WBSは、プロジェクト管理において基本かつ重要な手法です。しかし、新任のPM(プロジェクトマネージャー)の中には、「WBSとはどのような手法なのか」「WBSをどのように作成すれば良いのか」といった点で戸惑いを感じている方も少なくありません。
本記事では、WBSの基本的な考え方を整理した上で、作成手順や設定時に留意すべきポイントを解説します。すでに複数のプロジェクトを担当している方はもちろん、新たにPMを任された方が、WBSを理解し実務で適切に活用するための参考資料として有用な内容です。
WBSとは

WBSとは、プロジェクト全体を細かなタスクへと分解し、その粒度や順序を整理したツリー構造として可視化する手法です。
「Work(作業)」「Breakdown(分解)」「Structure(構造化)」の頭文字を取った用語で、作成されたツリー構造自体を指してWBSと呼ぶ場合もあります。主にプロジェクトの計画策定段階で用いられ、タスクの抜け漏れ防止や作業範囲の明確化、プロジェクト全体像の把握に有効です。
WBSの使用目的
WBSの主な目的は、プロジェクトにおける作業を構造化し、可視化を進めることにあります。プロジェクトの全体像を明確に把握できれば、スケジュールや必要なリソース、工数をより正確に見積もれるようになります。
一方、全体像が不透明なままでは、作業の抜け漏れや想定外の遅延といった、思わぬトラブルを招くリスクが高まるでしょう。WBSは、プロジェクトを効率的に遂行し、成果と利益の最大化を図るために欠かせない管理手法です。
プロジェクト管理における2種類のWBS
プロジェクト管理で用いられるWBSは、構造化の軸に応じて、主に以下の2種類に分類されます。
- プロセス軸のWBS
- 成果物軸のWBS
プロセス軸のWBSは、プロジェクトの進行プロセスに着目し、作業を段階的に細分化・構造化する手法です。成果物が明確になりにくい中長期プロジェクトで用いられることが多く、「自社の離職率を5%低減させる」といった定量目標を掲げるプロジェクトが代表例として挙げられます。
一方、成果物軸のWBSは、最終的な成果物が明確な短期プロジェクトに適した手法です。達成すべき成果物から逆算し、必要なタスクを洗い出した上で順序立て、ツリー構造として整理します。住宅建設を例にすると、「基礎・骨組み」や「外壁工事」などが主要な成果物に該当します。
成果物軸のWBSでは、こうした成果物を完成させるために必要な作業を分解し、プロジェクト全体の構造として再整理していく考え方です。
WBSを利用する3つのメリット

プロジェクト管理においてWBSを利用することで、作業の可視化や計画精度の向上といった多くの効果が得られます。中でも、メンバーが自分の作業を把握しやすくなる点、タスクの抜け漏れを防ぎやすくなる点、手法がシンプルで再現性が高い点は、WBSを活用する上で特に重要なメリットと言えます。
1.メンバーが自分の作業を把握しやすい
WBSを利用するメリットの一つは、メンバーが自分の担当作業を把握しやすくなる点です。
WBSによって、プロジェクト進行に必要なタスクが明確になります。自分が担当するタスクが、全体のどの作業に位置付けられているのかを理解できれば、結果としてチーム全体の作業効率が向上し、円滑なコミュニケーションにもつながるでしょう。
またWBSでは、作業負荷を考慮しながらタスクを階層化します。階層ごとに作業を割り振ることで、特定のメンバーへの業務集中を防ぐことが可能です。ただし、階層分けが曖昧な場合には、かえって混乱や遅延を招くため注意が必要です。
2.タスクの抜け漏れが起きにくくなる
WBSを利用する二つ目のメリットは、タスクの抜け漏れを防ぎやすくなる点です。
WBSでは、粒度の大きな作業を段階的に分解して整理するため、プロジェクトに必要な作業の見落としを防げます。また、プロジェクト全体を俯瞰しながらタスクへ落とし込めるため、トラブルが発生しやすい工程や潜在的なリスクを事前に把握することも可能です。
3.シンプルな手法で再現度が高い
三つ目のメリットは、手法がシンプルで再現性が高い点です。WBSは、プロジェクトを徐々に細分化し、粒度と順序を整理して構造化するというわかりやすい考え方に基づいています。CCPMのような大規模プロジェクト向けの手法は、PMの経験によって成果に差が出やすい側面があります。
一方でWBSは、PMとしての経験が浅い場合でも実践しやすく、自社プロジェクトに合わせたテンプレートを作成できる点が特長です。そのため、新任PMでも合理的なプロジェクト計画を立てやすく、特にウォーターフォール開発※との親和性が高い傾向にあります。
※ウォーターフォール開発とは、開発プロセス全体を複数工程に分割し、時系列に沿って各工程を順番に進めていくシステム開発手法
WBSの作り方

WBSの作り方は比較的シンプルで、基本的な流れを押さえれば実務でも再現しやすい手法です。まずは最終成果物を明確にし、そこから必要なプロセスや作業を段階的に分解・整理していきます。以下では、WBSを作成する際の代表的な7つの手順を、順を追って解説します。
最終成果物を明確にする
まず、プロジェクトの最終成果物や目標を明確にします。これは、プロジェクトの成功を定義する上で欠かせない要素です。成果物は、「レポート」や「システム」といった具体的なアウトプットの場合もあれば、「目標の達成」「課題の解決」といった抽象的な内容である場合もあります。
最終成果物を明確にするためには、ステークホルダーとの十分な対話が不可欠です。必要に応じて、プロトタイプやモックアップを作成し、具体的なフィードバックを得ながら認識を揃えていくことが重要です。
必要なプロセスや手順を考える
最終成果物が定まったら、そこに至るまでのプロセスや手順を整理します。
この段階では、製品の開発プロセスやプロジェクトの進行手順、問題解決の流れなどを洗い出します。プロジェクトがどのような段階を経て最終目標に到達するのかを、全体像として捉えることがポイントです。
プロセスを逆算して具体的なタスクに分解する
次に、プロジェクトに必要な具体的な作業を洗い出します。先に整理した最終成果物やプロセスを基に、漏れや重複が生じないよう注意しながらタスクを分解しましょう。
中長期のプロジェクトでは、まず大まかな作業フェーズごとに整理すると進めやすくなります。例えば、Webサイト制作プロジェクトの場合、主なフェーズとして以下が挙げられます。
- 企画
- 構造設計
- デザイン制作
- 実装
- コーディング
- リリース
これらのフェーズをさらに細分化することで、作業の抜け漏れや重複を防ぎつつ、タスクを整理できます。
ただし、過度に細かなタスクまでWBSに含めるのは避けたほうが良いでしょう。細分化しすぎると、複数の親タスクにまたがったり、管理が煩雑になったりする恐れがあります。プロジェクトの管理工数を考慮した上で、適切な粒度でタスクを設定することが重要となります。
目安としては、3階層程度(大項目・中項目・小項目)に整理する方法が有効です。Webサイト制作プロジェクトの場合、大項目には以下のような要素を設定するケースが一般的に見られます。
- 要件定義
- 構造設計
- デザイン
- コーディング
- リリース
例えば「要件定義」を取り上げると、以下のような小項目に分解できます。
- 要求ヒアリング
- 要求分析
- 要求文書の作成
作業の粒度・順序を整理する
必要な作業を洗い出した後は、構造化に向けて粒度と順序を整理します。
ここで言う作業の粒度とは、主に工数や所要時間を指します。粒度にばらつきがあると、構造化した際にいびつなツリー構造となり、進捗管理が煩雑になる可能性が高まるでしょう。そのため、工数や所要時間を基準にタスクをグルーピングすることが重要です。
加えて、作業同士の依存関係を考慮し、実行順序を整理します。優先度の高いタスクが遅延した場合、関連するタスクだけでなく、プロジェクト全体に影響が及ぶこともあります。タスクをそのまま構造化するのではなく、事前に粒度と順序を整えることがポイントです。
作業を構造化する
整理した作業や活動を階層構造としてまとめ、プロジェクトの流れに沿って構造化します。
この際、親タスクと子タスクの関係が適切であるか、同じ階層内で業務負荷に極端な差が生じていないかを確認しましょう。
期日を設定する
ツリー構造が完成したら、各タスクに期日を設定します。
プロジェクトを進める中では、計画段階では想定していなかった作業やトラブルが発生することも少なくありません。そのため、期日には一定の余裕を持たせておくことが重要です。
各作業に担当者を設定する
最後に、すべての作業に担当者を設定します。すべてのタスクに責任者を明確にすることが重要です。
特に細かなタスクでは、担当者が不明確だったり、複数人で曖昧に担当していたりするケースが見られます。ミスやトラブルが発生した際に迅速に対応し、円滑に作業を進めるためにも、すべてのタスクに明確な担当者を割り当てましょう。
WBS作成時の3つのポイント

WBSは手順通りに作成するだけでも一定の効果が期待できますが、いくつかのポイントを意識することで、実務でより使いやすい形に仕上がります。本章では、プロジェクト管理の現場で特に押さえておきたい3つのポイントをご紹介します。
1.マインドマップで思考を整理する
WBSを作成する際は、思考整理の手段としてマインドマップを活用すると効果的です。プロジェクトの計画策定では、考慮すべき事項が多く、最初から整理された形で洗い出すのは難しいものです。マインドマップを用いれば、検討事項やタスク間の関係性を可視化しながら、発想を広げて整理できます。
また、自身の考えを客観的に俯瞰できるため、問題点を見つけやすくなり、タスクの抜け漏れ防止にもつながります。
2.プロジェクトの進行スケジュールに余裕を持たせる
WBS作成時には、作業の抜け漏れが生じないよう注意しながら計画を立てることが重要です。ただし、どれだけ入念に検討しても、実際にプロジェクトを開始してから初めて判明する事項は少なくありません。
さらに、プロジェクト進行中には、想定外のトラブルが発生することも珍しくありません。初期段階で把握できない要素があることを前提に、あらかじめ余裕を持たせた計画を立てておくことが大切です。万が一の事態にも対応できるよう、回避やリカバリーを想定したWBSを作成しましょう。
3.ツールを活用してWBSを作成する
WBSの作成には、一定の時間と手間がかかります。限られた工数で精度の高いWBSを作成するには、プロジェクト管理ツールの活用が有効です。プロジェクト管理ツールは、計画策定だけでなく、プロジェクト開始後の進捗管理やコスト管理、完了後の振り返りまでを一貫して支援します。その結果、WBS作成の負荷が軽減され、業務全体の効率向上が期待できるでしょう。
また、ツールを利用すれば、タスクの洗い出しや依存関係の整理も容易になります。優先すべきタスクや並行して進められる作業を可視化し、チーム全体で共通認識を持つことが可能です。WBSテンプレートやガントチャート機能、工数・単価の記録機能を備えたツールであれば、スケジュール作成や人件費の見積もり、損益管理まで含めた高度なプロジェクト管理を実現できます。
WBSテンプレートの活用方法

WBSは、「プロジェクトで何を行うのか」を整理するための土台となるものです。この土台を毎回ゼロから作成しようとすると、タスク分解の粒度がばらつきやすく、抜け漏れも発生しやすくなります。
そこで有効なのが 、WBSテンプレート の活用です。テンプレートを利用することで作業整理がスムーズになり、プロジェクトごとの品質も安定しやすくなります。本章では、WBSテンプレートの具体的な活用方法について解説します。
テンプレートを使うと作業分解の粒度がブレにくくなる
WBSでは、「どこまで細かく分解するか」が作成者によって大きく異なります。テンプレートには、一般的な階層構造(フェーズ→作業→タスク)があらかじめ用意されているため、「細かすぎる」「大まかすぎる」といった分解粒度のブレを抑えやすくなります。
例えば、「担当者1名が2〜5日程度で完了できる粒度でタスクを切る」といった基準も、テンプレートを通じて共有しやすくなるでしょう。共通の基準があれば、新しく参加したメンバーでも短時間でWBS作成にかかわれるようになります。
特に、プロジェクトメンバーが多い場合や複数のPMが関与する組織では、共通の型があることで、認識を揃えやすくなる点が大きなメリットです。また、WBS作成に不慣れなチームであっても、テンプレートが最低限の構造を担保するため、ゼロから考えるよりもスピーディーに作成できます。その結果、作成後の修正量が減り、全体の工数も抑えやすくなります。
Excel/Googleスプレッドシート/プロジェクト管理ツール別テンプレートの使い分け
WBSテンプレートは、主にExcel・Googleスプレッドシート・プロジェクト管理ツールの3種類で利用されることが一般的です。それぞれの特徴と適したケースは以下の通りです。
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種類 |
特徴 |
向いているケース |
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Excel |
・社内にテンプレートが蓄積されており使い回しやすい |
・単発/小規模プロジェクト |
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Googleスプレッドシート |
・リアルタイムでの共同編集に強い |
・複数メンバーが頻繁に更新するプロジェクト |
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プロジェクト管理ツール |
・WBSとガントチャートを連動して管理できる |
・中〜大規模プロジェクト |
プロジェクトの規模や体制、関係者の数に応じて、テンプレート形式を使い分けることが、運用のしやすさにつながります。
テンプレートを自社向けにカスタマイズする際の注意点(過不足の調整・階層の深さなど)
WBSテンプレートは、そのまま流用するのではなく、プロジェクト特性に合わせて調整することが重要です。特に、「階層が深すぎないか」「不要なタスクが含まれていないか」「必要な項目が不足していないか」といった点を確認する必要があります。
階層が細かすぎると管理負荷が増し、逆に粗すぎると進捗状況を把握しにくくなります。そのため、全体で分解粒度を揃えることがポイントです。また、他プロジェクトのテンプレートを流用する場合も、成果物や前提条件の違いによって齟齬が生じやすいため注意が必要です。
自社標準としてテンプレートを運用する場合は、フェーズ定義や分解粒度の基準をガイドラインとして明文化しておくと、プロジェクト間の品質差を抑えやすくなります。
WBSとガントチャートの違い

WBSとガントチャートはいずれもプロジェクト管理に欠かせない手法ですが、担う役割や使うタイミングは異なります。
端的に言えば、WBSは「やるべき作業を洗い出すための図」、ガントチャートは「その作業を時間軸に配置するための図」です。両者を正しく使い分けることで、計画段階での抜け漏れを防ぎつつ、実行フェーズの管理もしやすくなります。
WBS=「やるべき作業の構造化」
WBSは、プロジェクトで必要となる作業を成果物ベースで分解し、階層構造として整理する手法です。目的は、「何をやるのか(What)」を漏れなく定義することにあり、時間軸やスケジュールの概念は基本的に扱いません。
フェーズ→作業→タスクと段階的に分解することで、プロジェクト全体の構造が明確になり、作業の抜け漏れ防止や役割分担の整理に役立ちます。また、見積もり精度の向上にも寄与するため、計画立案の初期段階で必ず押さえておきたいプロセスです。
ガントチャート=「スケジュール・依存関係の可視化」
ガントチャートは、WBSで洗い出した作業を時間軸に落とし込み、開始日・終了日・期間・担当者などを視覚的に示すための図です。タスク同士の依存関係(例:ある作業が完了してから次の作業が開始される関係)も、線で視覚的に表現できます。
加えて、リソース配分の確認や進捗率の把握、クリティカルパスの特定にも有効で、実行フェーズにおける調整を効率化します。変更が発生した場合でも影響範囲を把握しやすく、スケジュール修正を迅速に行える点も特長です。
両者を併用することで計画精度が高まる理由
WBSとガントチャートは用途こそ異なりますが、相互に補完し合う関係にあります。
WBSで作業内容を丁寧に定義しておくことで、ガントチャート作成時のタスク抜け漏れを防ぎやすくなり、後から破綻しにくい計画を立てられます。一方、ガントチャートを用いれば、期間や順序、依存関係の妥当性を検証できるのです。
つまり、WBSは「計画の土台」、ガントチャートは「実現可能性を検証するツール」という位置付けです。両者を行き来しながら作り込むことで、現実的で運用しやすいプロジェクト計画に仕上がります。
WBS作成はプロジェクト管理ツールのLychee Redmineがおすすめ

プロジェクト管理ツールは、各社から様々な製品が提供されています。その中で効率的にWBSを作成する際は、日本国内7,000社以上で導入されるプロジェクト管理ツールのLychee Redmineがおすすめです。
Lychee Redmineの特徴は、タスク分解(WBS)からスケジュール編成(ガントチャート)までを一画面で編集し、依存関係・担当・期限を素早く更新できることです。「WBSで設計→ガントチャートで展開」がスムーズで、効率的に運用できます。
また、WBSによって整理した内容をチケット化して管理し、タスクの見える化に役立てることも可能です。
さらに、WBSへの対応はもちろん、下記の豊富な機能を搭載しています。
- ガントチャート
- カンバン
- タイムマネジメント
- リソースマネジメント
- EVM
- CCPM
上記のように多機能でありながら、IT初心者でも扱いやすいシンプルなUI設計であることも特徴の一つです。簡単な操作性で、初めて扱う方でも直感的に操作することが可能です。ドラッグ&ドロップや右クリックなど、基本的な操作のみで扱えます。
Lychee Redmineの月額料金は以下の通りです。
| プラン | 月額料金 | 利用機能 |
| フリー | 無料 |
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| スタンダード | 900円 |
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| プレミアム | 1,400円 |
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| ビジネス[無料トライアルはこちらをお試しできます] | 2,100円 |
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ソフトウェア開発や製造業、自動車関連業など業種・業界、チームの規模を問わず様々な企業で利用されているLychee Redmineでは、全プラン30日間無料のトライアルを実施しています。ぜひこの機会に使い勝手を試してみてください。
WBSを作成しプロジェクトを成功させよう

WBSは、プロジェクトを段階的に細分化し、粒度や順序を揃えたりツリー構造として整理したりする手法です。タスクの抜け漏れを防ぎながら、合理的で再現性の高いプロジェクト計画を策定できます。
一方で、WBSの作成や運用には一定の時間と手間がかかる点も事実です。Lychee Redmineのような専用ツールを活用すれば、チケット管理やガントチャートと連動させながら、実務に即したWBSを効率よく構築できます。
Lychee Redmineでは、30日間の無料トライアルを提供しています。実際のプロジェクトで使い勝手を確認しながら、WBS運用の改善にぜひお役立てください。
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