「生産性を上げたいけど、どの方法を採用したら良いのかわからない」といった課題をお持ちではないでしょうか。

現代のビジネスシーンにおいて、効率的なタスク管理は成功の鍵です。数あるタスク管理の中でも、トヨタ自動車で生まれた「カンバン方式」は工場の生産管理をはじめ、多くの企業・様々な業界で採用され、成果を上げています。

本記事では、カンバン方式の基礎知識やメリット・デメリット、運用のポイントなどを解説します。これを機に、あなたのビジネスにカンバン方式を取り入れ、業務効率化を実現しましょう。

カンバン方式とは

カンバン方式とは

カンバン方式とは、日本最大の自動車メーカーであるトヨタ自動車で誕生した生産管理方式です。「必要なものを」「必要なときに」「必要なだけつくる」という考えをもとに開発されました。製造する商品に「カンバン」と呼ばれる商品管理カードを取り付け、商品名や品番、保管場所などの情報を明記します。

  • いつ
  • どこで
  • 何が
  • どれだけ使われたか

これらを明確にすることで、生産現場での在庫を最小限に抑え、効率的な生産体制を実現できます。主に製造業で採用されていましたが、現在では一般企業でも、導入する企業が増えてきました。

なお、「カンバン」は、日本語の「看板」の意味です。また、カンバン方式はジャストインタイム「JIT(Just In Time)」方式とも呼ばれています。

トヨタの生産方式(TPS)におけるカンバン方式の2つの軸

トヨタ生産方式(Toyota Production System:TPS)とは、徹底的なムダの排除と効率化を追求することで、高品質な製品を低コストで、かつ迅速に顧客に提供するための生産管理システムです。

TPSの根幹をなすのは、「ジャストインタイム(JIT)」と「自働化」という2つの考え方です。

考え方 意味
ジャストインタイム 必要なものを、必要な時に、必要なだけ生産するという考え方です。これにより、過剰な在庫を抱えることなく、顧客の需要に迅速に対応できます。
自働化 異常が発生した場合、機械が自動的に停止し、不良品の発生を防ぐ仕組みです。これにより、品質の維持・向上を図ることができます。

以上の2つの軸により、無駄を削減し、効率的な生産が可能になるのです。

カンバン方式が誕生した背景

カンバン方式の開発者は、元トヨタ自動車副社長・大野耐一氏です。今から約60年前の1963年に、トヨタ自動車の全工場で導入されました。一方、ジャストインタイムは、1938年にトヨタ自動車の創業者・豊田喜一郎氏によって提唱された概念です。

しかし、第二次世界大戦の影響ですぐに現場に導入するのは困難であったため、トヨタ自動車は過剰在庫を抱える状況が続き、苦しんでいました。そのような状況下で実施した1956年のアメリカ視察では、GMやフォードといった工場の生産現場も訪れただけでなく、当時の日本ではまだ普及していなかったスーパーマーケットにも足を運んだことです。大野氏はこのスーパーマーケットの仕組みを手がかりに、カンバン方式を考案したのです。

スーパーマーケットでは、買い物客が商品を取ると、不足分を従業員が補充します。この仕組みを自動車製造に応用し、無駄な在庫を減らす「スーパーマーケット方式」が生まれたのです。その後、スーパーマーケット方式にカンバンが導入されることで、カンバン方式が誕生しました。

さらに、1965年にかけて、トヨタ自動車のパートナー企業にもカンバン方式が導入され、さらなる効率化が進められました。これにより、生産コストの削減と品質の向上が図られ、多くの企業がカンバン方式を模範とするようになったのです。

参考:「ジャスト・イン・タイム」の起源トヨタ生産方式の構築と展開

一般企業におけるカンバン方式

カンバン方式は、その有効性が認められ、製造業だけでなく、ソフトウェア開発やプロジェクト管理など、様々な分野の企業で導入されています。

一般企業ではタスク管理やプロジェクト管理の手法として利用されており、作業の効率化やチーム内のコミュニケーション向上に役立っています。カンバン方式により、企業は迅速かつ柔軟に市場の変化に対応可能です。

カンバン方式の仕組みと運用方法

カンバン方式の仕組みと運用方法

カンバン方式には、以下の2つの工程があります。

  • 前工程:後工程で使用された分だけ部品を製造する工程
  • 後工程:部品を使う工程

カンバン方式は、「必要なものを、必要なときに、必要なだけ生産する」ジャストインタイムを実現するための具体的な手段として開発されました。後工程が必要なものを、必要な量だけ前工程に指示し、前工程はその指示に基づいて生産を行うことで、ムダな生産を排除し、効率的な生産を実現します。

カンバンは発注書のような役割を果たし、生産量や運搬の指示を明確に伝える役割を担います。

カンバンの種類

カンバン方式で使われるカンバンは、一般的に以下の3種類です。3種類のカンバンはそれぞれ異なる役割を持ち、生産管理の効率化に寄与します。

種類 役割 特徴
引き取りカンバン 後工程が前工程から部品を引き取る際に指示を行う 運搬を指示するためのカンバン。工程間での部品の移動を管理する。
仕掛けカンバン
(生産指示カンバン)
工程内での生産を開始するための指示を行う 工程内カンバンと信号カンバンに分類される。特定の生産量に達したときに生産を指示する。
特殊カンバン
(臨時カンバン)
緊急時や特別な状況における生産や運搬を指示する 計画外の需要や特別なオーダーに対応するために使用される。一時的に使われるカンバンで、発行後は回収される。

以上のカンバンは、トヨタ自動車の生産方式である「ジャストインタイム」を実現するための重要な要素です。一般的に使用するのは、引き取りカンバンと仕掛けカンバンの2種類です。引き取りカンバンと仕掛けカンバンを適切に使用することで、過剰在庫を持たずに効率的な生産ができます。

カンバン方式の運用ステップ1:後工程から引き取りカンバンを発行する

カンバン方式の運用は、後工程からの引き取りカンバンの発行から始まります。後工程は、必要な部品や製品の種類と量を明記した引き取りカンバンを前工程に送ります。その際の引き取りカンバンの役割は、前工程への生産指示です。

具体的なフローは以下の通りです。

  1. 引き取りカンバンを持って部品を取りに行く
  2. 部品を引き取るときに仕掛けカンバンを外し、引き取りカンバンを付ける
  3. 引き取りカンバンを付けた部品を後工程に運ぶ
  4. 部品を使うときに引き取りカンバンを外す

カンバン方式の運用ステップ2:前工程から仕掛けカンバンを発行する

在庫置き場の部品には、仕掛けカンバンが付けられています。前工程で仕掛けカンバンを発行するフローは以下の通りです。

  1. 仕掛けカンバンに記載された数の部品をつくる
  2. 製造した部品に仕掛けカンバンを付けて、部品置き場に置く
  3. 部品が置き場から引き取られるときに、仕掛けカンバンが外れる

前工程にはリードタイムが設定されています。そのため、決まった時間内に部品を生産して在庫置き場に補充しなければなりません。

なお、カンバンの枚数とリードタイムは、生産が遅れると在庫切れのリスクが高まるように調整されています。

カンバン方式の運用ステップ3:カンバンの回収と再利用

生産が完了した部品や製品は、仕掛けカンバンとともに後工程に送られます。後工程では受け取った部品や製品と引き取りカンバンを照合し、数量や品質に問題がないか確認した上で、問題がなければ引き取りカンバンは回収され、再び後工程からの要求に応じて再利用されます。仕掛けカンバンも同様に、回収・再利用されます。

このように、カンバンの発行から回収までの一連の流れを繰り返すことで、リードタイム内で安定した生産体制を保ちながら、不要な在庫の発生を極力抑えられる点がカンバン方式の大きな特徴です。

カンバン方式を運用する際の注意点

カンバン方式は、平準化を前提としている点に注意してください。平準化とは、生産量や作業負荷をすべての工程で均等に保ち、偏りをなくすことです。

もし生産量に偏りがあると、余分な人員や在庫が発生し、無駄が生まれます。平準化によって生産量と人員配置の最適化を図ることで、限られたリソースで効率的な生産が可能です。

カンバン方式の3つのルール

カンバン方式の3つのルール

カンバン方式を効果的に運用するためには、従業員一人ひとりが、以下に紹介する3つのルールを守らなければなりません。

ルール1:外し忘れをしない

カンバン方式において、カンバンは生産指示や部品の払い出し指示の役割を果たします。そのため、カンバンを必要な時に外し忘れると、後工程への供給が滞り、生産ライン全体に影響を及ぼす可能性があります。

カンバンは使用開始時には外し、定められた場所(ポストなど)へ速やかに投入することが重要です。

ルール2:小刻みに回収する

カンバン方式では、取り外したカンバンを小刻みに回収することが求められます。回収頻度が低いと、前工程への情報伝達が遅れ、必要な部品の供給が間に合わなくなる可能性があります。そのため、カンバンはできるだけ小刻みに回収し、迅速に情報を伝達することが重要です。

回収頻度は、生産量やリードタイムなどを考慮して適切に設定する必要があります。

ルール3:等間隔で回収する

カンバンを回収する間隔は、できるだけ等間隔にしましょう。回収間隔が不規則だと、前工程での生産が不安定になり、在庫の偏りや供給の遅延が発生する可能性があります。

等間隔で回収することで、前工程は安定した生産計画を立てることができ、スムーズな部品供給が可能です。

カンバン方式のメリット

カンバン方式のメリット

続いて、カンバン方式の主なメリットを紹介します。

過剰在庫を防止できる

カンバン方式の最大の特徴は、必要なものを必要なときに必要な量だけ生産することです。このアプローチにより、過剰な在庫を持つことなく、無駄を省いた生産が可能です。

結果として、在庫管理のコスト削減と資金効率の向上を実現します。

運用方法がわかりやすい

カンバン方式では、タスクを視覚的に管理するためにカンバンが活用されます。タスクが「やるべきこと」「進行中」「完了」などの状態に分けて表示されるため、進捗状況が一目で把握できるのが特徴です。

この仕組みにより、運用方法がシンプルでわかりやすく、誰でもすぐに理解しやすくなっています。

徹底した品質管理を実現できる

カンバン方式は、ジャストインタイム生産を実現する手法として、品質管理においても非常に効果的です。不良品が発生した場合、即座に生産ラインを停止する「自働化」の考え方により、品質を維持し、無駄な生産を防ぎます。

これにより、徹底した品質管理が可能となり、顧客満足度の向上につながります。

情報を管理しやすくなる

カンバン方式では、タスクの状態や進行状況を明確にするための情報がカンバンに集約されます。これにより、チーム内での情報共有がスムーズになり、各メンバーが必要な情報を迅速に得ることが可能です。

この透明性が、プロジェクトの効率的な進行を支えます。

チーム内でコミュニケーションを取りやすくなる

カンバン方式は、チーム全体で進捗状況を共有するためのツールとしても有効です。タスクがどの段階にあるのか、誰がどのタスクを担当しているのかが明確になるため、チーム内のコミュニケーションが円滑に進みます。

コミュニケーションの円滑化によって協力体制が強化され、プロジェクトの成功率が高まります。

カンバン方式のデメリット

カンバン方式のデメリット

カンバン方式は効率的なタスク管理を実現できる一方で、いくつかのデメリットも存在します。以下のデメリットを理解し、適切に対処することで、カンバン方式をより効果的に運用できます。

欠品リスクが生じる可能性がある

カンバン方式は在庫を最小限に抑えることを目的としていますが、この考え方が欠品リスクを高める可能性があります。特に需要の予測が困難な場合や、供給が間に合わない場合には、欠品が発生しやすくなります。

欠品リスクを軽減するための対策は以下の通りです。

  • 安全在庫を設定する
  • プロジェクト管理ツールを導入して計画生産を行う

現場の負担が大きくなりやすい

カンバン方式では、不良品が出ないことを前提としています。そのため、不良品の発生を防ぐために、以下のように現場に負担がかかることがあります。

  • プロジェクトの進行ルールが厳しくなる
  • チーム内でのコミュニケーション強化を求められる
  • タスクの進捗状況を細かく管理することが求められる

主な対策は、事前に作業を見える化し、作業負荷の偏りをなくすことがあります。

タスクの重要性が見えにくくなる

カンバン方式ではすべてのタスクを一元管理できますが、その反面、タスクの優先順位が明確になりにくいことがあります。これにより、重要なタスクが後回しになり、プロジェクト全体の進捗に影響を及ぼすリスクがあります。

そのため、事前にタスクの優先順位を決め、進捗状況を可視化できる仕組みを構築しておくことが重要です。

大量生産向きではなく、コストダウンが難しい

カンバン方式は小ロットでの生産に最適化されており、大量生産には向いていません。大量生産を必要とする企業では、カンバン方式ではコスト削減が難しい場合があります。

生産のタイミングを細かく調整する必要があるため、コストがかさむこともあります。

カンバン方式でタスク管理を行うポイント

カンバン方式でタスク管理を行うポイント

カンバン方式は、工場の生産管理手法として誕生しました。しかし、現在では様々な業種で採用され、多くの成果を生み出しています。ソフトウェア開発の現場も例外ではありません。

以下では、カンバン方式を用いて効果的にタスク管理を行うポイントについて解説します。自社でカンバン方式を導入する際には、ぜひ参考にしてください。

タスクを具体的に作成する

タスクを管理する際には、具体的で明確なタスクを設定することが重要です。漠然としたタスクではなく、実行可能な具体的なアクションを示すことで、タスクの進捗がわかりやすくなり、メンバーが迷わず作業に取り組めます。

例えば、「レポート作成」ではなく「A社のレポートを5ページ作成する」などと、具体的に記述しましょう。

タスクごとの負荷を均等にする

一部のタスクに過度な負荷がかからないよう、各メンバーのタスクを均等に配分することも重要です。カンバン方式では、タスクの進行状況を見える化し、各メンバーの負荷をリアルタイムで把握することが求められます。

作業量を適切に調整することで従業員の負担を軽減し、安定した生産管理が実現します。

マルチタスクを避ける

カンバン方式では、同時に複数のタスクを処理するマルチタスクを避けることが推奨されます。一つのタスクに集中することで、作業効率が向上し、品質も保たれます。

カンバンでタスクの進捗を管理し、必要に応じてタスクの優先順位を見直すことが効果的です。

プロジェクト管理ツールを活用する

カンバン方式を運用する場合、プロジェクト管理ツールを活用すると便利です。プロジェクト管理ツールを活用すると、カンバン方式の弱点である「タスクごとの優先順位が見えにくい」点を補うことが可能です。さらに、チーム全体でタスクの進捗をリアルタイムで把握でき、これにより作業の効率化と品質向上を図れます。

以下の記事でおすすめのプロジェクト管理ツールを紹介しているので、ぜひ参考にしてください。

合わせて読みたい

プロジェクトの進捗管理におすすめのツール4選|種類や特徴を紹介

プロジェクトの進捗管理におすすめのツール4選|種類や特徴を紹介

プロジェクトを円滑に進めるには、進捗管理が必要です。進捗管理が不十分だと、スケジュールの遅延やリソースの無駄遣いなどの問題が発生します。進捗管理の概要や具体的な.....

なお、カンバン方式はソフトウェア開発の現場でも活用されています。詳しくは以下の記事をご覧ください。

合わせて読みたい

カンバン方式によるタスク管理の特徴とは?ポイントやツールを紹介!

カンバン方式によるタスク管理の特徴とは?ポイントやツールを紹介!

カンバン方式を利用したタスク管理についてメリットや実施の際のポイントを紹介。カンバン方式はタスク管理に非常に有用で、ツールを正しく選定し運用すればプロジェクトの.....

近年は電子カンバン(e-カンバン)も導入されている

近年は電子カンバン(e-カンバン)も導入されている

近年では、テクノロジーの進化に伴い、従来の紙ベースのカンバンから、電子カンバン(e-カンバン)への移行が進んでいます。従来のカンバンと電子カンバンの違いは以下の通りです。

従来のカンバン 電子カンバン
紙のカードを使用して在庫情報を管理 デジタルデバイスやクラウドプラットフォームを利用して在庫情報をリアルタイムで管理
情報の更新や管理が手動 自動化されたシステムで即時更新が可能
物理的なカードの紛失や劣化のリスク デジタルデータのため紛失のリスクが低い
現場での運用が主流 リモートからのアクセスや管理が可能

電子カンバンの導入により、在庫管理の精度が向上し、リードタイムの短縮や情報のリアルタイム共有が可能です。これにより、製造現場や倉庫の効率化が一層進むことが期待されています。

また、電子カンバンはIoT技術と組み合わせることで、さらに高い利便性を提供します。例えば、センサーを活用して在庫状況をリアルタイムにモニタリングし、必要に応じて自動発注を行うことが可能です。このようなシステムは、人的ミスを減らし、業務の効率化を図るための強力なツールです。

電子カンバンの導入は、製造業のみならず、様々な業界での業務改善に寄与しています。これを機に、より効率的な生産管理システムを取り入れ、ビジネスの競争力を高めていきましょう。

カンバン方式でプロジェクト管理の効率化を実現しよう

カンバン方式でプロジェクト管理の効率化を実現しよう

カンバン方式は、業務プロセスを視覚的に管理し、効率を最大化するための強力な手法です。カンバン方式を実際に導入する際には、プロジェクト管理ツールの活用やワークフローの定期的な見直しを行い、柔軟に対応することが重要です。

まずはカンバン方式が自社に必要なのか、導入するとすればどのような形が適切なのか、自社の状況と照らし合わせながら考えてみましょう。

その上でカンバン方式が必要であれば、プロジェクト管理ツールを活用するなど、スムーズな運用ができる仕組みを構築しましょう。

プロジェクト管理ツール
30日無料トライアルをはじめる
  • 多機能ガントチャート/カンバン/バックログ/リソース管理/CCPM/レポートなど
  • ・ クレジットカード登録不要
  • ・ 期間終了後も自動課金なし
  • ・ 法人の方のみを対象

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleのプライバシーポリシー利用規約が適用されます。