近年、ソフトウェア開発の手法として、アジャイル開発やスクラムに注目が集まっています。
その中で、開発初期段階における要件整理に「ユーザーストーリーマップ」などを用いる企業が増えてきました。
これはユーザーの行動を時系列に並べて整理する手法で、開発するプロダクトの全体像を理解したり、プロダクトバックログを作成したりするうえで大いに役立ちます。
そこで今回は、ユーザーストーリーマップとは何か、ユーザーストーリーマップを作成する方法やおすすめのツールなどをご紹介します。
ユーザーストーリーマップとは
ユーザーストーリーマップとは、アジャイル開発やスクラムといったソフトウェア開発手法で使用されるツールの一つです。
商品・サービスのユーザー視点から見た行動・体験を時間軸に沿って視覚的にマッピングしたものを指します。
ユーザーストーリーマップの特徴の一つは、その全体像から商品・サービスがユーザーにどのような体験を提供するかを把握しやすい点にあります。
具体的なユーザーの行動・ニーズを列挙し、それらを時間軸に沿って整理することで、開発者はユーザーがどのような経緯で商品・サービスを使用するのか、その全体像を掴むことが可能です。
これらは、プロダクトバックログを作成したり、開発の優先順位を決定したりするうえで役立ちます。
ユーザー中心の商品・サービス開発を目指す企業にとって、ユーザーストーリーマップは必須のツールとも言えるでしょう。
ユーザーストーリーとは
ユーザーストーリーとは、主にアジャイル開発やスクラムの中で使用されるもので、開発する製品や機能をユーザーの視点で説明する短い文章のことです。一般的に「〜というユーザーが、〜という目的で、〜という機能を使いたい」といった形式を取ることが多いです。
この表現方法を用いることで、開発チームはユーザーがどのような価値を求めているのか理解しやすくなります。そして、ユーザーストーリーマップは、ユーザーストーリーを体系的に整理し、全体像を理解しやすくしたツールです。
ユーザーストーリーとユーザーストーリーマップは、いずれもユーザー目線での開発を進めるうえで重要な要素と言えるでしょう。
カスタマージャーニーマップとの違い
ユーザーストーリーマップとカスタマージャーニーマップは、どちらもユーザー中心の開発やサービス改善に有用なツールですが、その目的と活用シーンが異なります。
カスタマージャーニーマップとは、商品・サービスの購入までのユーザーの行動パターンを思考・感情も踏まえて分析するためのツールのことです。
主に、マーケティングの分野で活用されています。
カスタマージャーニーマップには、ユーザーの感情の変化やタッチポイントが含まれており、ユーザーの体験を深く理解し、問題点を発見するうえで役立ちます。
一方、ユーザーストーリーマップは、商品・サービスがユーザーに与える価値を理解し、それに基づいて開発を進めるためのツールです。
主に商品企画や開発を行うシーンで活用されています。
ユーザーストーリーマップは開発の初期段階で要件を整理するために作成し、それをもとに基本設計・ワイヤーフレーム構築などを実施するケースが多いです。
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ユーザーストーリーマップを作成する目的
本章では、ユーザーストーリーマップを作成する目的のうち代表的な3つの項目をピックアップし、順番に解説します。
1. 本当に必要な機能・要件を見極められる
ユーザーストーリーマップを活用することで、ユーザーが本当に求めている機能・要件を見極めやすくなります。
これにより、ユーザーにとって価値のある機能を最小限に絞った製品(MVP)の作成をスムーズに進めることが可能です。
MVP(Minimum Viable Product)とは、想定するユーザーに対して「コアとなる価値」を提供し、有効なフィードバックが得られるだけの最小限の機能を持つ製品のことです。
MVPでは、仮説に基づいたコアとなる最小限の機能を低コスト・短期間で実装し、それを用いてユーザーからフィードバックを得ることで、低リスクかつスピーディーな検証が可能となります。
ユーザーストーリーマップをもとにMVPを作ることで、製品の初回リリースに必要な要素を可視化でき、製品開発の方向性を明確にすることが可能です。
2. 開発順序や優先順位を決める
ユーザーストーリーマップは、開発の優先順位を決めるうえでも役立ちます。
ユーザーストーリーマップをもとにユーザー・市場からの反応を予測することで、「これがないと製品として成立しない」という最低限の要素を発見できます。
加えて、その中でも顧客が何を重視するかを把握できるようになり、製品開発をスムーズに進めることが可能です。
3. プロダクト・プロジェクトの方向性を示す指標となる
プロダクトを開発する際に最も重要なことは、ユーザーに対して製品が提供する価値を実感してもらうことです。
これを達成するためには、製品がどのようにユーザーの行動に影響を与え、どのような価値を提供するのかを明確に理解することが必要です。
ユーザーストーリーマップを用いると、ユーザーの行動パターンと製品が提供する価値を視覚的に整理でき、開発メンバー全員が製品の価値を理解しやすくなります。
これにより、製品・プロジェクトの進行方向を明確にすることが可能です。
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ユーザーストーリーマップ作成に関与するメンバー
ユーザーストーリーマップの作成に関与すべき人は、製品開発に関わるメンバーによって変わります。
一般的には、以下のようなメンバーが参加することが多いです。
- UX/UIチーム
- プロダクトマネージャー
- 営業チーム
- マーケティングチーム
- カスタマーサービスやカスタマーサポートチーム
- エンジニアリングチーム
- IT部門
- 法務部
- 財務チーム
このような幅広い部署の視点から得られるフィードバックや意見は、製品の質を高めるうえで非常に価値のあるものとなります。
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ユーザーストーリーマップを作成する方法
本章では、ユーザーストーリーマップを作成するための基本的な方法を5つのステップに分けて順番に解説します。
1.ペルソナの設定
最初に、製品やサービスを使うであろう「ペルソナ」を設定します。
ペルソナとは、実際のユーザーを具体的に想像できるよう描き出した仮想的なユーザー像のことです。
複数のペルソナが想定される場合、それぞれのペルソナに合わせてユーザーストーリーマップを作成します。
ユーザーストーリーマップの作成をより有効に進めるためには、ペルソナの詳細を深掘りすることが大切です。
性別・年齢だけでなく、趣味・行動パターン・生活スタイル・思考パターンといった要素まで細かく考慮すると、ペルソナがより鮮明になり、製品開発における意思決定をより効果的に行えます。
2.ユーザーの行動の並べ替え
設定したペルソナの行動を時系列に並べます。
システム開発の場合、例えば以下のような時系列に並べ替えます。
- アカウント作成
- ログイン
- マイページ編集
- ログアウト
ペルソナの行動の中で粒度の大きいものがあれば、それを細かく分解してサブカテゴリーを作成するとよいでしょう。
3.必要な機能・プロダクトのマッピング
ユーザーストーリーをきちんと整理できたら、次はユーザーの各行動にプロダクト・機能を関連付けていく「マッピング」のステップに移行します。
具体的には、「ユーザーの各行動に対してどのような価値を我々の製品が提供できるのか」「提供したい価値は何か」などを検討しましょう。
これらのアイディアを自由に書き出していきます。
4.開発の優先順位・MVPの決定
ユーザーストーリーマップが完成したら、それを見ながらユーザーに対して提供したい価値について再度話し合いましょう。
具体的には、「顧客に好評を得るために絶対に必要な機能は何か」「市場で競争力を持つためにはどのような要素が重要か」などを考え、各項目について採用するか見送るかを決めていきます。
その結果、開発すべきものの優先順位が明確になり、初めて製品をリリースする際に最低限含めるべき機能(MVP)も見えてきます。
MVPが決まったら、もう一度ユーザーストーリーを確認し、提供したい価値とのギャップがないかチェックしましょう。
5.プロジェクトの課題やタスクの整理
ユーザーストーリーマップは、大まかな開発順序やMVPを決めるうえで役立つ手法ですが、具体的な要件定義やタスク設計まで十分にカバーできるツールではありません。
したがって、ユーザーストーリーマップが完成したら、これを基盤として各項目の開発計画(規模、課題、タスクなど)を詳細に整理します。
そのうえで、改めて開発の優先順位を見直し、最も重要なものから詳細な要求を明確にし、設計を進めていきます。
これにより、効率的かつ具体的な開発プロセスを進められるでしょう。
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ユーザーストーリーマップ作成後のステップ
ユーザーストーリーマップを完成させたら、その内容を関連するステークホルダーに共有します。
この段階では確定版ではないため、必要ならばステークホルダーの意見をもとに変更・修正を加えましょう。
ステークホルダーがユーザーストーリーマップに同意したとき、それが最終版となり、開発チームはその指針に基づいて開発作業を開始します。
この段階では、例えば以下のようなツールが役立ちます。
- プロダクトバックログ:要件に基づいて開発チームが行う作業に優先順位を設定したリスト
- プロダクトロードマップ:製品のビジョン・方向性・優先順位・進捗の概要を示すもの
- スクラムボード:それぞれのタスクの担当者を可視化し、進行中・完了・未着手のタスクそれぞれを明確化できるツール
ユーザーストーリーマップ作成に役立つツール
昨今、ユーザーストーリーマップを簡単に作成できるツールが数多くリリースされています。
例えば、「Lucidspark」や「Miro」といったツールです。
これらのツールには、ユーザーストーリーマップを簡単に作成できるテンプレートが備わっています。
ユーザーストーリーマップに関するアイデア・タスクを1箇所にまとめておけるほか、付箋機能やコメント機能なども備わっているため、離れた場所にいるメンバーとも容易かつリアルタイムに情報共有が行えます。
ユーザーストーリーマップの作成に慣れていないという場合には、上記のようなツールを活用してみるのもよいでしょう。
ユーザーストーリーマップの作成・活用事例
最後に、実際にユーザーストーリーマップを作成・活用している企業の事例を2つご紹介します。
一つ目は、アソビュー株式会社の事例です。
アソビューでは、さまざまなプロジェクトでユーザーストーリーマップを活用しています。
その一つに、既存のSaaSシステムの統合や機能拡充を目的に、既存の業務プロセスに対して新しいアプリケーションを開発するプロジェクトがあげられます。
ユーザーストーリーマップを活用した結果、以下のようなメリットを得ています。
- メンバーに対する業務理解とアウトプットを同時に行える
- オンライン環境におけるコミュニケーションが活発化した
参照:アソビュー株式会社「アソビューのとある大規模プロジェクトにおけるユーザーストーリーマッピング活用事例」
二つ目は、atama plus株式会社の事例です。
atama plusでは、アジャイルのアプローチ、ユーザーファーストの考え方を大切にしており、その一環でユーザーストーリーマップのワークショップを社内で実践しています。
その結果、以下のようなメリットを得ています。
- チーム全員がプロダクトの全体像を理解できる
- 顧客の抱える悩み・課題がある箇所を把握できる
- 次の段階につながるMVPを定義できる
チーム全員でプロダクト開発における認識を共有するうえで、ユーザーストーリーマップの活用は大いに効果的だといえます。
参照:ProductZine「atama plusが実践する、アジャイル開発にユーザーリサーチを組み合わせて拡張した開発戦術とは」
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ユーザーストーリーマップとは、アジャイル開発やスクラムといったソフトウェア開発手法で使用されるツールの一つです。
開発するプロダクトの全体像を理解したり、プロダクトバックログを作成したりするうえで大いに役立ちます。
ツールを導入し、テンプレートや付箋・コメント機能などを活用しながら、ユーザーストーリーマップを効果的に作成しましょう。
なお、ユーザーストーリーマップの作成後、開発プロジェクトの進行管理をスムーズに進めていくうえでは、プロジェクト管理ツールの活用が効果的です。
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