品質マネジメントシステムにおける7原則│組織に浸透させるポイントも解説

品質マネジメントシステムの国際規格であるISO9001の序文には、7つの品質マネジメントの原則が提示されています。これらの原則を日常の業務に取り入れることで、適切に品質マネジメントシステムを運用でき、製品やサービスの品質の保持や向上につながります。

本記事では品質マネジメントの原則の内容や、組織に浸透させるポイントについて詳しく解説するので、ぜひ参考にしてください。

品質マネジメントシステムとは?

品質マネジメントシステムとは、企業などの組織が製品やサービスの品質を管理し、継続的に改善するための仕組みで、QMS(Quality Management System)とも呼ばれます。単なる品質管理の手法に留まらず、顧客満足向上や法令遵守など品質を通じて組織の成長を目指すためのプロセス全体を指します。

本章では、品質マネジメントシステムの基本的な概念や目的、ISO9001との関係を解説します。

  • 品質マネジメントの意味
  • 品質マネジメントシステムの目的
  • ISO9001との関係性

品質マネジメントの意味

品質マネジメントとは、製品やサービスの品質を向上させ、顧客満足を得るための取り組みを維持・管理する活動全体を指します。

品質マネジメントにおいて品質とは、顧客の期待やニーズにどのくらい応えている製品やサービスかが重要です。そのため、組織が一方的に完璧だと考える製品やサービスを提供しても、顧客の期待に合致しなければ品質が高いとは言えません。

品質マネジメントと関連した概念として、品質管理や品質保証があります。品質管理は不良品の発生の予防や検出を行い、品質を維持・改善するための具体的な作業です。また、品質保証は顧客に対して品質の信頼性を約束する活動を指します。一方、品質マネジメントは組織全体で品質を継続的に向上させるための包括的な取り組みで、品質管理や品質保証の上位概念に当たります。

このような考えに基づき、組織が顧客を深く理解し、顧客にとって価値のある製品やサービスを安定的に提供するための活動として、品質マネジメントが重要視されています。

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品質マネジメントシステムの目的

品質マネジメントシステムの目的は、組織が継続的かつ効率的に顧客満足を得るために、製品やサービスを一貫して提供する仕組みの構築です。具体的には、以下のような活動の仕組み化が挙げられます。

仕組み化の例 詳細
顧客のニーズ理解 顧客の要求を的確に捉え、製品やサービスに反映させるための継続的なプロセスを構築する。
品質の安定化 製品やサービスの品質を維持し、ばらつきを抑えるためのプロセスを確立し、運用する。
継続的な改善 現状を評価し、改善計画を実行する。その結果を検証して改善を行い、継続的に品質を向上させるサイクルを確立する。
業務効率の向上 業務プロセスを明確化・標準化し、業務の無駄を削減する。
リスクの低減 品質に関わるリスクを特定・分析し、問題発生の頻度と影響を最小限に抑える。
法令遵守 製品やサービスに関わる法令や規制を遵守し、組織の信頼を維持する。

これらの品質に関する活動を体系的に仕組み化すると、顧客満足の向上をより確実に達成できます。

ISO9001との関係性

ISO9001とは、国際標準化機構(ISO)が定めた、品質マネジメントシステムに関する国際規格です。効果的なマネジメントシステムを確立し顧客満足を得るために、組織が満たすべき具体的な要求事項を示しています。この要求事項は、業種・規模・提供する製品・サービスの種類を問わず、あらゆる組織に適用可能です。

また、ISO9001の認証取得は顧客や取引先に対して、品質に関する国際基準を満たしている組織の証明になります。さらに、入札の条件としてISO9001の認証取得が求められる場合もあり、多くの組織で導入が進んでいます。

品質マネジメントの7原則とは?

ISO9001の序文には、7つの品質マネジメントの原則が提示されています。そして、これらの原則はISO9001の基盤となる考えで、組織のパフォーマンスを継続的に改善するための指針となっています。

  1. 顧客重視
  2. リーダーシップ
  3. 人々の積極的参加
  4. プロセスアプローチ
  5. 改善
  6. 客観的事実に基づく意思決定
  7. 関係性管理

原則1.顧客重視

顧客重視とは、顧客の現在および将来の要求を理解し、それを満たし、さらに顧客の期待を超えようと努力する組織の姿勢を指します。組織がこの原則を取り入れることで、顧客満足度を向上させ、リピーターの増加や組織の評判を高められます。

また、この原則では直接的な顧客だけでなく、間接的な顧客にも配慮する必要があるとしています。間接的な顧客とは、直接取引がなくとも製品やサービスを最終的に利用したり、その影響を受けたりする個人や組織を指します。例えば、ある組織が小売店に対して製品を販売した場合も、実際に製品を利用するエンドユーザーの満足度向上に努めなければなりません。

組織の持続的な成功には、顧客との信頼関係の構築が重要です。そのためには、顧客の要望や期待を組織の目的と関連付け、顧客重視の文化を定着させる必要があります。

原則2.リーダーシップ

リーダーシップの原則は、全階層のリーダーが組織の目的と方向性を明示し、全員が共通の目標に向かって積極的に取り組める環境をつくることが求められています。適切なリーダーシップにより、組織内に信頼と一体感が生まれ、従業員の意欲や自発性を高められます。

また、リーダーシップを発揮するには、単なる命令や管理ではなく、リーダー自身が規範となり品質目標達成に向けた行動が重要です。リーダーの行動が従業員の行動基準となり、組織全体の価値観の形成につながります。

原則3.人々の積極的参加

人々の積極的参加とは、各自が能力を発揮し、品質向上に貢献することを指します。

品質マネジメントには、品質向上は誰か一部の人だけではなく、全員の協力が必要であるといった考えがあります。そのため、ここでの人々とは正社員だけではなく、契約社員やパートタイマーなど、あらゆる立場・役割の人が対象です。また、積極的参加とは組織の品質目標を理解し、自ら考えて行動し改善するといった姿勢を指します。

人々の積極的参加を促すために、組織は適正な人事評価や学習機会の提供、権限の譲渡、意見を言いやすい職場文化の醸成など、各自のモチベーションを高める取り組みが必要です。

原則4.プロセスアプローチ

プロセスアプローチでは、それぞれの業務(活動)を互いに関連しあうプロセスとして理解した上での管理を求めています。ここでのプロセスとは、インプットを使用して意図した結果(アウトプット)を生み出す、相互に関連するまたは相互に作用する一連の活動とされています。

料理で例えると、食材を調達(インプット)し、食材を調理(活動)し、料理が完成(アウトプット)する一連の流れのことです。つまり、個々の作業ではなく、アウトプットするために意味のある流れでつながっていることが重要です。

このように、全体を統合的に捉えることで、一貫性のあるアウトプットをより効果的かつ効率的に生み出せます。

原則5.改善

品質マネジメントでは、継続して改善する組織の姿勢を重視しています。

改善は不良品やクレームが発生した場合だけではなく、日常業務の効率化や製品・サービスの質の向上、コスト削減など、あらゆる場面で取り組むことが重要です。このような改善を継続的に行う仕組みとして、ISO9001ではPDCAサイクル(Plan:計画、Do:実行、Check:評価、Act:改善)が用いられています。

継続的な改善に取り組むことで、組織は常に変化する顧客のニーズや市場動向に適切に対応できます。その結果、組織の持続的な成長と競争力の強化につながります。

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原則6.客観的事実に基づく意思決定

客観的事実に基づく意思決定とは、経験や勘だけに頼らず、データや証拠に基づいて意思決定をすることです。

意思決定のプロセスには、感情や個人的な知見などの主観的な情報と、データや証拠などの客観的な情報が複雑に絡みます。主観的情報のみの判断は、人によって受け取り方が異なり、思い込みや誤解を招く可能性があります。そのため、感情や印象に左右されない客観的な情報を用いて、状況を正しく把握し適切な意思決定が重要です。

原則7.関係性管理

関係性管理とは、密接に関連する利害関係者との良好な関係を築き、維持・発展させるためのマネジメントです。密接に関連する利害関係者とは、顧客やサプライヤー(仕入先)、従業員、出資者、地域社会など、組織が持続的に成功するために重要な関係者を指します。

品質目標の達成には、多くの関係者による支えが必要です。組織は重要な関係者と信頼関係を構築し、協力し合うことで、組織は持続的に成長し、顧客満足の向上につながります。

品質マネジメントの7原則の重要性

前章で解説した、7つの品質マネジメントの原則は、品質マネジメントシステムを構築・運用し、組織のパフォーマンスを向上させる道しるべとなります。

品質マネジメントの原則は、組織文化として根付かせて実践すると効果を発揮します。これらの原則が日々の実務に適用されることで、顧客からの信頼を獲得でき、競争優位性の確立につながります。

品質マネジメントの7原則を組織に浸透させるポイント

本章では、品質マネジメントの原則を組織に浸透させる具体的なポイントを解説します。

  • 従業員教育をする
  • 顧客からのフィードバックを管理する
  • 業務を見える化する

従業員教育をする

品質マネジメントの原則を組織内に根付かせるには、組織内の全員がその意義を理解し、各自の業務と関連付ける行動が重要です。そのためには、単に品質ルールを周知するだけではなく、定期的な従業員教育の実施が効果的です。

従業員教育の実施方法として、次のような例が挙げられます。

従業員教育の例 詳細
レベル別の教育プログラム 新入社員教育や中堅社員研修、管理職研修など、従業員の役職や在籍年数に応じた教育プログラムを構築する。
ケーススタディを用いたグループワーク 具体的で身近な事例を用いて、日常業務と品質マネジメントの原則がどのように関連しているのか、グループで議論し理解を深める。
OJT制度の導入 現場の業務と品質がどのように関連しているかを経験する。

このような従業員教育は、一部の従業員だけではなく、組織全体で取り組むことが重要です。

顧客からのフィードバックを管理する

品質マネジメントの原則の中でも、顧客重視はすべての品質マネジメント活動の中心となる考えです。この原則を組織に浸透させるには、顧客のニーズや期待への理解が重要です。

そのためには、単なるアンケート集計やクレーム処理といったレベルではなく、顧客からのフィードバックを組織の資産と捉え、適切に管理し、品質改善活動に結びつける必要があります。

以下のような手順で、顧客からのフィードバックを管理・活用してみてください。

手順 詳細
①フィードバックの収集

顧客の声を偏りなく収集する。


【収集方法の例】

・アンケート調査

・顧客担当者へのヒアリング

・SNSの口コミ調査

・顧客へのインタビュー など

②分析と傾向把握

集まったフィードバックの傾向を分析する。


【分析方法の例】

・課題(価格、納期、接客など)別に整理

・アンケート結果の単純集計・クロス集計

・頻出ワードの集計 など

③情報共有

分析結果を、部署を横断して共有できる仕組みを構築する。


【共有方法の例】

・共有ツールの導入

・定例ミーティングでの共有 など

④改善活動の実施

業務や製品・サービスを改善する。


【改善活動の例】

・パッケージの仕様変更

・アプリのUXデザインの見直し

・FAQの充実

・接客マニュアルの改訂 など

顧客からのフィードバックが製品やサービスに反映され、顧客に還元されることが重要です。そのため、改善活動や顧客対応が滞りなく実施されるよう、進捗管理を徹底しましょう。

業務を見える化する

業務の見える化とは、作業の流れや担当者、進捗状況、品質基準などが誰にでもわかるような状態のことです。業務の見える化は、属人化や作業の抜け漏れを防止でき、品質を一定に保つことに役立ちます。

業務を見える化するためには、次のような取り組みが有効です。

取り組み例 詳細
工程フロー図作成 各作業の流れ・つながり・担当者を明確にし、業務全体を最適化する。
業務マニュアル作成 誰が担当しても一定品質で業務を遂行できるよう、各作業の目的、手順、使用ツール、注意点などをわかりやすく解説する。
プロジェクト管理ツール導入 誰が・いつまでに・何を担当しているのかを明確にし、作業の抜け漏れや遅延を防ぐ。部署やプロジェクトを横断して管理できるツールを選定すると、連携がスムーズになる。

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品質マネジメントの7原則を活用して品質を向上させよう

本記事では、品質マネジメントの原則について解説しました。

品質マネジメントの原則をしっかり理解し、組織文化として定着させると、製品やサービスの品質向上に大きく貢献します。

これらの原則を効果的に日々の業務で実践するためには、適切なツールの活用が有効です。特にプロジェクト管理ツールの導入は、タスク管理はもちろん、組織内の情報共有にも役立ち、品質マネジメントシステムの運用を強力に支援します。

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