【初心者向け】業務要件定義書とは?基礎から書き方をわかりやすく解説!

システム開発プロジェクトにおいて、業務要件定義書という言葉を耳にしたことはありませんか。業務要件定義書はプロジェクトの成功を左右する重要な文書のため、役割や書き方の正確な理解が欠かせません。しかし、中には「何を書けば良いのかわからない」「難しそうで手が出せない」と感じている方もいるでしょう。

本記事では、業務要件定義書の基礎知識から、システム要件定義書との違いや仕様書・REPとの違い、初心者でもわかりやすい具体的な書き方までを7つのステップで解説します。

作成時の注意点についても解説するので、関係者間の認識のズレを防ぎ、プロジェクトを円滑に進めるための質の高い業務要件定義書作成の参考にしてください。

業務要件定義とは

業務要件定義とは、システム開発を通じて「どのような業務を実現したいか」を明確にするプロセスです。具体的には、新しいシステムの導入で既存の業務課題をどのように解決し、どのような理想の業務フローを構築するのかを定義します。

業務要件定義の段階では技術的な詳細ではなく、あくまで業務視点での目的やゴールを定めることが中心です。定義書には、現状の業務フローと課題 (As-Is)に加え、システム導入後の理想的な業務フロー (To-Be) を記述します。また、システム化による効果も具体的に記述します。

最終的な成果物として業務要件定義書を作成し、プロジェクトの方向性を定めるための基盤とします。

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業務要件定義書とは

業務要件定義書(Business requirements definition document)とは、業務要件定義のプロセスで明確になった内容を、関係者全員が共通認識を持てるように文書化したものです。

システム開発におけるもっとも初期の工程(上流工程)で作成される文書で、次に続くシステム要件定義・設計・開発・テストなど、全ての工程の基礎となります。業務要件定義書が曖昧だと、プロジェクトの途中で手戻りが発生したり、完成したシステムが不十分なものになります。

業務要件定義書の目的

業務要件定義書の主な目的は、関係者間の合意形成です。その他にも、プロジェクトを成功に導く重要な役割を担っています。

役割 説明
関係者間の合意形成 発注者(ユーザー)と開発者が、プロジェクトのゴールについて共通の認識を持つ
プロジェクトの羅針盤 プロジェクトの目的や範囲を明確にし、方向性がブレないようにする
後続工程へのインプット

システム要件定義や設計工程の基礎情報となり、開発の精度を高める

成果物の品質担保

完成したシステムが、定義した要件を満たしているかを判断する基準となる

業務要件定義書の作成部署・担当者

業務要件定義書を主体となって作成するのは、主にシステムを利用するユーザー側の会社です。具体的な担当部署や担当者は、プロジェクトの規模や内容によって異なります。

具体的には、以下の担当者が関わります。

担当者の例 主な役割
業務部門 実際の業務内容や課題、システムへの要望をもっともよく理解しており、中心的な役割を担う
情報システム部門 業務部門と開発会社の橋渡し役となり、技術的な視点から要件の実現可能性を検討する
経営層・企画部門 プロジェクト全体の目的や経営戦略との整合性を確認し、最終的な承認を行う
外部コンサルタント 客観的な視点から業務分析や要件定義のプロセスを支援する

多くの場合、上記の関係者が協力し、開発会社の担当者とも連携しながら作成を進めます。

業務要件定義書と関連文書との違い

システム開発の現場では、業務要件定義書以外にも様々な文書が登場します。特に混同されがちなのは、システム要件定義書・仕様書・RFPです。

以下の表は、文書の違いを簡単にまとめたものです。

文書名 目的 内容の粒度 作成者(主体)
業務要件定義書 何を実現したいか (What) 大まか ユーザー企業
システム要件定義書 どうやって実現するか (How) 中程度 開発会社(ユーザーと共同)
仕様書 システムの具体的な作り 詳細 開発会社
RFP (提案依頼書) ベンダーに提案を依頼する 中程度 ユーザー企業

では、3つの文書の違いを詳しく見ていきましょう。

システム要件定義書との違い

業務要件定義書が「業務として何をしたいか」を定義するのに対し、システム要件定義書は「その業務をシステムでどう実現するか」を定義します。

例えば、「顧客情報を一元管理したい」というのが業務要件なのに対し、「顧客データベースを構築し、Webブラウザから検索・更新できる機能を持つ」と定義するのがシステム要件です。両方の要件定義書をしっかりと作成し、整合性を保つことでシステム開発を成功につなげられます。

仕様書・RFPとの違い

仕様書は、システム要件定義書よりもさらに詳細に、画面のレイアウトやデータベースの設計などシステムの具体的な作り方を記述した文書です。一方、RFP(Request For Proposal:提案依頼書)は、開発会社を選定する際にプロジェクトの概要や要件を伝えて提案を依頼するための文書です。

業務要件定義書は、RFPを作成するための基礎情報です。業務要件定義書がしっかりと作成されていれば、RFPに必要な情報を網羅的に記載でき、ベンダー選定をスムーズに進められます。

業務要件定義書が必要な理由

本章では、業務要件定義書が必要な理由を3つ解説します。

手戻り削減につながる

業務要件定義書には、発注者がシステムに求める機能や性能、開発者がそれをどのように実現するかを具体的に記述します。

プロジェクトの後半で要件の不備が見つかると、修正には膨大な時間とコストがかかります。例えば、開発済みのコードを大幅に修正しなければならないと、コードを書き直すだけでなく、関連するモジュールやシステム全体に影響を及ぼし、徹底的な再テストが必要です。テストの範囲が広がれば、テストにかかる時間とコストも増加してしまいます。

しかし、最初に業務要件をしっかりと固めれば、後工程での大幅な手戻りを防ぎ、プロジェクト全体のコストを抑制できます。また、プロジェクトの進捗管理の基準として機能することも手戻りを防ぐ要因の一つです。

業務要件定義書には、発注者がシステムに求める機能や性能、開発者がそれをどのように実現するかを具体的に記述します。これにより、要件に対する認識のズレを最小限に抑え、手戻りを減らせます。

関係者間の認識齟齬を防止できる

発注者と開発者の間で「こんなはずじゃなかった」というトラブルは、認識のズレが原因です。発注者のビジネス上のニーズを明確にし、開発者がそれを理解し、システムに落とし込むために業務要件定義書があれば、全員が同じゴールを目指してプロジェクトを進められます。

結果として、開発者は何を作るべきかを正確に把握し、発注者は期待する成果物を得られる可能性が高まります。また、定義書はプロジェクトの進行状況を把握するための基準となり、進捗管理にも役立ちます。

要件の抜け漏れを防ぎ、品質向上につながる

頭の中だけで考えていると、どうしても要件の抜けや漏れが発生しがちです。例えば、ある特定の機能に注力しすぎるあまり、その機能が他のシステムや既存の業務フローに与える影響を見落としてしまうことがあります。また、ユーザーの利用状況や潜在的なニーズを十分に把握できていない場合、本当に必要な機能が定義から漏れてしまう可能性もあります。

文書にまとめ、開発者・テスター・運用担当者・エンドユーザーなど複数の関係者でレビューすると、様々な視点から問題点や改善点の発見可能です。初期段階で潜在的な問題点を洗い出し、解決するとシステムの品質向上につながります。

業務要件定義書に記載すべき項目

業務要件定義書に記載する項目はプロジェクトによって異なりますが、一般的には以下のような内容が含まれます。以下の内容を網羅することで、誰が読んでもプロジェクトの全体像を理解できる文書を作成できます。

大項目 中項目 説明
1. プロジェクト概要 1.1 プロジェクトの背景と目的 なぜこのプロジェクトを行うのか、経営課題や事業戦略との関連性を記述する
1.2 プロジェクトの目標

プロジェクト完了時に達成すべき具体的な目標(売上〇%向上など)を定義する

1.3 システム化の範囲 どの業務をシステム化の対象とするのか、また対象としないのかを明確にする
2. 関係者 2.1 ステークホルダー一覧 プロジェクトに関わるすべての部署や担当者、役割を一覧にする
3. 現状の業務 (As-Is) 3.1 現状の業務フロー 現在の業務の流れを図や文章で可視化する
3.2 現状の課題・問題点 現在の業務で発生している問題点や非効率な点をリストアップする
4. 新しい業務 (To-Be) 4.1 新しい業務の概要 システム導入によって、業務がどのように変わるのかを記述する
4.2 新しい業務フロー システム導入後の理想的な業務の流れを図や文章で可視化する
4.3 業務要件一覧 システムに求める業務上の要求を具体的にリストアップする
5. その他 5.1 制約条件 予算、納期、法律、セキュリティポリシーなど、プロジェクトを守るべき制約を記述する
5.2 用語定義 プロジェクト内で使われる専門用語や独自の言葉の意味を定義し、認識のズレを防ぐ

業務要件定義書の書き方7ステップ

本章では、質の高い業務要件定義書を効率的に作成するための手順を7つのステップにわけて解説します。

ステップ1:目的と範囲を明確にする

まず、「何のためにこのシステムを作るのか」の目的と、「どこからどこまでの業務をシステム化の対象とするのか」の範囲(スコープ)を決定します。ポイントは、具体的な目的と範囲を明確にすることです。例えば、業務効率化・コスト削減・顧客満足度の向上・新規事業の創出などを目的に挙げ、その中でシステム化によってもっとも効果が期待できる範囲はどこかを明らかにします。

目的と範囲が曖昧だとプロジェクト全体が迷走してしまうため、経営層や関連部署と十分に議論し、合意を形成しましょう。

ステップ2:関係者を特定し、合意形成を行う

プロジェクトに関わるすべての人々(ステークホルダー)を洗い出します。 実際にシステムを使う現場の担当者から、承認権限を持つマネージャー、他部署の連携担当者まで、漏れなく特定することが重要です。 早い段階で関係者を巻き込み、協力体制を構築します。

関係者の例として、以下が挙げられます。

ステークホルダーの例 役割
経営層 最終的な意思決定、予算の承認
プロジェクト責任者 プロジェクト全体の管理監督
業務部門の担当者 日々の業務内容や課題の提供、要件の洗い出し
情報システム部門 技術的な支援、開発会社との連携
経理部門 予算管理、費用対効果の算出
法務・コンプライアンス部門 法的要件や規定の確認

ステップ3:現状業務を分析する

新しいシステムを考える前に、まずは現在の業務(As-Is)を正確に把握します。例えば、現場の担当者、管理者、システム担当者など、様々な立場の人々からヒアリングする方法があります。業務の流れ、使用している帳票やデータ、処理にかかる時間だけでなく、業務上の課題や改善点、潜在的なニーズなども洗い出すことで、多角的な視点から業務の実態を捉えられます。

また、実際の業務プロセスの観察もポイントです。担当者がどのように業務を行っているかを直接観察すると、ヒアリングだけでは見えてこない細かな点や、担当者が無意識に行っている工夫などを発見できます。加えて、帳票のレイアウト・記載項目・データの種類や形式・データの流れ・管理状況なども把握すると、業務に必要な情報や活用方法を理解できます。

ステップ4:課題を特定する

現状業務の分析結果をもとに、どこに問題があるのか、なぜ非効率なのかといった課題を具体的に特定します。「入力ミスが多い」「承認に時間がかかる」「データの検索が大変」など、現場の声を元に課題をリストアップし、根本原因を探ります。

ステップ5:新業務要件を定義する

特定した課題を解決するために、システム導入後の理想の業務(To-Be)を描きます。具体的には、業務フロー、役割分担、データ連携などを詳細に定義します。

理想の業務を実現するために、システムに何が求められるのかを業務要件として一つひとつ定義することが重要です。新業務要件が、後のシステム設計のベースとなります。

ステップ6:業務フローを作成する

次に行うのは、現状の業務フロー(As-Is)と、システム導入後の新しい業務フロー(To-Be)の図の作成です。フロー図にすると業務の流れが視覚的にわかりやすくなり、関係者間の認識合わせがスムーズに進みます。 文章だけでは伝わりにくい部分も、図があればシステム導入の効果を共有しやすくなります。

ステップ7:文書化し、レビューを行う

6ステップで整理した内容を、業務要件定義書として正式な文書にまとめます。完成した文書は、すべての関係者でレビュー(回覧や読み合わせ)を行い、内容に誤りや認識のズレがないかを確認します。レビューの際は、以下のポイントをチェックしましょう。

レビューの観点 チェックポイントの例
明確性 誰が読んでも同じ意味に解釈できるか、曖昧な表現はないか
網羅性 必要な要件に抜け漏れはないか、例外的な処理は考慮されているか
一貫性 プロジェクトの目的と各要件が一致しているか、矛盾する記述はないか
実現可能性 予算や期間、技術的な制約の中で実現できる要件か

全員の承認を得て、業務要件定義が完了します。

業務要件定義書を作成するときの注意点

質の高い業務要件定義書を作成するためには、いくつかの注意点があります。5つのポイントを押さえることで、プロジェクトの失敗リスクをさらに低減できます。

要件定義は具体的な記述を心がける

「業務を効率化する」といった抽象的な表現は避け、「手作業で行っていた月次レポート作成を自動化する」のように、誰が読んでも具体的にイメージできる言葉での記述が重要です。 定量的な目標(処理時間を50%削減するなど)を盛り込むと、より明確です。

早期段階から関係者と連携する

業務要件定義はユーザー企業だけで完結させず、開発を担当する可能性のあるベンダーにも早い段階から相談しましょう。 技術的な視点からのアドバイスをもらうことで、より実現可能性の高い要件定義が可能です。

業務の優先順位付けと段階的実装を行う

すべての要望を一度に実現しようとすると、開発が大規模になり、コストや期間が膨らんでしまいます。要件の優先順位を付け、必須の機能から段階的に開発・導入していく(フェーズ開発)ことも有効です。

優先順位付けでおすすめな方法は以下の通りです。

優先度(MoSCoW分析) 説明
Must(必須) これがないとシステムが成り立たない、必ず実現すべき要件
Should(すべき) 優先度は高いが、代替手段があればリリース延期も許容できる要件
Could(できれば) あると便利だが、なくても大きな影響はない要件
Won’t(今回は見送り) 今回の開発スコープには含めないが、将来的には検討したい要件

実現可能な要件に設定する

理想を追求するあまり、予算や技術、納期を度外視した要件を盛り込んでしまうと、プロジェクトは頓挫する可能性が高まります。プロジェクトの制約条件を常に意識し、実現可能な範囲で最適な要件の定義が大切です。

変更履歴の記録と影響範囲の評価を行う

一度合意した要件でも、プロジェクトの進行中に変更が必要になる場合があります。必ず変更の理由と内容を記録し、他の要件やスケジュール、コストにどのような影響があるのかを評価し、共有するプロセスを確立しておきましょう。

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効率的に業務要件定義書を作成しよう

業務要件定義書は、システム開発プロジェクトの成功を支える設計図です。作成には時間と労力がかかりますが、丁寧に作成すると手戻りの削減や品質の向上につながり、プロジェクト全体の成功に結びつきます。

本記事で紹介した7つのステップや注意点を参考にすれば、初心者の方でも質の高い業務要件定義書を作成できます。まずは身近な業務の課題から、要件定義のプロセスに取り組んでみてはいかがでしょうか。

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