本記事は「専門家が教えるPMBOKの理論と実践」第9回です。
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※本記事は、Ridgelinezのプロジェクトマネジメント専門家が監修しています。
PMBOKはプロジェクトマネジメントの知識体系がまとめられたガイドブックです。第7版では原理・原則ベースの構成に変わりましたが、旧版の実用性は損なわれていません。プロジェクトマネジメントの実務において、第6版の知識体系は現在も有用です。
そこで本連載では、第6版に記された「5つのプロセス群」に着目。今回は、その全体像と「立ち上げプロセス群」について解説します。記事の監修者はRidgelinez(戦略から実行まで支援する総合プロフェッショナルファーム)のプロジェクト経験豊富なエキスパートたち。同社の尾形順一氏は、日本プロジェクトマネジメント協会および大学の講師も務めています。プロセスの体系を理解して、再現性の高いプロジェクト管理を実現しましょう。
プロセスの体系とは? PMBOKに基づくマネジメントの構造
PMBOKの用語解説
前回までは、PMBOKの知識エリアごとにプロジェクトマネジメントの方法を解説してきました。ここからはプロセスをベースに、PMBOKの理論と実践についてお伝えします。
まずはキーワードの解説から。類似語句が多いので、混同しないように注意してください。
プロジェクトライフサイクル
プロジェクトの開始から完了に至るまで、プロジェクトが経験する一連のフェーズです。プロジェクトフェーズ(以下、フェーズ)
プロジェクトライフサイクルを管理しやすい単位に区切った段階です。プロセスとの違いは、作業ではなく区間を表すこと。システム開発の場合、「要件定義」「設計」「開発・実装」「テスト」などの各工程がフェーズに相当します。プロジェクトマネジメントプロセス(以下、プロセス)
最終的な成果を生み出すために、系統的に実行する作業(一連のアクティビティ)です。たとえば、スコープマネジメントの最初のプロセスは「スコープマネジメントの計画」。これを含む3つのプロセスが「計画プロセス群」というグループに属します。プロジェクトマネジメントプロセス群(以下、プロセス群)
プロジェクトライフサイクル中のマネジメント活動を体系的に整理したグループです。これは具体的な作業ではなく、分類の枠組み。後述する5つのプロセス群に分けられます。プロジェクトマネジメント知識エリア(以下、知識エリア)
プロジェクト管理に必要とされる専門知識の領域です。スコープ・スケジュール・コストなど、10の知識エリアがあります。プロセス群との違いは、分類の切り口。下図のようにプロセス群は活動目的(横軸)、知識エリアは対象分野(縦軸)で分類しています。

上図はPMBOKにおけるプロセスの体系を示しています。つまり、合計49個のプロセスが横軸(5つのプロセス群)と縦軸(10の知識エリア)の格子図に分類されるわけです。具体的なプロセスを記載すると、下図のようになります。

5つのプロセス群と全体像
プロジェクトマネジメントにおける「5つのプロセス群」は、プロジェクト開始から一直線に進むわけではありません。各プロセス群が相互に連携し、反復的に適用されることでプロジェクトを効果的に管理します。それぞれの概要は以下の通りです。
立ち上げプロセス群
最初期のプロセス群です。プロジェクト開始の認可を得て、新規プロジェクト(または既存プロジェクトの新しいフェーズ)を明確に定めます。計画プロセス群
立ち上げに続くプロセス群です。作業全体のスコープを確定し、目標を定義して洗練させます。そして、目標達成に必要な一連の流れを規定します。実行プロセス群
計画に続くプロセス群です。プロジェクトの要求事項を満たすために、プロジェクトマネジメント計画書に規定された作業を完了するために実施します。つまり、計画通りに実行しなければなりません。
▶関連項目:第10回記事「PMBOKに学ぶプロジェクトの計画・実行」監視・コントロールプロセス群
実行と並走するプロセス群です。プロジェクトの進捗やパフォーマンスを追跡し、レビューし、調整を行います。また、計画変更が必要な領域を特定し、変更への対処を始めます。
▶関連項目:第11回記事「PMBOKに学ぶプロジェクトの監視・コントロール」終結プロセス群
最終期のプロセス群です。ここでプロジェクトやフェーズ、または契約を正式に完了・終結させます。多忙な現場では軽視されがちですが、引き継ぎや教訓の抽出など、重要な活動が詰まっています。
▶関連項目:第12回記事「PMBOKに学ぶプロジェクトの終結」
PMBOKでは、5つのプロセス群の関係を下図のように表しています。

最初の「立ち上げプロセス群」と最後の「終結プロセス群」は一直線に並んでいますが、中央の3つのプロセス群は循環したり、並走したりしています。これは継続的な改善を意味します。
【補足】プロジェクト管理のフレームワーク
先ほどの図表はウォーターフォール(予測型)を前提にしており、アジャイル(適応型)のプロセスには該当しません。しかし、いずれの開発アプローチにおいても、根本的な考え方や管理すべき対象は共通しています。
そこで、統合的なプロジェクトマネジメントのフレームワーク(下図)を紹介します。これはPMBOKの枠組みではなく、本稿の監修企業Ridgelinezが作成したものです。ハイブリッド型のアプローチを含め、プロジェクト管理の参考にしてください。

フェーズゲートの設定
「プロセスの体系」の視野を広げて、プロジェクトマネジメントにおける重要な概念を説明します。それは「フェーズゲート」。各工程の終了時点で実施するレビューの仕組みです。要件定義や設計など工程の最後に関門を設けて、次のフェーズへの継続や修正を伴う継続、あるいはプロジェクトの中止を判断します。
マイルストーンとの違いは、進捗や品質管理の目印ではなく、意思決定のポイントであること。PMBOKよりもPRINCE2(英国政府が開発した国際的なプロジェクト管理手法)の定義が明快なので、そちらの記述も交えます。
このフェーズゲートでは”ビジネスの継続的正当性”を確認します。言い換えると、ビジネスとしてプロジェクトを続ける妥当性のチェック。法規制や競合企業の動向など、外部環境の変化も考慮します。PMBOKには適切な概念図がないので、フェーズゲートとほぼ同じ概念(ステージバウンダリー)を表すPRINCE2の図表を以下に紹介しましょう。

上図の青い点線および黄色い点線がフェーズゲートを示します。
青い点線はフェーズの区切りで「工程完了会議」「工程判定会議」などを実施。一方、黄色い点線はプロジェクト期間中の任意の期間(四半期毎など)で実施します。おもな目的はプロジェクト自体の判定です。「このまま進めても期待するビジネス価値が生み出せない」と評価されると、プロジェクトを中止する場合もあります。
立ち上げプロセス群とは? PMBOKに基づくプロジェクトの開始
ステークホルダーの特定/プロジェクト憲章の作成
PMBOKの「立ち上げプロセス群」とは、新しいプロジェクトの開始を正式に承認する活動を中心とするプロセスのグループです。
その内訳は、2つの知識エリアにおける合計2個のプロセス。まずはプロジェクトの目的と実現可能性を明確化し、主要なステークホルダーを特定します。並行してプロジェクト憲章などの公式文書を作成し、プロジェクトの方向性を組織全体で共有します。これらのプロセスについては、各知識エリアの解説記事に詳述しています。
▶関連項目:第7回記事 2-2「ステークホルダーの特定」
▶関連項目:第8回記事 2-2「プロジェクト憲章の作成」
ビジネスケースの作成
ここでは、プロジェクトの立ち上げに関する重要事項を解説します。それは「ビジネスケースの作成」。PMBOKの定義では立ち上げプロセス群に含まれませんが、プロジェクト開始に欠かせない事前作業です。実務上はプロジェクトマネージャー(の候補者)が担う場合が多いでしょう。
ビジネスケースとは、プロジェクトに投資する価値を財務的・非財務的な観点から説明する文書。いわゆる企画書・概要書・稟議書に近い役割を担っています。おもな構成要素は以下の通りです。
- 背景と目的(プロジェクトが必要な理由)
- 選択肢の分析(現状維持や他の解決策との比較)
- 期待される便益(定量的・定性的なメリット)
- 概算コストと期間(予算と期間の見積もり)
このビジネスケースが顧客やスポンサーに承認されると「プロジェクト憲章の作成」に移ります。いわば、ビジネスケースはプロジェクト憲章の叩き台。プロジェクト立ち上げの根拠となる重要なインプットです。
失敗例と解決策
プロジェクトマネージャーにとって、プロジェクトの立ち上げは序盤の難所です。ここでつまずくと、後々に深刻な事態を招きかねません。そこで、知っておくべき典型的な失敗例と解決策を紹介します。
<失敗例> スポンサーの関与不足による目標のズレ
プロジェクト憲章は承認されたものの、その後の意思決定会議や重要なレビューにスポンサーがほとんど参加せず、プロジェクトの目的や優先順位が曖昧に。複数の利害関係者が異なる目標を要求し、スコープの境界が揺らぎ始めた。
<解決策> スポンサーの責任を明確化し、定期的に状況を報告
プロジェクト憲章にスポンサーの具体的な責任を明記し、正式な署名を得る。また、プロジェクトマネージャーがスポンサーに対して、定期的なブリーフィングを実施。プロジェクトの価値と現状の課題について、常に意識させる。
上記の他にも、さまざまな失敗のパターンがあります。教訓登録簿などの知識資産を参照し、過去の事例や教訓などを把握しておきましょう。
▶関連項目:第8回記事 2-4「プロジェクト知識のマネジメント」
プロセス体系と立ち上げプロセス群のポイント

各プロセス群の関係を理解する
プロセス群とは、プロジェクト開始から完了までのマネジメント活動を体系的に整理したグループ。「立ち上げ」「計画」「実行」「監視・コントロール」「終結」の5つのプロセス群に分類されます。これらは相互に連携し、反復的に適用されることでプロジェクトを効果的に管理します。工程ごとにPJの継続可否を判定
フェーズゲートとは、各工程の終了時点で実施するレビューの仕組みです。「工程完了会議」「工程判定会議」などを通じて、ビジネスの継続的正当性(このプロジェクトを続ける価値があるか?)を確認します。法規制や競合企業の動向など、外部環境の変化も考慮しましょう。始まりはビジネスケースから
プロジェクトの開始には「ビジネスケース」が欠かせません。これはプロジェクトに投資する価値を財務的・非財務的な観点から説明する文書。プロジェクト憲章の叩き台になります。実務上はプロジェクトマネージャー(の候補者)が作成を担う場合が多いでしょう。
この記事に関するよくある質問 (FAQ)
プロセス群は「活動の目的」による分類で、立ち上げ・計画・実行などの5つがあります。一方、知識エリアは「対象分野」による分類で、スコープ・スケジュール・コストなど10の領域があります。この2軸を組み合わせることで、PMBOKの49個のプロセスが体系的に整理されます。
どちらもプロジェクトの節目ですが、その目的が違います。マイルストーンは進捗や品質管理などの‟目印”であり、主目的は計画とのズレを確認すること。一方、フェーズゲートは各工程の終了時点の‟関門”であり、主目的は「プロジェクトを続ける価値があるか」を判定すること。後者は意思決定のポイントなので、プロジェクトの中止を判断する場合もあります。
ビジネスケースは「プロジェクトに投資する価値があるか」を財務的・非財務的に説明する文書です。まだ企画段階のため、PMBOKの定義では立ち上げプロセス群に含まれません。このビジネスケースが承認された後、(立ち上げプロセス群のひとつとして)プロジェクト憲章が作成されます。これはプロジェクトマネージャーに権限を与え、プロジェクトの目的・目標などを定める文書。プロジェクトの正式な開始を承認する公式文書です。
Lychee RedmineでできるPMBOK
この記事で紹介した「PMBOK(ピンボック)」と、Lychee Redmineの活用方法を結びつけて解説した資料です。
この資料でわかること- プロジェクトマネジメントの基本概念
- PMBOKの構成と考え方
- Lychee Redmineで10の知識エリアをどう実現するか
<参考資料>
プロジェクトマネジメント知識体系ガイド(PMBOK®ガイド)第6版および第7版+プロジェクトマネジメント標準、PMI®
監修者プロフィール
Ridgelinez株式会社
Technology Group Director 尾形 順一 氏
プロジェクトマネジメントおよびアジャイルDevOpsの専門家。日立製作所、デロイトトーマツコンサルティングなどを経て現職。大規模アジャイルおよびアジャイルシフト、DXにともなう組織的変革管理(OCM)において、数多くの実践経験を有する。日米欧のプロジェクトマネジメントおよびアジャイル標準に精通し、日米欧3団体の最上位認定を保有。企画・要件整理・設計・開発・テスト・運用・内製化まで、実践型の伴走を行う。これまでに40件以上のプロジェクトマネジメントを経験。日本プロジェクトマネジメント協会のPMBOK講座のほか、私立大学でもプロジェクトマネジメント論の講師を務める。
【保有学位】
経営管理修士(MBA)、国際情報通信修士(MS)
【保有資格】
日本プロジェクトマネジメント協会 プロジェクトマネジメントスペシャリスト、PMI PMP(Project Management Professional)、AXELOS PRINCE2 Practitioner、その他、日米欧6団体のアジャイル認定など20種類以上
Ridgelinez株式会社
Technology Group Senior Consultant 白田 智明 氏
富士通システムソリューションズに入社後、フィールドSEとして流通業や運輸業などの基幹システム再構築プロジェクトに参画。富士通へ転籍後、プロジェクトマネージャーとして、総合商社・専門商社の基幹システム再構築プロジェクトを担当。2021年、アジャイル開発プロジェクトの実践経験を活かし、部門全体のアジャイル普及に向けた商談プロセス・商材の標準化や、アジャイル研修の設計・作成と講師などの活動を行う。2024年より現職。
【保有資格】
IPA 基本情報/応用情報/プロジェクトマネージャー、PMI PMP(Project Management Professional)、TOGAF9(Foundation/Certified)、SAFe®6 SPCなど、他多数
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