PMBOKに学ぶプロジェクトの監視・コントロール| EVMの活用法【専門家が教えるPMBOKの理論と実践 第11回】

PMBOKはプロジェクトマネジメントの知識体系がまとめられたガイドブックです。第7版では原理・原則ベースの構成に変わりましたが、旧版の実用性は損なわれていません。プロジェクトマネジメントの実務において、第6版の知識体系は現在も有用です。

そこで本連載では、第6版に記された「5つのプロセス群」に着目。今回は「監視・コントロールプロセス群」について解説します。記事の監修者はRidgelinez(戦略から実行まで支援する総合プロフェッショナルファーム)のプロジェクト経験豊富なエキスパートたち。同社の尾形順一氏は、日本プロジェクトマネジメント協会および大学の講師も務めています。各プロセス群の要諦を把握して、プロジェクト管理のレベルを上げましょう

監視・コントロールプロセス群とは? PMBOKに基づく状況把握

情報ラジエーターの導入

PMBOKの「監視・コントロールプロセス群」とは、プロジェクトの進捗度を常に追跡し、計画との差異を特定・管理するプロセスのグループです。10の知識エリアにわたる合計12個のプロセスを通じて、パフォーマンスデータを分析。必要に応じて、是正処置や予防処置を講じます。

ここで有用なのが「情報ラジエーター」です。これはプロジェクトの完了作業やリスクを可視化し、タイムリーな知識共有を促進する仕組み。聞きなれない言葉かもしれませんが、プロジェクトの状況を可視化する「ダッシュボード」とほぼ同じ意味です。たとえば、以下のようなグラフを表示する仕組みを情報ラジエーターと呼びます。

情報ラジエーターによるプロジェクト状況の可視化イメージ

重要なポイントは、タイムリーな情報共有です。PMBOKには明記されていませんが、統合的なプロジェクト管理ツールの活用が得策でしょう。

特に大規模プロジェクトの場合、各チームが表計算ソフトで情報を個別管理していると、報告の階層が上がるごとに再集計が必要になります。その結果、各チームから経営層へ情報が届くまでにタイムラグが生じ、迅速な状況把握が難しくなります

EVMの活用

プロジェクトの監視・コントロールにおいて、PMBOKではEVM(Earned Value Management:出来高管理)という手法が推奨されています。これはプロジェクトのパフォーマンスと進捗を評価するために、スコープ・スケジュール・コスト(資源)についての測定値を結びつける方法論です。

EVMを活用すれば、スケジュールとコストの差異を評価し、進捗状況を明確に把握できます。また、納期遅延や予算超過の予兆を検知することで、早期の対策が可能になります。以下に、EVMの基本要素とパフォーマンス指標を紹介しましょう。

基本要素 各要素の概要
計画値(PV) 現時点までに完了すべき作業の予算
出来高(EV) 現時点までに完了した作業の予算
実コスト(AC) 現時点までに完了した作業に実際にかかった費用

上記3つの基本要素のうち、EVとACは「遅行指標」。過去の活動の結果や成果物を測定する指標です。

パフォーマンス指標 計算式 各要素の概要
コスト差異(CV) EV-AC 出来高と実コストの差。
この数値がプラスなら予算内、マイナスなら予算を超過している。
スケジュール差異(SV) EV-PV 出来高と計画値の差。
この数値がプラスなら計画より進捗が早く、マイナスなら遅れている。
コスト効率指数(CPI) EV÷AC この指数が1より大きければコスト効率が良く、1より小さければ悪い。
スケジュール効率指数(SPI) EV÷PV この指数が1より大きければスケジュール効率が良く、1より小さければ悪い。

上記4つの指標のうち、CPIとSPIは「先行指標」。プロジェクトの変化や傾向の予測(兆候)を示す指標です。EVMの活用例として、以下にパフォーマンス指標のグラフを示します。

EVMのパフォーマンス指標グラフ

上図の場合、EV(出来高)よりもAC(実コスト)の値が大きく、CV(コスト差異)はマイナス。つまり、予算をオーバーしています。同じように、EV(出来高)よりもPV(計画値)の値が大きく、SV(スケジュール差異)はマイナス。つまり、スケジュールが遅れています

とはいえ、わずかな予算超過と計画遅延ならば、許容されるかもしれません。そこでポイントになるのは、判断基準となる‟閾値”の設定。CPIやSPIなどに閾値を設定し、赤・黄・青(危険・注意・良好)などのシグナルと指数をセットで表示しましょう(下図参照)。すると、プロジェクトの状況がひと目でわかり、「いま対策を打つべきか」を即座に判断できるようになります。

CPIとSPIに閾値を設定したシグナル表示例

測定の落とし穴

プロジェクト管理において、パフォーマンスデータの測定は欠かせません。PMBOKには、その際の‟落とし穴”が紹介されています。以下6つの落とし穴を認識し、悪影響を最小限に抑えましょう

  1. ホーソン効果
    何かを測定すること自体が、人や組織の振る舞いに影響を与える効果です。たとえば、アジャイル開発でベロシティ(チームの作業消化量)を測定する場合。その目標値を達成するために、タスクのストーリーポイント(仕事の重さ)を甘く見積もってしまう場合があります。

  2. メトリクス(測定指標)の誤用
    さまざまな誤用のうち、特に深刻なのはデータの改ざんです。たとえば、プロジェクトマネージャーが納期遅延を許さない場合。メンバーの担当業務が期日内に終わっていなくても「進捗率100%」というデータが入力される場合があります。

  3. バニティメトリクス(虚栄の指標)
    意思決定に役立たないデータです。たとえば、システム更改時にオンプレミスのシステムを単純にクラウドリフトする場合、コーディングの「バグ密度」は虚栄の指標といえます。クラウド移行時は多くの既存コードを流用するため、分母となるコーディングの実装量が少なく、有効な指標になりません。

  4. 士気の低下
    達成不可能な目標が設定されると目標未達が続き、チームや個人の士気が低下します。また、過度な原因追究も望ましくありません。ミスや不具合が起きるたびに報告書を作成させると、士気の低下を招きます。

  5. 確証バイアス
    自らの先入観を支持する情報を探し、それに反する情報を軽視する傾向です。たとえば、CPIが危険信号を示しているのに、他の主要指標は良好な場合。類似プロジェクトの成功体験から「CPIの閾値設定ミス」などと思い込み、予算超過の兆候を見過ごすような心理現象をさします。

  6. 相関関係と因果関係の混同
    (同時に変化している関係)と因果関係(一方の変数が別の変数の直接的な原因となる関係)を混同することです。たとえば、コーディングの実装量とバグの数には相関関係がありますが、「コードを短くしたからバグが減る」という因果関係はありません。

監視・コントロールプロセス群のポイント

監視・コントロールプロセス群のポイント
  1. プロジェクトの状況を可視化
    監視・コントロールプロセス群では、プロジェクトの進捗度を常に追跡し、計画との差異を特定・管理します。ここでポイントになるのが「情報ラジエーター」。ダッシュボードなどでプロジェクトの状況を可視化し、タイムリーに情報を共有しましょう。

  2. EVMでズレの予兆を検知
    EVMを活用すれば、納期遅延や予算超過の予兆を検知できます。重要な先行指標に閾値を設定し、赤・黄・青(危険・注意・良好)などのシグナルと指数をセットで表示しましょう。すると「いま対策を打つべきか」を即座に判断できるようになります。

  3. 測定の落とし穴に注意
    パフォーマンスデータの測定には、いくつかの落とし穴があります。たとえば、測定自体が人の振る舞いに影響を与えるホーソン効果。また、達成不可能な目標が設定されると目標未達が続き、士気が低下します。こういった落とし穴を認識し、悪影響を最小限に抑えましょう

この記事に関するよくある質問 (FAQ)

EVMは「Earned Value Management」の略称であり、「出来高管理」を意味します。これはスコープ・スケジュール・コスト(資源)を統合して、プロジェクトのパフォーマンスを評価する手法です。計画値(PV)・出来高(EV)・実コスト(AC)の3要素から、コスト差異(CV)やスケジュール差異(SV)などを算出します。この手法を活用すれば、納期遅延や予算超過の予兆を早期に検知し、迅速に対策を打てるようになります。

閾値の設定と可視化によって、問題の早期発見と意思決定がしやすくなります。たとえば、CPIとSPIに「0.9未満は危険」「0.9~1.0未満は注意」「1.0以上は良好」という閾値を設定し、赤・黄・青(危険・注意・良好)のシグナルを表示します。これにより主観や経験に頼らず、「いま対策を打つべきか」をひと目で判断できるようになります。

PMBOKでは6つの落とし穴が示されています。①測定自体が行動を変える「ホーソン効果」②データ改ざんなどの「メトリクスの誤用」③意思決定に役立たない指標の「バニティメトリクス」④達成不可能な目標が招く「士気の低下」⑤先入観に合う情報だけを採用する「確証バイアス」⑥複数の事象の関係を誤解する「相関関係と因果関係の混同」。これらの落とし穴を認識して、適切な測定方法を設計しましょう。

PMBOK資料
<お役立ち資料>
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この資料でわかること
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<参考資料>
プロジェクトマネジメント知識体系ガイド(PMBOK®ガイド)第6版および第7版+プロジェクトマネジメント標準、PMI®

監修者プロフィール

尾形 順一 氏

Ridgelinez株式会社
Technology Group Director 尾形 順一 氏

プロジェクトマネジメントおよびアジャイルDevOpsの専門家。日立製作所、デロイトトーマツコンサルティングなどを経て現職。大規模アジャイルおよびアジャイルシフト、DXにともなう組織的変革管理(OCM)において、数多くの実践経験を有する。日米欧のプロジェクトマネジメントおよびアジャイル標準に精通し、日米欧3団体の最上位認定を保有。企画・要件整理・設計・開発・テスト・運用・内製化まで、実践型の伴走を行う。これまでに40件以上のプロジェクトマネジメントを経験。日本プロジェクトマネジメント協会のPMBOK講座のほか、私立大学でもプロジェクトマネジメント論の講師を務める。

【保有学位】
経営管理修士(MBA)、国際情報通信修士(MS)

【保有資格】
日本プロジェクトマネジメント協会 プロジェクトマネジメントスペシャリスト、PMI PMP(Project Management Professional)、AXELOS PRINCE2 Practitioner、その他、日米欧6団体のアジャイル認定など20種類以上

白田 智明 氏

Ridgelinez株式会社
Technology Group Senior Consultant 白田 智明 氏

富士通システムソリューションズに入社後、フィールドSEとして流通業や運輸業などの基幹システム再構築プロジェクトに参画。富士通へ転籍後、プロジェクトマネージャーとして、総合商社・専門商社の基幹システム再構築プロジェクトを担当。2021年、アジャイル開発プロジェクトの実践経験を活かし、部門全体のアジャイル普及に向けた商談プロセス・商材の標準化や、アジャイル研修の設計・作成と講師などの活動を行う。2024年より現職。

【保有資格】
IPA 基本情報/応用情報/プロジェクトマネージャー、PMI PMP(Project Management Professional)、TOGAF9(Foundation/Certified)、SAFe®6 SPCなど、他多数

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