プロジェクト管理の分野で広く知られる「PMBOK(Project Management Body of Knowledge)」は、プロジェクトマネジメントの手法を体系化したガイドラインです。

プロジェクトの成功に必要な知識や技術をまとめたこのガイドは、多くの企業やプロジェクトマネージャーにとって欠かせないツールとなっています。

2021年に発行された第7版では、従来のプロセス重視のアプローチから原則重視のアプローチへと大きな転換が図られ、プロジェクト管理の新しい時代を示すものとなりました。本記事では、PMBOKの概要と第7版での主な変更点について詳しく解説します。

PMBOKとは

PMBOKは「ピンボック」と読み、プロジェクトマネジメントを遂行するために必要な基準や、参考となる知識体系をまとめたものです。

制作したのは米国のプロジェクトマネジメント協会(PMI)で、プロジェクトマネジメントの普及拡大を目的に発行されました。内容は約4年ごとに改訂され、現在ではプロジェクトマネジメントの世界標準として世界各国に浸透しています。

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PMBOKの目的

PMBOKの目的は、プロジェクトにおけるQCD(品質・費用・納期)を達成することです。これらの達成は、プロジェクトマネジメントの効率化と標準化を図る上で重要です。

なお、最新版のPMBOK7版では、ビジネスを取り巻く環境の変化やプロジェクトに対する関わり方の多様化などの点から、目的が「QCDの達成」から「価値の提供」へと変更されています。

PMBOK第6版の構成要素

第6版までのPMBOKは、プロジェクトマネジメントを下記のように体系化して解説しています。

  • 10の知識エリア
  • 5つのプロセス

前提としてPMBOK第6版の内容を知っておくことで、第7版と具体的にどこが変化したかがより深く理解できるはずです。以下でそれぞれについて解説します。

10の知識エリア

10の知識エリアの主な内容は、下記の通りです。

10の知識エリアの項目 内容
Q(品質管理) プロセスや成果物の品質を高く保つための品質管理
C(コスト管理) 予算内でプロジェクトを終えるための費用管理
D(スケジュール管理) 高い生産性を保つスケジュール計画
スコープ管理 仕事の範囲と成果物がを明確にするマネジメント
資源管理 プロジェクトを完成するための人材や物資(ヒトとモノ)の管理
コミュニケーション管理 プロジェクトの情報共有管理
リスク管理 プロジェクトの遂行プロセスで発生するリスクの予測・回避・対処
調達管理 プロジェクトを進める上で必要なサービスやツールの調達管理
ステークホルダー管理 クライアント・経営層・社内関係部署などのプロジェクトに関係するステークホルダー(利害関係者)との情報共有管理
総合管理 他の9つのエリアを統合する全体管理

プロジェクトの最終目的であるQ(品質管理)、C(コスト管理)、D(スケジュール管理)に加えて、目的達成において必要なプロセスである「スコープ管理」、「資源管理」、「コミュニケーション管理」、「リスク管理」、「調達管理」、「ステークホルダー管理」さらに全体を管理するのに必要な「統合管理」が加わっていることが特徴です。

5つのプロセス

PMBOKではプロジェクトの開始から終了までの流れを、以下5つのプロセスに分けて解説しています。

  • 立ち上げ
  • 計画
  • 実行
  • 監視・管理
  • 終結

各知識エリアに対して、どのプロセスで何を作成・管理すべきかが定義されていることが特徴です。

PMBOK第7版の内容が第6版までと異なる背景

PMBOKの内容が大幅に変更された背景には、これまでのPMBOKの内容では、現在のプロジェクトを取り巻く環境に対応できなくなってきたことが挙げられます。

近年は、プロジェクトを取り巻く環境、制約や前提条件は常に変化し続けています。そして、企業は変化を柔軟に受け入れ、適応していくことが求められているのが現状です。

また、そのような状況の中で、「対話・協調・変化への対応」という価値観を持つアジャイル開発を取り入れる企業も増えてきています。

第6版までのPMBOKは、計画段階で内容が固まっているウォーターフォール開発を意識したものでした。しかし、プロジェクトの進行の仕方はアジャイル型やハイブリッド型など多様化しています。こうした現在の開発環境に適応するために、内容を大きく変えたのが第7版です。

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PMBOK第6版までと第7版の変更点

PMBOK6版までと7版の変更点は、下記の通りです。

  • 5つのプロセスから12の原則へ変更
  • 10の知識エリアから8つの行動領域へ変更
  • PMBOK6版までの内容はデジタルプラットフォームへ移行

先述の通りPMBOK7版では、最終目的をこれまでの「成果物の提供」から「価値の提供」へ変更しており、その他にもいくつかの点を改定しています。それぞれの内容について、以下で詳しく解説します。

5つのプロセスから12の原則へ変更

PMBOK第7版では「5つのプロセス」という概念が消え、「12の原則」という概念が登場しました。「プロセス重視」から「原理・原則の重視」へ概念が変更され、より現実的な考え方になっています。

12の原則は以下の通りです。

  • スチュワードシップ(請け負ったことを責任を持って行う)
  • お互いを尊重し協力し合うチーム
  • ステークホルダー(利害関係者)との連携
  • 価値の創造に焦点を当てる
  • 包括的思考:システムの相互作用を認識して対応する
  • リーダーシップ
  • テーラリング(状況に応じた調整や仕立て直しを図る)
  • 品質をプロセスと結果に組み込む
  • 事態の複雑さに対処、適応する
  • リスク(好機と脅威の不確実性)に対処する
  • 適応性と回復力を備える
  • 変化することであるべき未来を達成する

これらの原則はプロジェクトマネジメントにおける成功のための、基本的な考え方や行動指針を示しています。

10の知識エリアから8つの行動領域へ変更

第7版では「10の知識エリア」という概念がなくなり、「8のパフォーマンス・ドメイン(Performance Domains)」という概念が登場しています。

8つのパフォーマンス・ドメインは下記の通りです。

  • Stakeholders(利害関係者)
  • Team(チーム)
  • Development Approach and Life cycle(開発アプローチとライフサイクル)
  • Planning(計画)
  • Project work(プロジェクト作業)
  • Delivery(提供・納品)
  • Measurement(測定)
  • Uncertainty(曖昧さ・複雑さ・変動性などの不確実性への対処)

これらの行動領域は、プロジェクトを効果的に運営し、価値を提供するために必要な重要な側面をカバーしています。

PMBOK6版までの内容はデジタルプラットフォームへ移行

PMBOK第6版までの内容は、「PMI Standards+」というデジタルコンテンツプラットフォームに移管されています。これにより、過去のバージョンのPMBOKガイドや他のプロジェクトマネジメント標準を、引き続き参照することが可能です。

また、PMI Standards+では、PMBOK以外のプロジェクトマネジメント関連の標準やガイドラインも提供されています。より包括的な知識基盤となっていることが特徴です。

参照:PMI Standards+

PMBOKを活用する際の注意点

PMBOKを活用する際の注意点は、下記の通りです。

  • PMBOK7版の内容はPMP試験には反映されていない(2024年6月時点)
  • PMBOKだけに頼りすぎない

具体的な内容について、以下で解説します。

PMBOK7版の内容はPMP試験には反映されていない(2024年6月時点)

PMBOK7版の内容は、PMP(Project Management Professional)試験にはまだ反映されていません(2024年6月時点)。

PMP試験とは、プロジェクトマネジメントの分野で国際的に認知された資格で、PMBOKガイドを基準として実施されています。現在、最新版であるPMBOK第7版が発行されていますが、PMI日本支部は「PMP試験の準備には第6版を参考にすれば十分である」という見解を示しています。

PMBOKだけに頼りすぎない

PMBOKは包括的なプロジェクトマネジメントの知識体系ですが、その性質はあくまでも理論的なものであるため、PMBOKだけに頼りすぎない意識を持ちましょう。

PMBOKを深く学んだとしても、それだけでは現場での実践的な活用は難しい場合が多くあります。PMBOKは主に知識の集積として機能している点から、実際のプロジェクト環境の多様性や複雑性を完全に網羅することは困難だからです。実際の現場で活用するためには、状況に応じた柔軟な適用や、プロジェクトマネジメントをサポートするツールの使用がおすすめです。

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