SAFe(Scaled Agile Framework)とは?特徴や導入メリット、実行手順まで徹底解説

「プロジェクトの規模が大きくなり、複数チームでの開発がうまく進まない」「各チームはアジャイルで動いているのに、組織全体として見るとスピードが上がらない」という悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。スクラムなどのアジャイル手法を導入しても、組織の規模が拡大するにつれて、チーム間の連携や全体計画の策定が難しくなることがあります。

本記事では、大規模開発の際によく利用されるフレームワーク「SAFe®(Scaled Agile Framework)」について、基本から実践までを網羅的に解説します。SAFeの全体像を理解し、導入のメリットや具体的なステップ、さらにはキャリアアップにつながる資格情報までを把握することで、あなたの組織が次のステージへ進む具体的な道筋が見えてくるはずです。ご参考いただけますと幸いです。

SAFe(Scaled Agile Framework)とは

SAFe(Scaled Agile Framework:スケールドアジャイルフレームワーク)とは、大規模なソフトウェア開発プロジェクトを効率的に進めるためのフレームワークです。単一のチームだけでなく、複数のチーム、部門、そして組織全体でアジャイルを実践して、組織全体の連携を強化し、ビジネス価値を迅速かつ継続的に提供することが目的です。

近年、DXの推進と市場ニーズの多様化が進むにつれて、従来のウォーターフォール型開発※2では変化への迅速な対応が難しくなり、製品やサービスの市場投入に時間がかかりすぎるという課題が顕在化してきました。課題を解決する手段としてアジャイル開発が注目されていますが、大規模な組織においては導入と運用が困難です。そこで、大規模開発特有の課題を克服するために設計されたSAFeが、多くのグローバル企業で採用され、その導入が進んでいます。

※1 アジャイル開発:「計画→設計→実装→テスト」といった開発工程を機能単位の小さいサイクルで繰り返し、プロダクトを少しずつ完成させていく開発手法の総称
※2 ウォーターフォール型開発:システム開発における開発工程を、「計画→要件定義→設計→実装→テスト→運用・保守」の段階に分け、前の工程が完了してから次の工程に進む開発モデル

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SAFeの導入メリット

SAFeの導入で、企業は以下のようなメリットを受けられます。結果として、開発効率の向上だけでなく、ビジネス全体の成果につながります。

メリット 具体的な効果
生産性の向上 ・チーム間の連携が円滑になり、手戻りや待ち時間が減少する
・明確な目標に向かって全員が集中することで、生産性が向上する
品質の向上 フレームワークに品質確保のプラクティスが組み込まれており、開発サイクルの早期段階で欠陥を発見・修正できる
市場投入時間の短縮 継続的なデリバリーパイプライン※により、価値ある機能を市場へ短期間で届けられる
従業員エンゲージメントの向上 目的の明確化で従業員自ら行動できるようになり、モチベーションと満足度も向上する

※デリバリーパイプライン:ソフトウェアの変更を自動的にテストし、本番環境へのリリース準備が整った状態にするプロセス

SAFeの主な活用シーン

SAFeは、特に以下のような課題や状況に直面している組織に活用できます。

課題・状況 SAFeによる解決策
複数チーム間の依存関係が複雑 PIプランニングを通じてチーム間の依存関係を可視化し、計画段階で調整する
開発とビジネス部門の連携不足 ビジネス戦略と現場の優先順位をつなげる
全社的なDXの推進 組織全体に共通の考え方と進め方を浸透させ、変革をサポートする
大規模なシステムや製品の開発 複数チームや外部と連携しながら、複雑な開発を管理する

※PIプランニング:プログラムインクリメント(PI)と呼ばれる一定期間(通常は8〜12週間)における計画を立てるプロセス

SAFeの中核・7つのコアコンピテンシー

環境変化に迅速に対応していく機敏性機敏性、すなわちビジネスアジリティを実現するために、SAFeは7つのコアコンピテンシー(中核的な能力)によって構成されています。7つのコアコンピテンシーは、SAFeを実践する上で組織が習得すべき能力です。

コアコンピテンシー 概要
Lean-Agile Leadership(LAL) リーダーが率先して組織が大切にする信念や文化(リーン・アジャイルの価値観)を示し、組織文化として根づかせる能力
Team And Technical Agility(TTA) アジャイルチームが高品質なソリューションを迅速かつ持続的に提供するために必要なスキルと組織構造
Agile Product Delivery(APD) アジャイル開発の原則※とプラクティスを製品開発全体に適用し、顧客に継続的な価値の提供を目指すアプローチ
Enterprise Solution Delivery(ESD) 大規模なエンタープライズシステムやソリューションを計画・構築・展開・管理する包括的なアプローチ
Lean Portfolio Management (LPM) 組織が戦略と実行を結びつけ、変化に迅速に対応し、価値を最大化するためのフレームワーク
Organizational Agility(OA) リーンの原則※とアジャイルの原則を組織全体に適用し、市場の変化に迅速に対応できる柔軟な体制をつくる能力
Continuous Learning Culture(CLC) 組織全体で継続的な学習を奨励し、促進する文化

※1 アジャイル開発の原則:変化に柔軟に対応し、顧客に価値を素早く届けるための考え方
※2 リーンの原則:トヨタ生産方式に由来する「ムダの排除」「価値の最大化」が中心の考え方

SAFeを支える4つのコアバリュー

SAFeの基盤となるのが、以下の4つのコアバリューです。SAFeを実践するすべての人々の行動指針として活用されます。

価値 説明 効果
Alignment(連携) ビジネス目標から各チームのタスクまで組織のあらゆるレベルで方向性を一致させる 全員が同じ目標に向かって進み、異なるチームでも自律的に判断できるようになる
Built-in Quality(品質の作り込み) 後の工程で品質を確認するのではなく、開発プロセスのすべてのステップに組み込む 手戻りを減らし、システムの信頼性を高め、開発速度を向上させる
Transparency(透明性) 作業の進捗、課題、バックログなどを関係者全員に見える状態にする 事実に基づいた意思決定を可能にし、信頼関係の構築につながる
Program Execution(プログラムの実行) 計画通りに価値を提供し、成果を出すことに集中する

計画通りに成果を出し、組織や顧客の信頼を獲得する

SAFeの10原則

SAFeにおける意思決定は、以下の10の不変の原則に基づいています。リーンとアジャイルの考え方を大規模のプロジェクトに適用する基礎となります。

No. 10の不変の原則
1 経済的な視点を持つ
2 システム思考を適用する
3 変動を想定し、選択肢を残しておく
4 統合された高速な学習サイクルで段階的に構築する
5 稼働システムを客観的に評価し、マイルストーンを設定する
6 進行中の作業(WIP)を制限し、フローを最適化する
7 決まった周期(ケイデンス)で計画を立て、複数のチームや部門の進行を合わせて連携を強化する
8 知識を持つ従業員のエンゲージメントを高める
9 意思決定を分散化する
10 価値の流れに基づき組織を構築・管理する

特に、1番目の「経済的な視点」、2番目の「システム思考」、9番目の「分散化された意思決定」は、従来のプロジェクト管理とは異なる重要な考え方のため、覚えておきましょう。

SAFeを構成する4つのレベル

SAFeは、組織の規模や複雑さに応じて選択できる4つのレベル(構成)を提供しています。レベル分けされていることで、まずはスモールスタートで始めて、必要に応じて拡大することが可能です。

エッセンシャルレベル

エッセンシャルレベルは、SAFeのすべての構成の基盤となるもっともシンプルなレベルで、対象となるのは50人以上の規模が一般的です。

エッセンシャルレベルの中心的な要素は、「アジャイルリリーストレイン(ART)」と呼ばれる、大規模なアジャイル開発組織において複数のアジャイルチームが連携し、価値を継続的に提供するフレームワークです。複数のアジャイルチームが連携し、共通のビジネスゴールに向かって同期を取りながら開発を進めます。

ラージソリューションレベル

ラージソリューションレベルは、航空機の開発や大規模な行政システムなど、一つのARTでは対応できない数百人規模の複雑で大規模なソリューション開発に適用されます。

ラージソリューションレベルには、複数のARTと、外部のサプライヤーなどを束ねる「ソリューショントレイン」の概念が導入されます。複数の ART がそれぞれの専門性を活かしながら、共通のビジョンに向かって協力して進むことで、大規模な組織においても最適化された開発の実現が可能です。

ポートフォリオレベル

ポートフォリオレベルでは、事業部・組織全体を対象として、企業全体の事業戦略や投資判断と直接結びつけます。

「リーンポートフォリオマネジメント(LPM)」の機能を通じて、どの開発案件に予算を配分し、どの機能を優先するのかを、ビジネス価値に基づいて決定します。

フルレベル

フルレベルは、エッセンシャルレベル・ラージソリューションレベル・ポートフォリオレベルのすべての要素を統合した、もっとも包括的な構成です。

世界中に開発拠点を持つグローバル企業など、非常に大規模で複雑な組織の運営を支援するために設計されています。

SAFeの導入ロードマップと実行プロセス

SAFeの導入は、組織文化の変革を伴う大きな取り組みです。Scaled Agile, Inc.が提供する公式の「SAFe実装ロードマップ」は、成功確率を高めるための13のステップを示しています。本章では、主要な流れを紹介します。

ステップ1:ティッピングポイントとリーダー層の研修

まず、組織全体が「このままでは変われない」と危機感を持つ「ティッピングポイント(変革の転換点)」を認識することがポイントです。そして、経営層やマネージャーなどのリーダーが「Leading SAFe®」などの研修を受け、SAFeの導入と実践をリードするために必要な知識とスキルを習得します。

ステップ2:SAFe CoE(旧LACE)の設立

次に、変革を推進するための中核チームである「SAFe CoE(Center of Excellence)※旧称・LACE」を設立します。SAFe CoEの役割は、SAFe導入における効果的な手段(ベストプラクティス)を共有し、組織全体でのSAFeの理解を深めるようにサポートすることです。

具体的には、トレーニングやワークショップの開催、SAFe導入の成功事例の共有などが挙げられます。また、SAFeの実践状況のモニタリングと改善点の特定を行い、組織全体のSAFe成熟度を高めるための施策も推進しなければなりません。

ステップ3:ART(Agile Release Train)の特定と立ち上げ

次に、「アジャイルリリーストレイン(ART)」を特定し、立ち上げます。ARTとは、特定の製品やサービスなどの「価値」を継続的に届けるために必要なメンバーを集めた、仮想的なチームです。

「どの製品やサービスを対象にするのか」、「どのチームや人材が関わるのか」、「関係部門の理解と協力は得られているか」などを整理して、どのチームが最初のARTに参加すべきかを慎重に検討します。

ステップ4:PIプランニングの準備と実行

ARTの活動は、「PIプランニング(Program Increment Planning)」というイベントから始まります。PIプランニングとは、8〜12週間程度の開発サイクル(Program Increment=PI)における目標と計画を、すべての関係者が集まって話し合い、全体の方向性をそろえるイベントです。

参加するチームの計画を立てると同時に、他チームとの依存関係やリスクを洗い出し、全体として整合のとれた計画に仕上げることがポイントです。

ステップ5:継続的な改善とスケール展開

PIプランニングを終えてARTを実行したら、継続的な改善とSAFeのスケール展開に取り組みます。SAFeでは、一つのARTが立ち上がっただけで終わりではありません。実際の運用を通じて課題を見つけ、ふりかえりながらプロセスや成果を改善していきます。

また、ARTの成功を踏まえて、他の製品領域や事業部門にも展開し、組織全体の変化に迅速かつ柔軟に対応する力(アジリティ)の向上を目指します。

参考:© Scaled Agile, Inc.「SAFe実装ロードマップ」

まとめ:SAFeは大規模開発の課題を乗り越える強力な羅針盤

SAFeは、大規模な組織やプロジェクトでもアジャイルの効果を発揮できるように設計されたフレームワークです。一見すると複雑に感じられるかもしれませんが、価値を迅速に届け、変化に対応し続けるための強力な羅針盤となります。

本記事で紹介した原則と実践方法に基づいて、まずは小さく導入を始め、継続的な改善を重ねることで、組織全体のアジリティを高められます。もし大規模開発や組織変革に課題を感じている場合は、SAFeはその解決に向けた有力な選択肢となるでしょう。

しかし、SAFeを効果的に・効率的に実行するためには、進行状況や依存関係を可視化し、正しく管理する仕組みが欠かせません。そこでおすすめしたいのが、プロジェクト管理ツール「Lychee Redmine」です。

Lychee Redmineは、スケジュールやタスク内容など、プロジェクトに関わるあらゆる情報を一元管理できるツールです。SAFeのフレームワークに沿ったプロジェクト管理をサポートし、大規模な開発チームでもスムーズな連携を実現します。

具体的には、以下の機能がSAFeの実践に役立ちます。

機能 概要
ガントチャート 複数のチームの依存関係と進捗状況を視覚的に把握できる
チケット管理 細かな作業単位に分解したタスクを登録・管理でき、チーム単位での作業進捗や課題が可視化される
レポート・ダッシュボード 進捗状況やリスク、課題の分析結果をグラフや表で表示する
カンバン 複数のチームのタスクの進捗状況がリアルタイムで把握できる

SAFeを確実に実行するためには、プロジェクト管理が欠かせない要素といえるでしょう。

Lychee Redmineの各プランは30日間無料で利用できます。利用期間を過ぎても、自動的に有料へ移行することはありませんので、安心してご利用いただけます。SAFe導入におけるプロジェクト管理に課題を感じている方は、ぜひ一度お試しください。

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