プロジェクトを成功に導くには、リスク管理が欠かせません。PMBOKはプロジェクト管理の国際標準として採用されており、リスク管理は重要な知識エリアの一つとして位置づけられています。

PMBOKにおけるリスク管理は、プロジェクトの成功を脅かす可能性のあるリスクの特定や適切な管理を目的とした体系的なプロセスです。

本記事では、PMBOKに基づくリスク管理の基本知識と重要性を解説します。リスク管理表の具体的な作成プロセスや注意点も紹介しているので、自社のプロジェクト管理にお役立てください。

PMBOKとリスク管理の基礎知識

まずは、PMBOKとリスク管理に関して知っておきたい基本的な情報を紹介します。

PMBOKとは

PMBOK(ピンボック)とは、プロジェクトマネジメントに関する知識の枠組みを体系的にまとめたガイドラインを指します。「Project Management Body of Knowledge」の略称です。

アメリカのPMI(プロジェクトマネジメント協会)が1996年に初版を発行して以来、約4年ごとに改訂されています。プロジェクトマネジメントの国際標準として認知されており、PMP(PMIが認定する国際資格)の取得を目指す人々にとって重要な学習教材です。

最新バージョンの第7版は2021年に公開され、以前の第6版と比較して内容が大きく変更されました。具体的には、PMBOKが重視するポイントが「QCD(品質、コスト、納期)の達成」から「価値の提供」へとシフトしています。

また、プロジェクト管理手法も、従来のウォーターフォール型から柔軟性の高いアジャイル型のアプローチに重点が移りました。2021年の改訂は、プロジェクトマネジメントの分野における新たな価値観や実践手法を反映したものとして注目されています。

リスク管理とは

本記事では、PMBOKにおける「リスク・マネジメント」をリスク管理として取り扱います。

リスク管理は、想定されるリスクが起こらないように原因となる事象の防止策を検討し、実行に移すプロセスです。想定されるあらゆるリスクを徹底的に洗い出し、リスクが発生したらいかなる影響があるかを分析します。

企業では、リスクに対して排除以外の対策も検討されます。なぜなら、事業拡大をはじめある程度のリスクを想定しながら推し進めるべき場面もあるからです。

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PMBOKにおけるリスク管理の原則(第7版)

PMBOK第7版では、プロジェクトマネジメントの基本となる12の原則が示されており、リスクマネジメントに関する指針も含まれています。

10番目の原則として、リスク対応の最適化があります。プロジェクトにおける不確実性への対処法や、リスクを効果的に管理する方法について説明されています。

リスクはプロジェクトにポジティブな影響をもたらす場合もあれば、ネガティブな結果を引き起こすこともあります。そのため、リスクを継続的に評価し、適切な対策を講じなければなりません。

リスク管理を行う際は、まず対応基準の明確な設定が重要です。リスクの大きさや対応の優先順位、コストパフォーマンス、実現可能性などを総合的に判断し、対応が必要なリスクを選定します。

さらに、関係者全員がリスクを認識しているか、リスク対応の責任者が明確になっているかの確認も不可欠です。ビジネス機会につながるリスクは積極的に活用し、逆に脅威となるリスクについては損失を最小限に抑える戦略の策定が理想的です。

PMBOKにおけるリスク管理表作成の6つのプロセス(第6版)

リスクマネジメントの具体的なプロセスは、PMBOK第6版で説明されています。本章では、第6版の内容を参考にリスク管理表の作成方法およびマネジメントの進め方を6つのプロセスに分けて解説します。

1.リスク・マネジメントの計画

まずは、プロジェクト全体で採用するリスク管理の手法を明確に定義します。そして、リスク管理表の土台を作成しましょう。

リスク管理表にリスク管理のアプローチや体制をまとめ、リスク対応を効果的かつ組織的に進める基盤を整えます。具体的には、使用するツールやデータソース、メンバーの役割・責任分担、リスクの発生タイミングなどを記載しましょう。

リスク管理表の作成は、プロジェクト計画の初期段階で実施されるのが理想です。リスクに対する全体の方針を明確にしておけば、プロジェクトのスムーズな進行につながります。

2.リスクの特定

次に、プロジェクトの目標達成に影響を与える可能性のあるリスクを洗い出し、リスク管理表に記載するプロセスです。

リスクの特定は、一度実施して終わりにすべきではありません。プロジェクトが進むにつれて状況が変化するので、定期的な見直しと更新が求められます。

3.リスクの定性的分析

リスクの定性的分析では、リスクを危険性や影響力といった数値化しにくい観点から評価します。リスクを具体的に数値で示すのが難しい場合、アンケートや評価基準を活用して根拠となる指標を導き出しましょう。

定性的分析で得られた結果は、後に行う定量的分析の基礎データとして活用され、より精緻なリスク評価に役立ちます。

4.リスクの定量的分析

リスクの定量分析は、数値化可能なデータを基にリスクを評価するプロセスです。バグの発生件数や関連コスト、定性的分析で得られた評価指標を用いて詳細に分析します。

定性的分析の結果、危険性が高いと判断されたリスクについては優先順位を上げて深掘りします。そして、影響の大きさや発生確率を数値で明確にしましょう。

5.リスク対応策の計画・実行

各リスクに対する具体的な対策策を計画し、リスク管理表に記載します。そして、計画にしたがって、リスクへの対応を行いましょう。

脅威に対するリスク対応方法としては、主に以下が挙げられます。

  • 回避:脅威の原因の除去、スコープの縮小、プロジェクトの中止など
  • 転嫁:リスクのオーナーシップを第三者(保険、外部委託、など)に移転
  • 軽減:発生確率や脅威の影響度の軽減、全体のリスクレベルの変更
  • 受容:脅威の結果の受け入れ(積極的なリスク対応戦略が不可能な場合に行う)

受容以外の能動的な対応は、リスク発生前に実施する必要があるので、担当者や期限を決めて計画的に進めます。

6.リスクの監視

プロジェクトの進行中には、計画が適切に実行されているかや、策定した対応策が有効に機能しているかなどを定期的に検証しましょう。既存のリスクの状態を正確に把握できる上に、新たなリスクが発生した場合でも迅速かつ適切に対応できます。

参考:日本プロジェクトマネジメント協会「PMBOK ®ガイド 第6版概要解説」

PMBOKのリスク管理をプロジェクトに用いる際の注意点

PMBOKのリスク管理プロセスは、プロジェクトの成功率を高める上で重要なフレームワークです。しかし、適切に活用するには、いくつかの注意点を理解しておく必要があります。

本章では、リスク管理を実施する際に直面しやすい課題と克服するポイントを解説します。

実務で活用するにはカスタマイズが求められる

「PMBOKは実務で使えない」との声を耳にし、本当にそうなのか疑問に思う方も少なくありません。結論としては、PMBOKはプロジェクトごとに調整を加えれば実務に活用可能です。

上記の調整作業は、テーラリングと呼ばれます。PMBOKの標準フレームワークを各プロジェクトの特徴やニーズに合わせてカスタマイズする作業を意味します。

PMBOKには抽象的な内容が多く含まれています。プロジェクトの状況や要件を把握し、PMBOKに示されている手法・プロセスから必要な部分を選択して適用すれば、実務で効果的に機能します。

テーラリングを適切に実施すれば、PMBOKは実用的なツールとしてプロジェクト成功に貢献します。

リスク管理の効率化にはプロジェクト管理ツールを活用する

プロジェクト管理には、人員、時間、費用といったリソースが必要不可欠です。さらに、プロジェクトが大規模化するにつれ、関わるステークホルダーの数も増加します。

結果として、関係者間で意見の食い違いや方向性の不一致が生じやすくなり、調整が一層難しくなる場合があります。こうした課題に対応し、限られたリソースの中でプロジェクト管理を効率化するには、プロジェクト管理ツールの活用が効果的です。

プロジェクト管理ツールを導入すれば、プロジェクトの進捗をスムーズに把握・調整でき、全体の生産性向上にも寄与します。

数あるプロジェクト管理ツールの中でも、Lychee Redmineの活用がおすすめです。リスク管理に役立つ「ガントチャート」や「カスタムフィールド」などの機能を備えています。

ガントチャートでは、プロジェクトのスケジュールを視覚的に管理可能です。リスクが発生しそうなタスクや遅延が一目でわかります。

また、カスタムフィールドはリスクの詳細な情報を記録し、特定のリスクに対する対応策を明確にします。プロジェクトマネージャーは早期にリスクを把握し、適切な対策を講じることが可能です。

フリープランは基本機能(ワークフロー・通知設定・ファイル共有・Wiki)とカンバン機能のみに限定されていますが、有料プランはガントチャートをはじめすべての機能が利用できます。

30日間の無料トライアルを実施しているので、リスク管理ができるツールの導入を検討している方は、ぜひ無料で試してみてください。

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PMBOKにおけるリスク管理の考え方は、プロジェクトの成功確率を高める上で効果的なフレームワークです。リスクを適切に特定・分析し、対応策を講じれば、プロジェクトの進行をスムーズにし、トラブルの可能性を大幅に低減できます。

しかし、大規模プロジェクトの場合は関わる人数が多く、利害関係者の数も必然的に増えます。限られたリソースの中でプロジェクト管理を効率化するには、専用ツールの活用を検討しましょう。

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