
本記事は「専門家が教えるPMBOKの理論と実践」第8回です。
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※本記事は、Ridgelinezのプロジェクトマネジメント専門家が監修しています。
PMBOKはプロジェクトマネジメントの知識体系がまとめられたガイドブックです。第7版では原理・原則ベースの構成に変わりましたが、旧版の実用性は損なわれていません。プロジェクトマネジメントの実務において、第6版の知識体系は現在も有用です。
そこで本連載では、第6版に記された「10の知識エリア」に着目。その締めくくりとして、プロジェクト全体のプロセスと活動をまとめる「統合マネジメント」について解説します。記事の監修者はRidgelinez(戦略から実行までを支援する総合プロフェッショナルファーム)のプロジェクト経験豊富なエキスパートたち。同社の尾形順一氏は、日本プロジェクトマネジメント協会および大学の講師も務めています。すべての知識エリアを統合的に理解し、プロジェクトの立ち上げから終結まで適切に管理しましょう。
統合マネジメントとは? PMBOKに基づく全体最適と調整
統合マネジメントの役割
「統合マネジメント」とは、プロジェクト開始から終了まで全体の計画・実行・監視・コントロール・終結を統合する一連の活動です。プロジェクト全体のプロセスと活動をまとめ、矛盾なく調整する中心的な役割を担っています。
いわば、プロジェクト管理の司令塔。その周りを他9つのマネジメント領域(知識エリア)が取り囲むようなイメージです。まずは全体像を把握するため、以下に概要を列記します。
- 成果物の提出期限、プロジェクトライフサイクル、ベネフィット(便益・利益など)マネジメント計画書との整合
- プロジェクトマネジメント計画書を作成
- 適切な知識の創出と利用
- パフォーマンスと変更をマネジメントし、変更について統合的な決定
- 進捗状況の測定・監視
- 結果に関するデータの収集・分析、ステークホルダーへの伝達
- プロジェクト全体の正式な終結と※フェーズの移行
※フェーズ:プロジェクトを管理しやすい単位に区切る段階。システム開発においては「要件定義」「設計」「開発・実装」「テスト」などの各工程がフェーズに相当する。
統合マネジメントの流れ
統合管理の7ステップ
「統合マネジメント」のステップは、以下の7段階に分けられます。

他のマネジメント領域との大きな違いは、立ち上げから終結まで、すべてのプロセスを一貫して管理していること。そして「統合変更管理」というプロジェクト管理の要所を含んでいることです。各段階で作成する文書や成果物などを追加し、それぞれの関係を下図に整理しましょう。

このフローチャートこそ、プロジェクト管理の基本図。すべてのメンバーが把握すべき全体像です。左上の「ビジネス文書」とは、プロジェクト立ち上げの理由、プロジェクトで得られる便益・利益などを記載した書類一式をさします。これらを基盤に「プロジェクト憲章」を作成します。
プロジェクト憲章の作成
「プロジェクト憲章」とは、プロジェクトマネージャーに権限を与え、プロジェクトの目的・目標などを定める基本文書です。スケジュールやコストの計画を盛りこむ必要はありません。スコープの大枠を示し、ステークホルダーと共通認識を形成します。
この憲章の作成こそ、プロジェクトの始まり。PMBOKには「プロジェクトマネージャーの決定と任命は、常に計画策定に先立ち、プロジェクト憲章の作成中に行うのが望ましい」と記されています。しかし、実務的には憲章の作成前にプロジェクトマネージャーを任命しておくほうがいいでしょう。
その理由は、プロジェクトのスポンサー(顧客や上級管理職など)とプロジェクトマネージャーが共同で憲章を作成するため。そうすれば、プロジェクトの目的・目標、期待される便益・利益などをプロジェクトマネージャーがより深く理解できます。
プロジェクトマネジメント計画書の作成
プロジェクト憲章を作成した後、第2ステップ「プロジェクトマネジメント計画書の作成」に移ります。この計画書はプロジェクトの計画全体を統合し、実行・監視・コントロール・終結の指針となる文書。スコープマネジメントやスケジュールマネジメントなど、各領域の補助計画書を含む場合もあります。
必須の内容は、プロジェクト3要素の基本情報。少なくとも、スコープ・スケジュール・コストのベースライン(参照基準)を定義します。たとえば「機能は100個」「期間は1年」「予算は1億円」といった基準値を決定します。この後は第6ステップの「統合変更管理」を通さなければ、ベースラインを変更できません。
プロジェクト知識のマネジメント
第4ステップ「プロジェクト知識のマネジメント」とは、プロジェクトの成功例・失敗例・注意事項などを集約して、知識資産として活用することです。たとえば「どの段階で、どんな問題が生じ、どう乗り越えたのか?」といった実例の因果関係を整理して「教訓登録簿」にまとめます。
これは全社的な知識資産です。プロジェクトごとに個別管理せず、組織全体で共有しましょう。この教訓登録簿が蓄積・更新されるほど、組織全体のプロジェクト管理能力が向上します。
統合変更管理
第6ステップ「統合変更管理」では、プロジェクトの計画やベースラインに対する変更要求を評価・承認・管理します。
その特徴はすべての知識エリアの変更要求を文書化し、統合的な方法で検討すること。そして、変更が引き起こすプロジェクトの全体リスクに対処することです。スコープ・スケジュール・コストなど、相互に影響する変更要求を統合的に評価して、全体最適をめざします(下図参照)。

この統合変更管理は、プロジェクトマネージャーの独断で行ってはいけません。PMBOKは「変更管理委員会」の設置を推奨しています。委員選びのポイントは、客観性と多様性。品質保証部・経営企画部・監査部など、チーム外からも委員を任命しましょう。チーム内のメンバーばかりが委員を務めると、客観的な判断が難しくなります。
変更管理委員会の役割は、変更要求の可否を判断するだけではありません。変更を承認した場合は、成果物やプロジェクト文書などへの変更を適切に反映します。その後、変更内容などの決定事項をステークホルダーに伝達します。
プロジェクトやフェーズの終結
最後のステップは「プロジェクトやフェーズの終結」。すべての活動を完了させ、契約を終了し、最終成果物や教訓を引き渡します。システム開発プロジェクトの場合、そのソースコードやシステム構成図、障害対応マニュアルなどを運用部門に引き渡します。
その際のポイントは引き継ぎチェックリストを作成して、運用部門とミーティングを行うこと。課題が残っている場合は、その詳細と対処法を共有しましょう。飛ぶ鳥、跡を濁さず。引き継ぎが不十分だと、後々のトラブルが生じやすくなります。
コミュニケーションが必要なのは、最終成果物を引き渡す部門だけではありません。すべてのステークホルダーを終結プロセスに関与させてください。関与の適切な方法は、関係者ごとに異なります。ステークホルダーエンゲージメント計画書などを参照し、最終報告会への出席依頼、議事録の送付などを行いましょう。
最後の仕上げは、ステークホルダー満足度の測定。会議やアンケート、インタビューなどの手法を用いて、関係者の満足度を測定します。プロジェクト単位ではなく、組織全体で取り組んだほうがいいでしょう。
全体最適を実現する統合管理のポイント

憲章の作成前にPMを任命
「プロジェクト憲章」はプロジェクトの目的・目標などを定める基本文書です。プロジェクトマネージャーの任命時期について、PMBOKは憲章の作成中を推奨していますが、実務的には憲章の作成前がいいでしょう。そのほうが、憲章に対するプロジェクトマネージャーの理解が深まります。
統合変更管理は客観的に
「統合変更管理」とは、プロジェクトの計画やベースラインに対する変更要求を統合的に評価・承認・管理すること。その主体として、PMBOKは「変更管理委員会」の設置を推奨しています。客観的な評価を行うため、プロジェクトチームの外部からも委員を任命しましょう。
運用部門に引き継ぎを
プロジェクトの終結は、全業務の完了を意味しません。システム開発プロジェクトの場合、最終成果物などを運用部門に引き渡します。その際に引き継ぎチェックリストを作成し、運用部門とミーティングを行いましょう。課題が残っている場合は、その詳細と対処法を共有してください。
PMBOKの統合マネジメントは、プロジェクト全体をつなぐ重要な考え方です。しかし実際の現場では、計画やルールがあっても運用がバラバラになるケースも少なくありません。
こうした課題を防ぐには、チームで回る仕組みが欠かせません。PMBOKを実務に落とし込む方法をまとめた資料をご用意しています。ぜひご覧ください。
![]() | <お役立ち資料> Lychee RedmineでできるPMBOK この記事で紹介した「PMBOK(ピンボック)」と、Lychee Redmineの活用方法を結びつけて解説した資料です。 この資料でわかること
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<参考資料>
プロジェクトマネジメント知識体系ガイド(PMBOK®ガイド)第6版および第7版+プロジェクトマネジメント標準、PMI®
この記事に関するよくある質問 (FAQ)
統合マネジメントとは、プロジェクトの開始から終了まで、計画・実行・監視・コントロール・終結のすべてを横断的に調整・管理する活動です。
PMBOKでは、各知識エリアを個別に管理するのではなく、全体最適の観点で統合する中心的な役割として位置づけられています。
ひとつの変更が、プロジェクト全体や他の領域にも影響を及ぼす可能性があるからです。たとえばプロダクトの機能を増やす場合、予算の増額や期間の延長が必要になる可能性もあります。つまり、スコープ拡大の個別評価だけでは、その変更が引き起こすプロジェクトの全体リスクを見極められません。
統合変更管理では、すべての変更要求を文書化し、それらの影響を統合的に評価します。そのうえで承認・手直し・却下などの意思決定を行い、プロジェクトの全体リスクを抑え、ガバナンスを担保します。
原則として、統合マネジメントの責任者はプロジェクトマネージャーです。ただし、変更管理などの重要な判断は例外事項。PMBOKでは、変更管理委員会や上級管理職を含めた体制による客観的な判断が推奨されています。
監修者プロフィール
![]() | Ridgelinez株式会社 プロジェクトマネジメントおよびアジャイルDevOpsの専門家。日立製作所、デロイトトーマツコンサルティングなどを経て現職。大規模アジャイルおよびアジャイルシフト、DXにともなう組織的変革管理(OCM)において、数多くの実践経験を有する。日米欧のプロジェクトマネジメントおよびアジャイル標準に精通し、日米欧3団体の最上位認定を保有。企画・要件整理・設計・開発・テスト・運用・内製化まで、実践型の伴走を行う。これまでに40件以上のプロジェクトマネジメントを経験。日本プロジェクトマネジメント協会のPMBOK講座のほか、私立大学でもプロジェクトマネジメント論の講師を務める。 【保有学位】 【保有資格】 |
![]() | Ridgelinez株式会社 富士通システムソリューションズに入社後、フィールドSEとして流通業や運輸業などの基幹システム再構築プロジェクトに参画。富士通へ転籍後、プロジェクトマネージャーとして、総合商社・専門商社の基幹システム再構築プロジェクトを担当。2021年、アジャイル開発プロジェクトの実践経験を活かし、部門全体のアジャイル普及に向けた商談プロセス・商材の標準化や、アジャイル研修の設計・作成と講師などの活動を行う。2024年より現職。 【保有資格】 |
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