PMBOKに学ぶプロジェクトの計画・実行| 計画変数と考慮事項【専門家が教えるPMBOKの理論と実践 第10回】

PMBOKはプロジェクトマネジメントの知識体系がまとめられたガイドブックです。第7版では原理・原則ベースの構成に変わりましたが、旧版の実用性は損なわれていません。プロジェクトマネジメントの実務において、第6版の知識体系は現在も有用です。

そこで本連載では、第6版に記された「5つのプロセス群」に着目。今回は「計画プロセス群」と「実行プロセス群」について解説します。記事の監修者はRidgelinez(戦略から実行まで支援する総合プロフェッショナルファーム)のプロジェクト経験豊富なエキスパートたち。同社の尾形順一氏は、日本プロジェクトマネジメント協会および大学の講師も務めています。各プロセス群の要諦を把握して、プロジェクト管理のレベルを上げましょう

計画プロセス群とは? PMBOKに基づく計画立案と目標設定

5つの計画変数

PMBOKの「計画プロセス群」とは、プロジェクトの目標達成に向けた詳細な行動指針を策定するプロセスのグループです。10の知識エリアにわたる合計24個のプロセスを通じて、具体的な計画を立案します。そして、それらを統合してプロジェクトマネジメント計画書を構築します

ここで把握すべきなのが「計画変数」。プロジェクト計画の実施方法や目標達成に大きな影響を与える要素です。PMBOKには、以下の5項目が記されています。

  • 開発アプローチ
    どのように、どの程度、そしていつ計画するかに影響を与えます。たとえばウォーターフォール(予測型)の場合、初期段階から綿密に計画を立てる必要があります

  • 成果物
    プロジェクトの成果物によっては、計画手法が限定されます。たとえば大規模な基幹システムを開発する場合、段階的詳細化などの手法が求められます

  • 組織の要求事項
    組織のガバナンス・方針・手続き・プロセス・文化によっては、特定の計画の成果物を作るように求められます。たとえば、詳細な品質管理計画書やリスク登録簿などの作成が必須の場合があります。

  • 市場の状況
    市場の競争環境などによっては、重視する項目が変わります。たとえば競争の激しい環境の場合、予算遵守よりも市場投入までの期間短縮を優先する場合があります

  • 法律または規制による制限
    規制機関や法令によっては、特定の計画文書の提出を求められます。プロジェクト期間中に制限が変わる場合もあるので、動向を注視しましょう

10の考慮事項

プロジェクトの計画に際して、他にも重要な「考慮事項」があります。それは以下の10項目。計画変数と重なる部分もありますが、いずれも計画時に必ず確認すべき項目です

  1. 内部と外部の環境要因がプロジェクトと成果物に影響を与える可能性
    内部の環境要因とは、組織文化やガバナンスなど。外部の環境要因とは、市場の状況や法規制などをさします。たとえば社内の風通しが悪い場合、問題が生じても上司に報告しづらく、プロジェクトに悪影響を与える可能性があります

  2. 所要期間に影響を与える要因
    たとえば、メンバーの能力差がこの考慮事項に該当します。コーディングなどの生産性は、新人と熟練エンジニアで大きく違うもの。チームの人数だけでなく、各人の能力などを考慮して、所要期間を見積もりましょう

  3. コスト見積もりと予算化の方針・手続き・ガイドラインの有無
    これらの有無によって、予算計画の裁量範囲が変わります。たとえば予備費のガイドラインが設定されている場合、プロジェクトマネージャーの判断では多額の予備費を積めない可能性があります

  4. 適応型アプローチを使用する場合のコスト見積もり方法
    適応型アプローチとは、アジャイルのこと。予測型アプローチ(ウォーターフォール)と異なるコスト見積もり方法が求められるので、PMBOKでは別項目に記されています

  5. 主要な調達の回数
    いわゆるマルチベンダーの問題です。さまざまな納入者が関わる複数の調達が存在すると、調達プロセスが複雑化します

  6. 調達に関する現地の法規制の組織調達方針への統合化、および契約の監査要求事項への影響
    オフショア開発を含め、海外から資源を調達する際の考慮事項です。その場合、現地の法規制を会社の調達ルールに織り込まなくてはなりません。そもそも顧客との契約で禁止されていたり、各種監査の基準が厳しくなったりする可能性もあります

  7. 価値の測定方法
    プロジェクトの目的は成果物の提供ではなく、価値の実現です。ステークホルダーが求める「価値」を明確に定義し、その測定方法を考えておきましょう

  8. 財務的価値と非財務的価値の尺度の有無
    売上やROI(投資収益率)などの財務的価値は尺度が明確ですが、企業ブランドや顧客満足度などの非財務的価値は尺度が不明確です。プロジェクトの成否を判断するためにも、測定可能な指標を定義しましょう

  9. プロジェクトの実施中と完了後における、ベネフィット実現に関連するデータ収集方法とレポート作成方法
    「ベネフィット実現に関連するデータ」とは、KPI(重要業績評価指標)や作業パフォーマンスのデータなど。これらを関係者に報告するため、データ収集とレポート作成の方法を考えておきましょう

  10. プロジェクト状況報告への要求事項
    たとえば現場と経営層では、求める報告の頻度や指標などが異なります。報告の対象や目的を整理して、プロジェクト状況の適切な報告を計画しましょう

SMART基準による指標の定義

プロジェクトの計画プロセスでは、目標や目的に応じたメトリクス(指標・尺度)が必要です。その際に重要なのが「SMART基準」。以下の5項目をふまえて、適切な指標を定義しましょう。

PMBOKの計画プロセス群と5つの計画変数の関係を示した図
  • Specific(具体的)
    あいまいな目標を立てると、達成の可否が判断できません。たとえば「生産性の向上」をめざす場合、「労働生産性を10%向上させる」といった具体的な指標と向上率を決めておきましょう

  • Measurable(測定可能)
    たとえば「メンバー全員がコスト意識を高める」という目標を立てると、進捗状況も達成可否も測定できません。「年間1,000万円のコスト削減」という目標に変えれば、進捗状況も達成可否も測定できます

  • Achievable(達成可能)
    チームのリソースやプロジェクトの期間などを考慮し、現実的な目標を立てましょう。達成不可能な目標を掲げると、チームの士気が下がったり、不正を招いたりしかねません。経営層などから目標必達が厳命されている場合、特に注意してください。

  • Relevant(関連性)
    プロジェクトの目標は、組織全体の目標やビジョンに関連していなければなりません。その関連性が低いほど、組織にとってプロジェクトの価値が低くなります

  • Time bound(期限付き)
    目標達成の完了期限を設定しましょう。明確な期限を設けることで具体的な計画立案が可能になり、行動を促します。「できるだけ早く」といった表現は避けてください

以上、5項目の頭文字をとって「SMART基準」と呼ばれます

また、この基準はフェーズゲートにおいても重要です。そもそもの目標がSMART基準にそっていなければ、ビジネスとしてプロジェクトを続ける妥当性が判断できません

実行プロセス群とは? PMBOKに基づく計画遂行と品質管理

11の考慮事項

PMBOKの「実行プロセス群」とは、プロジェクトマネジメント計画書に基づいて実際の作業を遂行し、プロジェクトの成果物を開発するプロセスのグループです。7つの知識エリアにわたる合計10個のプロセスを通じて、チームメンバーの指揮、コミュニケーションの実施、調達活動の進行、品質保証の適用など、多岐にわたるタスクを実行します

この実行プロセス群にも、いくつか考慮すべき事項があります。PMBOKには、以下の11項目が記されています。

  1. 組織文化や複雑さなどの要因に基づいた、最も効果的なマネジメントプロセス
    PMBOKはプロジェクト管理の標準的なモデルです。自社のカルチャーや組織の力学などをふまえて、マネジメントプロセスを最適化(テーラリング)しましょう。

  2. 協働的な作業環境を育むため、マネジメントされる知識
    「マネジメントされる知識」とは、すべてのプロジェクトメンバーが活用できるように整理された知識のこと。個人の知識をチームのナレッジとして共有し、協働的な作業環境を整えましょう

  3. 全期間と終了時点で収集すべき情報。情報の収集、マネジメント方法。情報や作成物の生成・記録・送信・検索・追跡・保存技術
    ここでの「情報」とは、工数実績や各種ログファイルなど、未加工の生データをさします。システム障害や監査への対応、組織のナレッジ蓄積などに必要なデータ項目を洗い出し、適切な記録・保存方法を考えておきましょう

  4. 将来のプロジェクトに利用できる過去の情報や教訓
    ここでの「過去」とは、進行中のプロジェクト(の過去)も含みます。その場限りの対応で終わらせず、将来に有用な情報や教訓を残しておきましょう

  5. 組織の正式な知識マネジメントリポジトリの有無、およびチームが使用する必要性と利用の容易さ
    「知識マネジメントリポジトリ」とは、組織のナレッジを一元管理するデータベース。文書管理のプラットフォームや社内Wikiなどが該当します。また、利用しやすさも重要です。どれほどナレッジを蓄積しても、使いにくければ宝の持ち腐れになります

  6. 組織の要求事項マネジメントシステムの有無
    「組織の要求事項マネジメントシステム」とは、誰が何を求めているかを管理するための仕組み。要件定義書、課題管理システム、変更管理のルールなどが該当します。

  7. 組織の妥当性確認とコントロール方針・手続き・ガイドラインの有無
    「組織の妥当性確認」とは、品質マネジメントやフェーズゲートなどで行われる社内チェックです。その方針やルールをふまえて、組織のガバナンスを遵守しましょう

  8. 組織の品質方針と手続きの有無、および組織で使用している品質ツール・技法・テンプレート
    「組織の品質方針と手続き」とは、システムのリリース判定チェックリストやセキュリティ監査などをさします。これらの手続きに必要な期間を見込んで、プロジェクトを管理しましょう

  9. 業界特定の品質標準の有無、および行政・法律・規制上の制約
    「業界特定の品質標準」とは、金融システムに求められる安全対策基準、ISOなどの国際基準です。後段の「行政・法律・規制上の制約」はプロジェクト進行中も目配りしましょう

  10. 要求事項が不安定なプロジェクト領域の有無、および不安定な要求事項に対処するための最善の方法
    要件を完全に定義できるプロジェクトはほとんどありません。たとえば、システム画面の構成(ボタンや入力フォームなどのレイアウト)は定義が難しく、抽象的な要望を受ける場合も。「使いやすく」「わかりやすく」といった不安定な要求事項に対処するために、具体的な方法(作成途中のサンプル画面を見せるなど)を考えておきましょう

  11. プロジェクトマネジメントやプロダクト開発の持続可能性
    「持続可能性」の対象には、人や組織も含みます。たとえばエンジニアの長時間労働を前提とした計画を実行すると、途中でメンバーが倒れたり、離職したりしてしまうリスクが高まります。プロジェクトの繁閑調整などを行い、無理なく働き続けられるペースを維持しましょう

ズレを防ぐ 計画・実行プロセス群のポイント

計画・実行プロセス群で押さえるべきポイントのまとめ図
  1. 社内外の環境要因を考慮する
    PMBOKには、プロジェクトを計画する際の考慮事項が記されています。そのひとつが「内部と外部の環境要因がプロジェクトと成果物に影響を与える可能性」。なかでも、不寛容な組織風土は要注意です。問題が生じても上司に報告しづらく、プロジェクトに悪影響を与える可能性があります。

  2. 目標設定はスマートに
    プロジェクトの目標は、単なるスローガンではありません。実行性の高い計画に落とし込むために「SMART基準」を活用しましょう。これはSpecific(具体的)・Measurable(測定可能)・Achievable(達成可能)・Relevant(関連性)・Time-bound(期限付き)の5項目を満たす基準です。

  3. あいまいな要望への対処法を
    要件を完全に定義できるプロジェクトはほとんどありません。たとえばシステム画面の構成は定義が難しく、「使いやすく」といった抽象的な要望を受ける場合も。不安定な要求事項に対処するために、具体的な方法を考えておきましょう

この記事に関するよくある質問 (FAQ)

SMART基準は目標設定のフレームワークです。Specific(具体的)・Measurable(測定可能)・Achievable(達成可能)・Relevant(関連性)・Time-bound(期限付き)の5項目を満たす基準をさします。プロジェクト管理においては、あいまいな目標を排除し、実行性の高い計画に落とし込む際に活用します。

計画変数とは、プロジェクト計画の実施方法や目標達成に大きく影響する要素です。PMBOKには「①開発アプローチ」「②成果物」「③組織の要求事項」「④市場の状況」「⑤法律・規制による制限」の5項目が挙げられています。たとえば開発アプローチがウォーターフォールかアジャイルかによって、計画の詳細度や立案のタイミングが大きく変わります。

プロジェクトの中長期的な成功に欠かせないからです。「持続可能性」の対象は自然環境だけでなく、人や組織も含まれます。たとえばエンジニアの長時間労働を前提とした計画を実行すると、途中でメンバーが倒れたり、離職したりするリスクが高まります。PMBOKは、無理なく働き続けられるペースの維持を推奨しています。

PMBOK資料
<お役立ち資料>
Lychee RedmineでできるPMBOK

この記事で紹介した「PMBOK(ピンボック)」と、Lychee Redmineの活用方法を結びつけて解説した資料です。

この資料でわかること
  • プロジェクトマネジメントの基本概念
  • PMBOKの構成と考え方
  • Lychee Redmineで10の知識エリアをどう実現するか
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監修者プロフィール

尾形 順一 氏

Ridgelinez株式会社
Technology Group Director 尾形 順一 氏

プロジェクトマネジメントおよびアジャイルDevOpsの専門家。日立製作所、デロイトトーマツコンサルティングなどを経て現職。大規模アジャイルおよびアジャイルシフト、DXにともなう組織的変革管理(OCM)において、数多くの実践経験を有する。日米欧のプロジェクトマネジメントおよびアジャイル標準に精通し、日米欧3団体の最上位認定を保有。企画・要件整理・設計・開発・テスト・運用・内製化まで、実践型の伴走を行う。これまでに40件以上のプロジェクトマネジメントを経験。日本プロジェクトマネジメント協会のPMBOK講座のほか、私立大学でもプロジェクトマネジメント論の講師を務める。

【保有学位】
経営管理修士(MBA)、国際情報通信修士(MS)

【保有資格】
日本プロジェクトマネジメント協会 プロジェクトマネジメントスペシャリスト、PMI PMP(Project Management Professional)、AXELOS PRINCE2 Practitioner、その他、日米欧6団体のアジャイル認定など20種類以上

白田 智明 氏

Ridgelinez株式会社
Technology Group Senior Consultant 白田 智明 氏

富士通システムソリューションズに入社後、フィールドSEとして流通業や運輸業などの基幹システム再構築プロジェクトに参画。富士通へ転籍後、プロジェクトマネージャーとして、総合商社・専門商社の基幹システム再構築プロジェクトを担当。2021年、アジャイル開発プロジェクトの実践経験を活かし、部門全体のアジャイル普及に向けた商談プロセス・商材の標準化や、アジャイル研修の設計・作成と講師などの活動を行う。2024年より現職。

【保有資格】
IPA 基本情報/応用情報/プロジェクトマネージャー、PMI PMP(Project Management Professional)、TOGAF9(Foundation/Certified)、SAFe®6 SPCなど、他多数

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