
本記事は「専門家が教えるPMBOKの理論と実践」第6回です。
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※本記事は、Ridgelinezのプロジェクトマネジメント専門家が監修しています。
PMBOKはプロジェクトマネジメントの知識体系がまとめられたガイドブックです。第7版では原理・原則ベースの構成に変わりましたが、旧版の実用性は損なわれていません。プロジェクトマネジメントの実務において、第6版の知識体系は現在も有用です。
そこで本連載では、第6版に記された「10の知識エリア」に着目。今回はプロジェクトの3要素と密接に関連する「品質マネジメント」、そして「調達マネジメント」「資源マネジメント」について解説します。記事の監修者はRidgelinez(戦略から実行まで支援する総合プロフェッショナルファーム)のプロジェクト経験豊富なエキスパートたち。同社の尾形順一氏は、日本プロジェクトマネジメント協会および大学の講師も務めています。各分野の専門知識を身につけ、プロジェクト管理を強化しましょう。
品質マネジメントとは? PMBOKに基づく品質管理
プロジェクトの3要素と品質
これまでの記事では「スコープ」「スケジュール」「コスト」のマネジメントについて解説してきました。この3要素と「品質」は密接に関連しています。それを示すのが、プロジェクトの“鉄の三角形”。中心に「品質」が位置しています(下図参照)。

ウォーターフォール型の場合、プロジェクトの計画段階で機能(スコープ)を固定します。左図の正三角形がプロジェクト管理の基本です。本来必要な予算(コスト)や期間(スケジュール)を無理に縮減すると、右図の三角形のように品質が悪化します。つまり、プロジェクトの3要素が品質に影響を与えるわけです。
品質マネジメントの要点
「品質マネジメント」とは、成果物とプロジェクト自体の品質を管理する一連の活動です。その主眼は計画段階で品質を作りこみ、失敗を減らすこと。そして、予防と改善を繰り返すことです。PMBOKには、以下5つの基本項目がまとめられています。
品質とは要件を満たすこと
たとえばシステム開発プロジェクトにおいて、開発側の独断で品質は定義できません。発注側の品質要求事項にそった要件を満たしたとき、はじめて成果物が品質基準に達したことになります。
プロジェクト開始前に、品質測定に使用する測定基準を決定
ここでの「プロジェクト開始前」とは、プロジェクトの計画段階をさします。成果物の品質を客観的に評価するために、あらかじめ品質の測定基準を定めます。
認可されたアプローチとプロセスを確実に実行
プロジェクト自体の品質を担保する項目です。事前に計画・承認された方法通りに、品質管理を行います。
完成する前に、品質をチェックする
成果物ができあがる前に、多角的な観点から品質を検証・確認します。この項目は事前確認の大原則を示すものであり、最終検査に重点を置くわけではありません。
品質管理プロセスを定義し、継続的に改善
計画書などに定めたプロセスにしたがって、品質管理のPDCAサイクルを回します。他のマネジメント領域においても、継続的な改善は重要です。
検査よりも予防
5つの基本項目の他に、品質マネジメントの基本方針があります。それは「検査よりも予防」という考え方。品質は検査によって実現されるものではありません。事前に品質を計画・設計し、プロジェクトマネジメントそのものに組み込むことが重要です。
たとえば、金融機関のシステムは本番障害が許されず、厳格な最終検査が行われます。その大詰めで重大な不具合が見つかり、設計からやり直すケースも少なくありません。品質マネジメントとして、これは最善の方法でしょうか? 最終検査に時間と予算を費やすよりも、予防(上流工程の計画やレビューなど)に注力するほうが効率的に不具合を防げるでしょう。
品質マネジメントの流れ
品質管理の3ステップ
「品質マネジメント」のステップは、以下の3段階に分けられます。

シンプルな構造に見えますが、単線的な流れではありません。各段階で作成する文書や成果物などを追加し、それぞれの関係を下図に整理しましょう。

注目すべき点は、第2ステップ「品質のマネジメント」と第3ステップ「品質のコントロール」が循環していること。これは品質コントロールの測定結果を踏まえて、改善を繰り返すことを意味しています。
また「品質のマネジメント」のアウトプットとして「品質報告書」も欠かせません。これは成果物の品質をステークホルダーに伝える文書。チェック項目にそって、品質の達成基準を満たしているかどうかを確認します。
品質マネジメントの計画
品質マネジメントにおいて、もっとも重要なプロセスは計画です。以下の内容を「品質マネジメント計画書」に明記して、第三者のレビューを受けましょう。第三者とは、プロジェクトマネージャー以外の人や組織(品質保証部やPMOなど)。計画書の精度を高めて、事前に品質を作りこんでください。
- プロジェクトが使用する品質基準
- プロジェクトの品質目標
- 品質に関する役割と責任
- 品質レビューを受けるプロジェクトの成果物とプロセス
- プロジェクトのために計画された品質のコントロール、および品質のマネジメントの活動
- プロジェクトで使用する品質ツール
- 不適合、是正処置の手続き、および継続的改善の手続きなど、プロジェクトに関連のある主要な手続き
特に重要な項目は、3つめの「品質に関する役割と責任」 。どの段階で誰が品質を確認するのか? 責任の所在を明確化して、ステークホルダーと認識を一致させましょう。ここが不十分だと、品質のみならず、スケジュールやコストにも悪影響を与えかねません。
たとえば、成果物のリリース前に上長の承認を得るとき。品質の責任範囲を定めておかないと「ウチはOKだけど、他の部署にも申請して」など、想定外の工程が生じる場合があります。
品質マネジメントのツールと技法
品質マネジメントでは、計画・実行・コントロールの各段階でさまざまなツールと技法を活用します。たとえば下図(特性要因図)は、問題や結果の因果関係を整理し、原因を追究するためのツール。その形状から「魚の骨ダイアグラム」とも呼ばれます。これ以外にも多様なツールと技法があるので、適宜調べて活用してください。

資源マネジメントとは? PMBOKに基づくリソース管理
チーム資源と物的資源
ここからは「資源マネジメント」について解説します。PMBOKにおける「資源」とは、プロジェクトを成功裏に完了させるために必要なリソースのこと。人的な要素全般をさすチーム資源と、物理的な要素全般をさす物的資源に大別されます(下図参照)。

資源マネジメントの流れ
資源管理の6ステップ
「資源マネジメント」とは、プロジェクトに必要な資源を計画・獲得・管理する一連の活動です。具体的なステップは、以下の6段階に分けられます。

特筆すべきなのは、実行プロセス群です。「資源」という日本語からはイメージしづらいかもしれませんが、いわゆる人材育成(チームの育成・マネジメント)を含みます。各段階で作成する文書などを追加し、それぞれの関係を下図に整理しましょう。

資源マネジメントの計画
第1ステップ「資源マネジメントの計画」では、2種類の重要文書を作成します。ひとつは「資源マネジメント計画書」。プロジェクト資源をどのように識別・獲得・管理、そして最終的に解放するかを明文化したものです。実務的には「プロジェクトマネジメント計画書」の一部(補助計画書)として作成する場合が多いでしょう。
もうひとつの重要文書は「チーム憲章」。プロジェクトチームの価値観、コミュニケーションや会議のガイドライン、行動規範などを定めた合意文書です。なかでもチームの価値観と合意は欠かせません。「多様性を大切にする」「革新的な製品開発をめざす」といったチームの方針を明文化し、メンバー全員の合意を形成しましょう。
資源の見積もり
第2ステップ「アクティビティ資源の見積もり」では、プロジェクトの各作業に必要なチーム資源と物的資源を見積もります。そのアウトプットとして「資源要求事項」を作成。必要な資源の種類・数量、利用可能な時期などを文書にまとめます。
資源の獲得
第3ステップ「資源の獲得」では、プロジェクト遂行に必要なチームメンバー、施設、機器、材料などの人的・物的資源を確保します。組織内部や外部から適切な資源を特定し、プロジェクトへ割り当てます。
▶関連項目:5「調達マネジメントとは? PMBOKの基礎知識」
チームの育成
第4ステップ「チームの育成」では、プロジェクトマネージャーがメンバーのキャリア形成などを支援します。人は作業ロボットではありません。メンバーのやる気やパフォーマンスを高めるためにも、一人ひとりの志向とプロジェクトの担当業務をすり合わせましょう。
たとえば、生成AIなどの先端技術を活用するプロジェクトの場合、その分野のスキルを伸ばしたいメンバーと面談し、プロジェクトにおける個人目標を設定します。さらに、人事部門や開発部門と連携。キャリア計画書やスキルマトリックスなどを活用して、各メンバーを育成しましょう。
チームのマネジメント
第5ステップ「チームのマネジメント」の目的は、プロジェクトチームのパフォーマンスを最大化すること。そのために、チーム運営や人間関係を円滑化します。なかでもコンフリクトマネジメントは欠かせません。これはチーム内の衝突や対立を解決したり、その悪影響を緩和したりすること。以下にコンフリクトを解消する方法をまとめます。

上記5つのうち、「撤退や回避」「強制や指示」は望ましくありません。理想的な方法は「協力や問題解決」ですが、丁寧な対話と合意形成に時間を要する場合があります。ときには「鎮静や適応」「妥協や和解」が得策でしょう。
調達マネジメントとは? PMBOKに基づく調達管理
購入者と納入者
ここからは「調達マネジメント」について解説します。PMBOKにおける「調達」とは、プロダクトやサービスなどをプロジェクトチームの外部から取得すること。資源マネジメントにおける「資源の獲得」のうち、外部との取引や契約をともなう行為をさします。
つまり、調達の主体である「購入者」はチームの内部、「納入者」はチームの外部に存在します。両者を左右に配置し、調達の全体像を下図に示します。

PMBOKにおける「合意書」は契約書や注文書などを含む幅広い概念です。この文書で納入者が購入者に提供する製品・サービス、成果物、前提条件などを明確化し、法的な拘束力をもたせます。口頭でも法的な契約は成立しますが、後々のトラブルを招きかねません。プロジェクトマネージャーと法務部門が連携し、正式な合意書を作成しましょう。
契約タイプの分類
購入者と納入者の契約には、さまざまなタイプがあります。PMBOKでは以下の3種類に大別しています(いずれも欧米における一般的な類型であり、日本の法律で定められた契約形態ではありません)。
定額契約
納入者側のコストにかかわらず、契約で定めた金額を支払う契約です。「完全定額契約」以外にも、成功報酬の条件を定める「定額インセンティブフィー契約」、経済状況の変化に応じて最終調整を行う「経済価格調整つき定額契約」などがあります。日本の「請負契約」の多くは、定額契約に該当します。
実費償還契約
納入者が請負った作業の全コストに、固定額や成功報酬などを加えて支払う契約です。成功報酬の条件を定める「コストプラス・インセンティブフィー」、購入者の主観で報奨金を判断できる「コストプラス・アワードフィー」などがあります。
タイム&マテリアル契約
定額型と実費償還型の特徴をもつ複合型の契約です。意訳すると、実費精算契約。要員補強など、作業範囲を明確に決められないときに交わされる場合が多いでしょう。
契約タイプのリスク
契約タイプによって、購入者・納入者のリスクは変動します。下図を参照し、それぞれのリスク特性を把握してください。

最上部の「定額契約」は購入者のリスクが低く、納入者のリスクが高くなります。ただし、上図が示すのはウォーターフォール型におけるコスト面のリスク。アジャイル型における定額契約の場合、購入者(発注者)はスコープ面のリスク(製品の機能削減など)が生じます。プロジェクトの優先順位や開発アプローチの特性を踏まえて、適切な契約を選びましょう。
調達マネジメントの流れ
調達管理の3ステップ
「調達マネジメント」とは、調達を計画・実行・管理する一連の活動です。具体的なステップは、以下の3段階に分けられます。

各段階で作成する文書などを追加し、それぞれの関係を下図に整理しましょう。

調達マネジメントの計画
第1ステップ「調達マネジメントの計画」では、同分野の計画書と調達文書を作成します。後者は必要な製品・サービス、提供要件、評価基準などを明示する文書。おもな内容は以下の通りです。
入札文書
情報提供依頼書(RFI)、見積依頼書(RFQ)、提案依頼書(RFP)などの総称です。官公庁の入札などで利用されています。
調達作業範囲の記述書
納入者が明確に回答できるように、調達で求める内容(目標・要求事項・成果など)を詳細に記した文書です。RFPなどの入札文書に盛り込まれる場合もあります。
独自コスト見積もり
納入候補者などから提出された見積もりの妥当性を検証する手段です。購入者が独自に情報を収集し、必要なコストを見積もります。広義の相見積もりと解釈してもいいでしょう。
発注先の選定基準
価格と品質だけで発注先(納入者)を選ぶとは限りません。納期遵守率、財務基盤、障害対応、情報セキュリティ、サステナビリティ、ISO対応など、重視する選定基準を定めておきましょう。これを明文化しておかないと、内部監査部門や株主などから調達の適正性を問題視される場合があります。
【補足】多重下請け構造の問題
PMBOKは欧米の商慣習を背景にしているため、購入者と納入者の対等な関係を前提にしています。しかし、日本の商取引は対等な関係ばかりではありません。多重下請け構造による上下関係が生まれ、重大な問題が起こりやすくなっています。そこで、PMBOKがカバーしていない調達の注意点を補足します。
たとえば、元請けが開発プロジェクトの再委託を行う場合、十分な予算や期間を確保しない場合があります。二次請け以降の受注者は立場が弱く、予算増加や期間延長を求めにくい状況に置かれています。かといってスコープの縮小も許されず、やがて品質にしわ寄せが及びます。こうした構造が、システム障害の頻発につながる一因になっている可能性もあります。結果として、発注者・受注者(購入者・納入者)双方に不利益をもたらしています。
法律から「下請け」という言葉が消えても、その構造自体は消えません。発注者は受注者に圧力をかけず、必要な予算や期間を確保しましょう。対等な関係を築かなければ、PMBOKの前提自体が崩れます。
品質・資源・調達管理のポイント

品質管理は“検査よりも予防”
品質は検査によって実現されるものではありません。システムの最終検査に時間と予算を費やすよりも、予防(上流工程の計画など)に注力するほうが効率的に不具合を防げます。第三者のレビューを受けて、品質マネジメント計画書の精度を高めましょう。
「チームの価値観」を文書で共有
PMBOKにおける「資源」は、物的資源とチーム資源に大別されます。後者のマネジメントに欠かせないのが「チーム憲章」。チームの価値観、各種ガイドライン、行動規範などを定めた合意文書です。この憲章に「多様性を大切にする」「革新的な製品開発をめざす」といった方針を明文化し、メンバー全員の合意を形成しましょう。
発注先の選定基準を明確に
調達マネジメントの第一歩は、調達文書の作成。その際に「発注先の選定基準」を定義しましょう。価格、品質、納期遵守率、財務基盤、障害対応といった基準を明文化しておかないと、内部監査部門や株主などから調達の適正性を問題視される場合があります。
PMBOKの各マネジメントは、単体ではなく「チームでどう回すか」が重要です。
その具体的な進め方や、実務での活用イメージをまとめた資料をご用意しています。理解をさらに深めたい方は、あわせてご覧ください。
![]() | <お役立ち資料> Lychee RedmineでできるPMBOK この記事で紹介した「PMBOK(ピンボック)」と、Lychee Redmineの活用方法を結びつけて解説した資料です。 この資料でわかること
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次回は、「ステークホルダー・コミュニケーション・リスクマネジメント」について解説します。
<参考資料>
プロジェクトマネジメント知識体系ガイド(PMBOK®ガイド)第6版および第7版+プロジェクトマネジメント標準、PMI®
この記事に関するよくある質問 (FAQ)
品質マネジメントとは、成果物とプロジェクト自体の品質を計画・管理・改善する一連の活動です。PMBOKでは、上流工程の計画段階から品質を作り込み、失敗を未然に防ぐことが重視されています。品質は下流工程の検査で実現されるものではありません。
最終検査に依存すると、不具合の発見が遅れ、手戻りやコスト増加につながりやすいからです。検査に時間と予算を費やすよりも、予防(上流工程の計画やレビューなど)に注力するほうが効率的に不具合を防げます。
まずは契約タイプごとのリスク特性を理解すること。そして、発注先の選定基準を明確にすることがポイントです。
価格だけで判断すると、品質やスケジュールなどに悪影響を及ぼす可能性があります。組織やプロジェクトが重視する項目を整理して、総合的な観点で判断しましょう。
監修者プロフィール
![]() | Ridgelinez株式会社 プロジェクトマネジメントおよびアジャイルDevOpsの専門家。日立製作所、デロイトトーマツコンサルティングなどを経て現職。大規模アジャイルおよびアジャイルシフト、DXにともなう組織的変革管理(OCM)において、数多くの実践経験を有する。日米欧のプロジェクトマネジメントおよびアジャイル標準に精通し、日米欧3団体の最上位認定を保有。企画・要件整理・設計・開発・テスト・運用・内製化まで、実践型の伴走を行う。これまでに40件以上のプロジェクトマネジメントを経験。日本プロジェクトマネジメント協会のPMBOK講座のほか、私立大学でもプロジェクトマネジメント論の講師を務める。 【保有学位】 【保有資格】 |
![]() | Ridgelinez株式会社 富士通システムソリューションズに入社後、フィールドSEとして流通業や運輸業などの基幹システム再構築プロジェクトに参画。富士通へ転籍後、プロジェクトマネージャーとして、総合商社・専門商社の基幹システム再構築プロジェクトを担当。2021年、アジャイル開発プロジェクトの実践経験を活かし、部門全体のアジャイル普及に向けた商談プロセス・商材の標準化や、アジャイル研修の設計・作成と講師などの活動を行う。2024年より現職。 【保有資格】 |
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