の設計と保守が必要 |
集計画面が用意されていることが多い |
|
権限管理 |
ファイル単位の共有とシートの保護が基本 |
案件やユーザーごとに閲覧・編集範囲を設定できる製品が多い |
|
通知 |
Power Automateなどで別途設定する |
期限や更新の通知を標準で備える製品が多い |
更新の頻度と入力する人数で判断する
まず確認するのは、表を更新する頻度と、入力する人数です。毎日のように複数の部署から更新が入るのか、週に1回、限られた担当者が更新すればよいのかで、エクセルの負担は大きく変わります。
入力するのが1人か少人数で、更新が週1回程度なら、エクセルでも十分に回ります。一方、複数の部署にまたがって日々更新が発生し、更新漏れの催促や、最新版の確認に時間を取られているなら、移行を検討する段階です。
当てはまる項目の数ではなく、今の運用にかかっている負担の大きさで判断してください。
集計の手間が運用の中心になっていないか
次に確認するのは、集計にかけている時間です。報告資料を作るために毎回同じ加工をしているなら、その時間が移行にかかる費用や手間を上回っていないかを比べてみましょう。
案件の件数や金額に加えて、工数の集計まで手作業で行っている場合は、工数管理の仕組みを先に整える方法もあります。無料で使える工数管理ツールは下記の記事で紹介しています。
移行するときに決めること
専用ツールへ移行すると決めたら、次の3つを先に決めておきます。下記のポイントを決めずに移行すると、ツールとエクセルの両方に情報が残り、どちらが正しいのか分からなくなります。
- 列の対応づけ:エクセルの列(案件名/顧客/担当/金額/フェーズ/期限)を、ツールのどの項目に入れるか
- 移行する期間の範囲:進行中の案件だけを移すのか、過去の案件も含めるのか
- 移行後の元ファイルの扱い:読み取り専用で残すのか、更新を止めて保管するのか
移行後は、案件の件数と金額の合計が元のデータと一致しているかを確認します。移行先のツールの比較は、次の記事を参考にしてください。
受注後の案件管理をExcelから移すならLychee Redmine
ここまで挙げてきたエクセルの課題は、「更新されない」「経緯が追えない」「権限を制御しにくい」の3つに整理できます。当社のLychee Redmineでは、受注後の案件管理で起きるこれらの課題に対応する機能を、同じ環境でご利用いただけます。
Redmineをベースにしているため、プロジェクトごとにメンバーと役割を設定し、閲覧・編集できる範囲を分けることもできます。
案件ごとの進捗をガントチャートで共有できる
Lychee Redmineは、案件をプロジェクト単位で管理し、タスクの階層と日程をガントチャートの1画面で共有できるツールです。関係者は担当者に聞かなくても、案件ごとの進み具合と遅れているタスクを確認できます。
担当者が入力したタスクの状態や進捗を、関係者が同じ画面でチェックできることも特徴です。報告を集めて転記する手間を減らせますが、更新のタイミングと担当者を決めておけば、報告を集めて転記する手間を減らせます。
やりとりと判断の記録を案件に紐づけられる
チケット(タスク)ごとにコメントと更新履歴が残るため、「いつ、誰が、何を変えたか」を後から追えます。エクセルの課題として挙げた「案件ごとの経緯を追いにくい」への回答にあたる機能です。
判断の理由や顧客とのやりとりをチケットのコメントとして残しておけば、担当者が変わっても経緯を引き継ぐことができます。関連するファイルもチケットに添付できるため、情報がメールやファイルサーバーに散らばりにくくなります。
工数とリソースを同じ環境で確認できる
プレミアムプラン以上では、タスクごとに予定工数と実績工数を記録し、メンバーごとの負荷を確認できます。複数の案件を掛け持ちするメンバーに作業が集中していないかを、同じ環境で把握できます。
エクセルで工数を集計していた場合、その集計作業そのものを減らせるでしょう。
30日間の無料トライアルで運用を確認できる
Lychee Redmineの有料プランは、30日間の無料トライアルで試せます。ユーザー数の制限がなく、クレジットカードの登録も不要なため、エクセルからの移行を実際のメンバー全員で確かめられます。
案件の日程管理まで確認したい場合は、無料トライアルで有料プランの機能を試してください。トライアル期間の終了後、間を空けずに本利用を開始する場合は、入力したデータを引き継げます。
Excelでの案件管理に関するよくある質問
ここからは、エクセルで案件管理をする際によくある質問とその回答を紹介します。これらの内容を知っておけば、案件管理する際に生じる疑問やトラブルを未然に防ぎやすくなります。
必ず確認しておきましょう。
案件管理シートのテンプレートはどこで手に入りますか?
エクセルのアプリ内で[ファイル]→[新規]を選び、キーワードで検索する方法と、Microsoftの「楽しもう Office」のサイトで探す方法があります。どちらの場合も、フェーズの名称・必須項目・1行の意味を自社に合わせて直してから使い始めてください。
見やすい案件管理表にするにはどうすればよいですか?
見やすさは、次の4つの工夫で大きく変わります。色や罫線を足すよりも、減らしてそろえるほうが、一覧は読みやすくなります。
- [表示]タブの[ウィンドウ枠の固定]で見出し行を固定し、スクロールしても項目名が見えるようにする
- 列幅と、日付・金額の表示形式を列ごとにそろえる
- 条件付き書式の色は2〜3色に絞り、期限超過や更新漏れなど意味のある行だけに付ける
- 不要な罫線を減らし、行の区切りが分かる程度にとどめる
Excelで案件管理システムを自作できますか?
入力規則・条件付き書式・関数の範囲であれば、この記事で紹介した手順のように、案件の入力・可視化・集計までを自作できます。ただし、マクロ(VBA)で機能を作り込むと、作った人しか直せない仕組みになりやすく、保守の負担が大きくなります。
担当者の異動や退職で直せる人がいなくなると、表そのものが使えなくなることもあります。作り込みが必要になってきたら、専用ツールへの移行とあわせて検討してください。
Excelの代わりになる無料のソフトはありますか?
大きく分けて、Googleスプレッドシートを使う方法と、無料プランのある専用ツールを使う方法があります。どちらが優れているというものではなく、今の運用の課題に合わせて選びます。
Googleスプレッドシートは、ブラウザーで共同編集を始めやすいのが特徴です。関数や条件付き書式の多くはエクセルと同じ考え方で使えますが、対応する関数や設定の画面には違いがあるため、エクセルで作った表をそのまま移す場合は動作を確認してください。
まとめ:基本項目と更新ルールを決めてから作ろう
エクセルでの案件管理は、基本項目と更新のルールを決めれば、新しいツールを契約せずに始められます。大切なのは、関数の難しさよりも、「1行に何を入れるか」と「誰がいつ更新するか」を最初に決めることです。
- 基本項目:案件を特定する項目、進捗を示す項目、日付の項目、担当と金額の項目
- 作る手順:1案件1行の構成を決める → 入力用のシートを作る → 入力規則でプルダウンを作る → 条件付き書式で期限と滞留を目立たせる → SUMIFSとCOUNTIFSで集計する → テンプレートとして保存する
- 移行の目安:更新の頻度と入力する人数、集計の手間が運用の中心になっていないか
OneDriveやSharePointを使えば共同編集とバージョン履歴で補える点もありますが、権限の細かい制御や経緯の集約といった課題は残ります。今の運用にかかっている負担を確認しながら、エクセルで続けるか、専用ツールへ移すかを判断してください。
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